朱き糸が紡ぐ運命






(私・・・生きていたの?・・・私・・・・輝いてた?)
彼女の問いに答えるものはいない。
あの場所を出てから一緒にいたあの人は必ず戻るとだけ言ってどこかへ行ってしまった。
(月が・・・・・見たいな・・・)
思えばあの日も月が輝いていた。
あの月のように、川辺で光り輝いていた蛍のように・・・
「(そりゃ死んじまったら輝けないさ、そういうもんだからな・・・)」
あの人がそう教えてくれたから。
(私・・・・・・輝いてた?)
その答えを知りたくて、それだけで。
月を見ようとしてもおぶって外に連れ出してくれたあの人は傍にはいなくて。
月の輝きと自分を比べたら分かると思った。
自分が輝いていたか…それだけを知りたかった。
「私は・・・知りたい」
彼女が意識と失うのと彼女の体が光ったのは同時だった。

「・・・?どうした、エレン」
「人の気配がする・・・待ち伏せではないと思うけど」
気配を消そうという気がまるで見られない。
主催者側もエレンの存在には気づいているはずだ。
まさか武器庫襲撃という大それた事をしたエレンをマークしていないとは考えずらい。
「俺達以外の人間か・・・どっちに転ぶかわからん以上関わらん方がいいのかもしれないが」
勝沼紳一に既に襲われた小次郎は懲りているようで、慎重策を主張する。
「確認する・・・あなたは待っていて」
エレンがそう言うと小次郎は顔をしかめたが、エレンの意思が固い事を見てとると何も喋らなかった。
それを見て取るとゆっくりとエレンは気配の方向に向かっていった。

「小次郎!」
エレンの呼ぶ声がする。
どうやら危険はないらしい。
声の元に辿りつくと小次郎は目を張った。
そこには真っ白な着物を少女が倒れている。
刃物による傷・・・見たところ傷は大して深くはないが化膿がひどい。
ろくに手当てもしていなかったのだろう。
「まだ・・・助かる。薬を貸して」
利き腕が使えない小次郎に代わりエレンが傷の治療をする。
「こいつも誰かに襲われたか・・・」
「さあ・・・どうかしらね」
「・・・?ああ、成る程ね」
エレンはこう言いたいのだ。
誰かに襲われたのだとしても自分達がこの島に来てからの時間を考えると化膿するには早すぎる。
「私達より大分前にこの島にやってきたのか、それとも・・・」
「初めからその傷がついた状態でこの島に来たって事か」
「元々信用していない情報ではあったけれど、完全にデマカセだったみたいね」
魔王復活の為にこの島に人を集め殺し合わせる。
武器庫の番兵の言葉は完全に嘘であったと2人は確信した。

「・・・ここ・・・どこ?」
傷口の消毒をしているのでその痛みで目を覚ましたのだろう。
顔をしかめてはいるものの痛みの声一つあげない。
(第一声がその言葉とは・・・大したものね)
かつて麻酔なしで弾丸を摘出されたことがエレンにもあるがその痛みとは比べ物にならないだろうとはいえ
痛みに悲鳴一つあげない少女にエレンは感心する。
「あなたの質問には後で答えてあげるわ、今はじっとしてて」

「これでいいわ・・・これ以上悪化はしないでしょうし」
エレンは少女の傷の手当てを終えると先程の質問に答える。
「ここは・・・この島がどこにあるのかそれは私達にもわからない。わかっているのは誰かの意志で私達はここに呼ばれたというだけ」
あまりにも簡潔だがはっきりしているのは今の所これくらいだ。
しかし少女の期待する答えではなかったようだ。
治療に時間がかかり暗黒が支配した空を少女はただじっと見つめている。
「えっと・・・・・・あんた名前は?」
エレンは黙って少女を観察しているし、少女は少女で空を見ているだけだ。
状況が進まない。
「つき・・・」
「月?」
「ないんだね・・・」
「頼むから人の話を聞いてくれ・・・」
確かに空は曇っていて月は見えないが存在しないわけではないだろう。
空を見るのをやめ少女は小次郎の方を向くと首を振った。
(俺・・・馬鹿にされてるのか)
これは小次郎の話など聞くつもりなどないという事なのか。
(こういう餓鬼はちゃんと躾とかないと大変な事になるな・・・)
小次郎はパンチを放つ準備をする。
右手を使う必要もないだろう。
むしろ右で殴ったらまずい。

