それぞれの想い
・・・で、・・・いい・・か
う・・・・ちず・・あっ・・・・・けど
先程見た負の感情の続きなんだろうか?
すぐ近くから声がする。
あー、つばさが死んだのが相当来てるのか、俺。
このまま彼岸の住人になってしまいそうだ。
奇特状態のお母様、先立つ不幸をお許し下さい。
もっとも順番関係なしにあんたは地獄に行きそうな気もするが。
舞人君は普段から善行を積んでおりますので当然行き先は天国です。
う・・・嘘ッじゃありませんっ!
もうマザー・テレサも裸足で逃げ出すくらい善行を積んでますから。
ええ・・・あ・・は・・・リニアが・・・み・・すから
声が段々鮮明に聞こえるようになってきたぞ。
いよいよ即身仏、桜井舞人が誕生するわけですな。
ああ、天国の門の入り口でつばさが待ってやがる。
い・・・意外にかわいいところあるじゃないか。
本人には絶対言えないけど。
そして段々2人の距離が縮まって手の届く範囲に・・・
よう、つばさ、俺もここに厄介なることになった。
俺がそういうとつばさはにっこり微笑んで・・・
「や、さくっち来るの早すぎだから。さっさと戻れ」
思いっきり蹴りを入れてくれた。
美由希が次はいつになるかわからないから、という理由で恭也とリニアにシャワーを浴びることを勧められ席をはずしている間
舞人の様子はリニアが傍らで見ていた。
恭也は椅子に座って刀を抱いたまま目を閉じてじっとしている。
(はあ・・・あんな風にしてたらリニアは眠ってしまいそうですけど、恭也さんはすごいですね)
そんな恭也の様を見ながらリニアはそんなことを思っていた。
方針を決めた後、屋敷内をうろついていても怪しまれないリニアが必要な物を集めて回った。
(実際なんでリニアはこんなことしてるんでしょうか・・・)
自分は給仕用アンドロイドだ。
主であるケルヴァンの命令だけ聞いていればそれでいいはずなのだが・・・
(何か忘れている気がするんですよね)
手元にあるのは目覚めた時に既に持っていたアナログの懐中時計。
いつどこで手に入れたものなのか覚えがない。
自分の仕事に必要な物とはとても思えない。
彼女という存在から懐中時計は明らかに浮いていた。
手持ち無沙汰でそれを見つめて見るが彼女が初めて見た時より時を刻んではいない。
ケルヴァンに目覚めさせられる前にも活動していたことがあるのか
それとも自分は不良品でそれで主に対しての忠誠心が欠如しているのか・・・
「あのアマァ!!」
思考の迷宮に突入しようとしていたリニアの耳に突如大声が響いた。
「むう、なんだつばさの奴この舞人様を足蹴にしておいて結局現世に送り返せなかったようだな」
リニアはあまりにも唐突な言動に只きょとんとしているばかりである。
「まさかこの桜井舞人の前にメイドというものが存在しているとは。これは正にここが天国であることの証明だな」
「は・・・はあ」
リニアはやっとのことでそれだけを言葉にする。
「・・・頭でもやられたのか、桜井。いや、元からこうだったような気もするな」
「む、なぜこのパラダイスに高町がいるんだ、ま、まさかここは地獄なのか・・・」
「一体どういう思考回路をしているんだお前は・・・」
「恭ちゃん?恭ちゃんも今のうちに浴びといた方が・・・」
シャワーを浴び終えた美由希が浴室から出てくる。
結構な大声であったにも関わらず美由希には舞人の声は聞こえていなかったらしい。
舞人と目が合う。
「あ、気がついたんですね。きょ・・・兄さんから聞いてます。高町美由希です、よろしくお願いしますね桜井さん」
舞人は傍らのメイド服の少女と部屋の内装を見て
「・・・すまん高町。全くわからん、天国と地獄が同居してるのか?ここは」
恭也も慣れたのかこの程度ではもはや動じたりせず冷静であった。
「最初から説明するぞ、いいか桜井・・・」
「つまり助かったわけだな・・・とりあえずは」
「俺と美由希はこの島から出る方法を探すが・・・改めてお前はどうする?
