鬼を討つモノ
京の都、鬼門の方角に「草柳」と呼ばれる場所があった。
元々は、その名の如く草と柳しか無い土地だったが、
時の帝の命により、賀茂氏の血族の一部が、都の霊的防御の為に集団で移り住み、
陰陽の技を駆使して造られた鎮守の館をその地に造り、根を下ろした。
そうして時が過ぎ、都に侵入を図るあらゆる魑魅魍魎を悉く討ち果たしてきたその一族は、
何時しか「草柳殿」の名で呼ばれる様になった。
度重なる実戦歴史が、一族から天才陰陽師を輩出する様になったのも自然であり、
そうして生まれた陰陽師達は、都で大いに武名を鳴らした。
だから仕方の無いことなのだろう。
まだ齢二十五にして、幼少より負け知らずの若い燕が、
三百年の時を生きてきた鬼女に、迂闊にも挑んでしまったのも…
青年は自身の戦歴と、一族の積み重ねてきた実績により、完全に天狗になっていたのだ。
若者は郎党、朋友合わせて十五名で鬼女に挑んだが、
かろうじて生き延びたのは彼一人であった。
それ以外は、悉く引き裂かれ、食われ、嬲り殺された。
青年は己の不明を恥じて、一族を出奔した。
己が左目の傷に誓って、何時か仇を討ち、雪辱を果たすと。
それから十年・・・
◇
月明かりがその水面を照らす湖の傍ら、
難しい顔つきで一人の男が空を睨んでいた。
藍で染めた直垂に、立烏帽子を被った中年の男である。
やや長めの顔をした、いかにも真面目そうな硬い顔立ちの男で、
烏帽子の下より覗く髪や、伸びた頬髭も、太い眉も、顔立ちそのまま、実に硬そうに見える。
男臭く、かつ硬質ではあっても、容貌容姿にはそこはかとなく上品さが感じられるが、
その左目蓋は閉じられ、その上には大きく醜い引っ掻き傷の様な物がある。
其れを付けたのは猛獣か何かか、
果たして、それはうら若く美しい娘の姿をした、
ちから強くして執念ふかく、勢い大磐石を覆すがごとし、
往来の人を採食し牛馬六畜を爪裂く恐るべき鬼女に付けられた物…
「いかぬな・・・・」
男、草柳重兵衛はそう小さく漏らした。
陰陽師であり、故に占星術に長けた重兵衛は、
星の動きを通じて、この場の『相』や、己の運気を占おうとしたのだが…
「星の動きが・・・まるで出鱈目とは・・・」
天の動きはまるで意味不明、
星の配置は子供の落書きの如しで、しかも見覚えのない星も数多、そのくせ・・・
「見える星は凶星ばかりとは・・・」
禍々しい赤い妖星“醐羅洲(ゴラス)”の如きを始め、
あらゆる妖星、凶星がこちらをあざ笑うかの如く満天に瞬いているのは、ある意味では絶景だった。
重兵衛は思わず溜息をついた。
ある程度予測はついていた事だった。
この湖畔の植生からして、日の本の国とはまるで違うことが、
諸国を足かけ十年放浪した重兵衛には瞬時に解ったからだ。
「・・・・・・」
殺人遊戯の会場とは思えぬ静かな湖面を、
暫くの間ジッと見ていた重兵衛だったが、
身を翻すと、すぐ傍の木に立て掛けていた、
己の身の丈ほどもある長太刀を肩に担いだ。
“呪煉鉄”なる銘を持つ、其れなりの歴史と霊力を持った野太刀だ。
礼刀なら兎も角、いささか剣として振るうには長すぎるが、無いよりはマシであろう。
「出来れば“蜘蛛斬り”を取り戻したい物だ…」
果たして、“蜘蛛斬り”は『ここ』にあるのか?
そればかりは重兵衛にも解らぬが、自分の刀ように、
この奇妙な袋に、「支給品」として誰かの手に渡っているかも知れない。
「許しがたき餓鬼畜生ども、斬って捨てるは我が血が定め…」
ここにいるという、念願の宿敵「鬼姫」、
この殺人遊戯を主催せし、唯人ならぬ銀の髪をした凶人と、
それに従う恐るべき眷属。
人を斬るのは仕事にあらねど、餓鬼畜生に慈悲は無用。
宿敵もろとも斬ってくれよう。
「師匠、見られい!“陰流”草柳重兵衛、推して参る」
脳裏に師匠、藍洲惟考斎(あいす いこうさい)の姿を脳裏に描きながら、
陰陽剣士、夜を往く。
唯、あやかしを討ち、世の人を守らんが為に。
【一日目・深夜/7-C 湖の畔】
【草柳重兵衛@陰陽魔道世界】
【状態】健康
【装備】 呪煉鉄
【道具】支給品一式
【思考】
基本:人に仇なす妖怪どもを斬る
1:鬼姫を探し出し、今度こそ倒す
2:アーク、テイルを倒す
3:蜘蛛斬りを探す
【名前】草柳重兵衛(くさなぎ じゅうべえ)
【性別】男
【年齢】35歳
【職業】妖怪狩りの陰陽剣士
【身体的特徴】中肉中背、青い直垂、左目に大きな引っ掻き傷
【性格】剛毅木訥
【趣味】星占い
【特技】陰流剣術、陰陽術、占星術
【経歴】昔は名のある陰陽師、鬼姫に敗北後、剣の修業を積む
【好きなもの・こと】剣術
【苦手なもの・こと】鬼姫
【特殊能力】優れた陰陽師にして陰流の使い手
【出身世界】陰陽魔道世界
【備考】
かつては京随一の陰陽師の一人だったが、
25の時、鬼姫に戦いを挑み、手痛い敗北を喫し、
左目を失うも、命からがら逃げ伸びた。
その後、鬼姫に勝つために、諸国を遍歴し、さる老人から
剣術「陰流」を習い、7年かけて免許皆伝となる。
その後、数々の妖怪を宝刀「蜘蛛斬り」で斬り殺し、打倒鬼姫の宿願を果たすべく、
10年ぶりに京都に帰還した。
【支給品名】呪煉鉄
【出身世界】非日常現代世界
【外見】身の丈以上の長さの日本刀。刀身には刃毀れが非常に多い
【効力】持ち主の傷を癒し、その傷を斬ったものに移し替える。だが、傷を移し替えるたびに自分が“傷を負わない確率”も同時に斬ってしまう(つまり、使えば使うほど傷つきやすい体質になる)
【備考】
澤村ゆかりの扱う魔道具の一つだが、彼女はこの道具を使うことを避けている。
現在は日高恭が所持
ある事件により瀕死の重傷を負った恭を救うためにゆかりが持ち主を彼に変える
ゆかりが恭を救ったのは、呪煉鉄を厄介払いするためと利用価値のある恭を手放したくなかったからだが、当の本人からは感謝をされている
前話
目次
次話