突然エレンの手が小次郎の左手に添えられる。
「なんだエレン。いいかこういう餓鬼はなちゃんと躾とかないと・・・」
「多分彼女はあなたの思っている意味でやってるんじゃないと思うわよ」
「なに?」
「そういうのないから・・・」
少女はそれだけを言った。
「名前がないって事か・・・」
どうやら小次郎が思った以上にヘビーな境遇らしい。
よく見ると片足を引きずって歩いている。
───腱が切られている。
(おいおい、これじゃあこいつろくに歩くことも・・・そういうことかよ)
少女がだいたい何をさせられていたのか理解できたのだ。
「人買い・・・」
エレンが吐き出すように言った。
この世にはそういった事を生業としている者も存在する。
ある者は娼婦として買われていき、そしてある者は科学者の『実験』の材料として───
そしてエレンは初めて自分が少女を助けた理由に気づいた。
玲二と違い不要な者は切り捨てるはずの自分がなぜ少女を助けたのか・・・
目の前の少女は、全てを失い人形として生きていた自分、何もなかったあの頃の自分そのものだった。

「小次郎」
「・・・なんだ」
真剣な表情をしたエレンと目が合う。
それでエレンの考えはわかった。
「言うまでもなくわかってると思うが・・・」
「ええ、いざという時にはあなただけでも逃げて」
正直目の前の少女は足手纏以外の何者でもない。
襲撃者が闊歩するこの島で自分達の身を守るのですら精一杯なのだ。
それを理解して上でエレンの意思は固い。
ならば小次郎が何を言っても意思が変わる事はないだろう。
「あと・・・」
「まだ何かあるのか?」
「この子に名前を付けてあげて。私ではいい名前は思い浮かばないから・・・」
小次郎は訳がわからず自分を見つめる少女を見て
「・・・プリン」
「は?」
思わずエレンは聞き返してしまう。
それは菓子の名前のはずだ───間違っても人間につける名ではない。
一瞬エレンは自分が聞き間違えたのと思ったが
「・・・お前の名前はプリンだ」
なんという名前を付けるのだろうこの男は。
あの無愛想な玲二ですらもう少しましな名前をつけたというのに。
「守るんだろ?こいつを。昔そう名乗った馬鹿がいてな・・事もあろうに俺なんかを頼ってきやがった。
そいつは今は俺なんか話もできないような身分だが・・・一度は守ったんだ。だからその名前を借りる」
エレンは小次郎を見る。
「天城小次郎・・・あなたは」
(自分も守るというの?この少女を・・・)
「こいつは俺がおぶって行く・・・あんたにはいざって時には戦ってもらわないといけないからな」

「・・・いいの?」
背中を見せた小次郎に少女──プリンは戸惑うが・・・
「話は聞いた通りだ。どうもあちらさんは意見を変える気はないようでね。っと。
だったら一番生き残る可能性が高い方法を取る。それだけだ」
言葉の途中でプリンを背に乗せると先導するエレンの後を歩き始める。

(私は・・・生きているの?)
彼女の疑問に答える者はいなかったが──感じる小次郎の体温は間違いなく彼女が生きている証であった。

【エレン@ファントムオブインフェルノ(ニトロ+)状態○ 招 所持品 ベレッタM92Fx2 ナイフ】
【天城小次郎@EVE〜burst error(シーズウェア)状態△(右腕負傷)狩 所持品 食料 水 医薬品 地図】
【名無しの少女(プリン)@銀色(ねこねこソフト)状態△ 片足の腱が切れている(絶対に治らない)? 所持品 赤い糸の髪留め】

【時間は全体放送前】



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