俺も美由希も魔力とかそういうものは一切心当たりがない。あるならあの牛を倒したお前の力だと思うが・・・」
魔力資質者ならば少なくとも命は助かる。
ある程度の待遇も保障されているらしい。
リニアから双子の少女の話を聞いた限りではそのように思う。
正直恭也の目から見て桜井舞人は戦いには全く向かない。
自分や美由希と比べるのが酷なのかもしれないがとても万全の調子であったとはいえないが自分を上回る剣士が存在するのだ。
それこそなんの鍛錬も積んでいない桜井では生き残れるかわからない。
だから舞人自身に判断を任せた。
高町は俺の答えを待っているようだ。
まあ、こういうものは深く考えてもしょうがないものだ。つばさでもそう言うだろう。
しかし端的に言ってこんな事をしでかした連中に従う気は毛頭ない。
せっかくつばさに助けられた命だ。
助けられた事も俺の中の妄想かもしれないが今はそれでも構わない。
つばさの事で泣くのは・・・助かってからでもいい。
まあそういう事で本来なら助かる事を第一に考えるべきなのかもしれないが・・・
それでもつばさが犠牲になったのはあいつらのせいなのだ。
少なくてもそんな奴らに従う事はできない。
「男桜井舞人。かように非道な真似をする連中の軍門に下る気はありませんよ?」
「・・・そうか」
・・・やはりだ。高町を含めその妹、メイドに至るまで突っ込みの基礎がなってない。
後で突っ込みのなんたるかをちゃんと教えておくことにしよう。
そうしないと逆に息がつまってしょうがない。
あれ?本題はなんだったか?
ああ、俺の方針だったか。
うん、だったら言っておかないといけないことがあるな。
「それと高町・・・俺はもうあの変な力は使えないと思う。だからどの道こっから逃げる方法を探す方が安全だ」
「まあ、ああいう力には副作用みたいなものもあるからな・・・使わないに越したことはないだろう」
高町は高町で思うところがあるらしい。
まあ、力の方は使えるのかもしれないが・・・あの力の本質を知った俺にはもう使う気はない。
会話が一段落ついたと判断したのか美由希が口を開く。
「えっと、それでね恭ちゃんに・・・桜井さん。2人も今のうちに・・・」
だが美由希はその言葉を最後までいうことなく・・・素早く自分の刀、龍燐を手に取った。
龍燐を既に抜き放ち扉を睨みつけている。
恭也も無言で立ち上がり自分の刀を抜いている。
「2人とも静かにしてろ・・・」
だからこの展開は一体なんなんだ・・・あまりにも急展開すぎて混乱してきた。
やっぱりボケと突っ込みができてないせいだろう。
ぜっ、絶対にそうに決まってます!
「くっそ・・・やっぱり治まらねぇ!!行くぞカトラ!」
「スタリオン!ランスの兄貴の許しなく女に手出ししたらどうなるか・・・」
「なあカトラ。お前はそんな体してるからどうってことないのかもしれないけどよ、俺はもう我慢できねえ
それにランスがなんて言ってたってばれなきゃどうってことないさ」
「それはそうでヤンスが・・・よりにもよってケルヴァン司令お付のメイドじゃなくったって・・・」
カトラはむしろランスというよりケルヴァンの方を恐れているようだ。
「だからそれだって・・・ばれなきゃどうにでもなることさ。いくら司令だって結界内には使い魔は放ってないみたいだしな」
「メイドが直接ケルヴァン司令に言うとは考えないでヤンスか・・・」
スタリオンはそれを聞くとしたり顔になる。
「それは女の方を満足させてやれば文句だってでないさ、何も問題はないんだ心配するなカトラ」
「本当にいいんでヤンスかねぇ」
表情にこそ出ないが(出るわけもないが)それでもカトラは不安を消しきれない。
「だからお前は何も心配することは・・・っとメイドの部屋はここだったな」
部屋の前に立つとなんの躊躇もなくノブを回す。
「ス、スタリオン、ノックくらいするでヤンス」
「どうせすぐにベッドになだれ込むんだ、手間は少ない方がいいに決まってる」
そのままドアを開け放つ。
「このスタリオン様が直々に来てやったぞ、さあ始めようじゃ・・・ぐほぇ!!」
「スタリオン!?なんでヤンスかあんたら・・・あぎゃぁ!」
扉を開けた瞬間に美由希と恭也の攻撃で2人はあっさりと昏倒した。
「牛の次は馬か・・・次は猪でも出てきそうな感じだな」
「が・・・骸骨」
美由希はあまりに非現実的な相手の姿に戸惑っている。
取り合えず部屋の中に引きずりこんで縄で縛っておいた。
「妙な怪力で縄を引きちぎる・・・とかないよね?」
恭也から聞いた牛の怪物の話だとそれくらいはしそうなものだが・・・
「さすがにそれはないだろう・・・もう出てきていいぞ2人共」
恭也の声と共にベットの下からリニアと舞人が這い出してくる。
「いきなりはどうかと思うぞ高町。といってもこのなりじゃあこいつらも文句は言えないか」
「はあ・・・ケルヴァン様の部下の方はなんというか」
2人は首から上が馬の人物と鎧を着た骸骨を見てコメントに困っている。
(そういえば恭ちゃん・・・どうやって骸骨の方縛ったんだろう)
そんな疑問が美由希の頭を掠めたが・・・多分気にしない方がいいのだろう。
全力で疑問を打ち消した。
恭也は美由希の様子に少し妙な顔をしたが、恭也の方も気にしないことにしたようだ。
「俺達を始末しにきたのかと思ったがそれにしては無防備だったし、違ったようだな」
どの道この事がばれるのは時間の問題であろう。
行動するなら今すぐにしなければ。
「あ、恭ちゃん。なんか馬の・・・人がこれ持ってたよ」
美由希が差し出したのは島の地図であった。
「探す手間が省けた・・・か」
これで必要と思うものは一通り揃った。
「リニアちゃん・・・ありがとう。私達行くね」
「え?美由希さん・・・?」
リニアが戸惑っている。
自分を守ってくれたこと、恭也を助けてくれたことには感謝しているが・・・リニアはここにいた方が安全だ。
馬面の人と骸骨についてはリニアは脅されていて何もできなかった、とでもいえばなんとでもごまかせるだろう。
自分達について来て危険に巻き込まれることは・・・避けたい。
「今の私達じゃリニアちゃんを守れるかどうかわからない。だから・・・」
「美由希さん」
リニアは美由希に最後まで言わせることはなかった。
言いたいことはわかる。
でも・・・それでも
「それでもリニアの居場所はここじゃないです。どこかはわかりませんけど・・・
美由希さんと一緒に居たら見つけられる気がするんです。駄目ですか・・・?」
すがるような、それでもはっきりと意思を持った目をしている。
美由希は困ったように恭也の方を見るが、恭也は何も言わない。
もう──美由希の答えは決まっている。
「うん。わかった、改めてよろしくね。リニアちゃん」
かつての晶が、レンが、そして自分がそうだったように居場所は自分で見つけるものだから。
ふと見た恭也の目はやさしかった。
【高町恭也@とらいあんぐるハート3(JANIS) 狩 状態△(肋骨骨折)
所持品 小太刀2本 飛針 小刀(小太刀とは別)チタン製鋼糸】
【高町美由希@とらいあんぐるハート3(JANIS) 招 状態○ 所持品 小太刀(龍燐) 島の地図】
【桜井舞人@それは舞い散る桜のように(バジル) 招 状態○ 所持品 長剣(スタリオンから奪った)】
【リニア@モエかん(ケロQ) ? 状態○ 所持品 食料、水、救急箱、懐中時計】
【目的 島からの脱出方法を見つける】
【スタリオン@ワーズ・ワース(エルフ) 鬼 状態×(気絶) 所持品なし】
【カトラ@ワーズ・ワース(エルフ) 鬼 状態×(気絶) 所持品なし】
【全体放送前の話です】
前話
目次
次話