小さな来訪者






(まいなちゃん・・・あの人たちって、いい人たちかなぁ・・・。)
藪に紛れるようにして女子高生と巫女姿の女の子を観察している双子の姉妹。
(わかんないよ、でもさっきの人に似てるかも・・・。)
まいなはそういってポケットの中のキャンディーをギュッと握った。
「ためしてみよっか・・・。すごい人ならわたしたちの攻撃なんてかわしちゃうもん、きっと・・・。」
「でもぉ・・・そしたらまたつかまっちゃうよぉ・・・。」
「そのときはまた逃げればだいじょーぶっ。」
まいなはゆうなに向かってVサインをすると作業を開始した・・・。


「おはよう・・・ございます・・・。」
「あ、百合奈先輩。おはようございますぅ・・・。」
橘さんの目を見れば誰が見ても寝ているようにしか見えないと思う。
(見張り・・・ちょっと私も寝すぎてしまったようですね・・・。)
少し良心が咎める。
「少し休まれてはどうでしょう?まだ夜明けの時間ではなさそうですし。」
体内時計で判断するなら私は朝が早いから、おそらくまだ向こうの世界では朝5時くらいだと思う。
「そうですねぇ・・・じゃあ・・・ちょっと・・・だ・・・けぇ・・・」
橘さんがフラリと横になろうとした瞬間、橘さんの背後にうっすらと人影が見えた。
「危ないっ!」
「えっ?きゃあっ!?」
慌てて橘さんを押し倒した私の頭上をこぶし大の石が通過していった。
「誰っ!?」
「にげるよっ!ゆうなちゃん!!」
「えっ?あっ、まってよぉ〜!!」
子供・・・?
「百合奈先輩!あの子たちを追いましょうっ!!」
「橘さん?」
急に橘さんが表情を変えた。
「あの子・・・今”ゆうなちゃん”って――。」
一瞬の一言。でも、私にはこれ以上ないくらい衝撃だった。
私が、殺してしまった人が大切に思っていた相手・・・。

「そう・・・だ・・・。まい、な・・・ちゃ、んと・・・ゆうな・・ちゃ・・・ん・・・と・・・」

必死の形相から出た、狂気の中にあった・・・優しさ。
あの子たちは――私が守らなくちゃ!!
「先輩!」
私は立ち上がると、ややもすると藪の中に消えてしまいそうな小さな人影を追った。

「追いかけてくるよぉ〜っ!」
「そりゃあ追ってくるわよ!」
二人は自分の中での全速力で駆けながら叫んだ。
後ろから追ってくる人影は思っていた以上に速く、このままでは追いつかれるのも時間の問題だった。
(どうしよう!?どうしようっ!?)
まいなはパニック状態ながら、一生懸命考えて決心した。
「まいなちゃんっ!?」
「ゆうなちゃん!早く行ってっ!!」
まいなはそう言うと逃げることを止め、追って来る天音に向かい合うように立ち止まった。
「まいなちゃんっ!?」
「ゆうなちゃん!早くいってっ!!」
やっぱり、あの子たちなんだ・・・。
私はもう目の前にいる女の子二人の会話で確信した。
ごめんね・・・私は・・・
二人のうち気の強そうな方の子、まいなちゃんが立ち止まり、私を懸命に睨む。
「わたしはもう逃げない!お兄ちゃんに会うまで頑張るんだもんっ!!」
お兄ちゃん――。
「私は・・・何もしないから――」
私が口を開いたその時だった。
「きゃあああっ!!」
視界の奥にいたゆうなちゃんが藪を抜けようとした瞬間、体勢を崩す。
「ゆうなちゃん!!」
振り返ったまいなちゃんと私の目に飛び込んできたのは百合奈先輩。
「橘さん!ここから崖になっています!手伝って下さいっ!!」
「えぇっ!?」
私は慌てて百合奈先輩に駆け寄り、宙ぶらりんになっていたゆうなちゃんを一緒に引き上げた。
「ふえぇぇぇ〜・・・」
あまりの怖さに泣きじゃくるゆうなちゃんの頭を撫でてあげる百合奈先輩。
その表情が母親のような雰囲気を湛えているように見えた。
敵意がない事が分かったのか、二人は私たちの側から逃げなくなる。
「ありがと。おかげで助かったわ。」
「まいなちゃん・・・言い方がよくないよぅ・・・。」
「ゆうなちゃんと、まいなちゃんだよね?」
「「えっ!?なんで知ってるんですか(のっ)!?」」
私が名前を出すと二人は同時にただでさえ大きな瞳を更に見開いて驚いた。
「えっと・・・」
「貴女方を知っている人と偶然会ったんです。」
私が口篭もると百合奈先輩が助け舟を出してくれた。
「お兄ちゃんだよ、きっと!」
ゆうなちゃんの嬉々とした表情が心に痛い。
「で、どこで会ったの?」
まいなちゃんの質問に百合奈先輩は結構前の事だからと巧くごまかす。
「そうですか・・・。」
「大丈夫、そのうちきっと会えますよ。」
私はそんな先輩とゆうなちゃんの会話を聞くのが辛かった。
(橘さん、今は何も話さないほうが良いんだと思います・・・。)
そう、耳打ちされた。
私は無言で頷く。
そうだよね・・・今、二人とも不安な時なんだから・・・。
自分と重ねてそう思う。
「そういえば・・・お姉さんたちはお名前何て言うんですか?」
「あ、申し遅れました。私は君影百合奈と申します。」
そう自己紹介して百合奈先輩は柔和な微笑を向ける。
「お姉ちゃんは?」
まいなちゃんが私に微笑みかける。
「橘・・・天音です。」
「天音お姉ちゃん、元気ないね。大丈夫?」
不安そうに私を覗き込んでくる。
「あ、うん・・・大丈夫だよ。」
慌てて作り笑顔を返しておく。
「そっか。あっ、そうだ!」
まいなちゃんが何かを思い出したようにポンと手を打ってポケットにその手を入れる。
「はい。これあげる!」
それはキャンディーだった。
「え?でも・・・こんなにたくさんもらえないよ・・・。」
小さな片手いっぱいに握られたキャンディーを掲げてまいなちゃんが私に言った。

「半分こだよ♪」
――!
「橘・・・さん・・・。」
「お、お姉ちゃん?」
「えっ?」
急に泣き出してしまった私をみんなが心配する。
「ご、ごめんなさい。ちょっと・・・」
いつも私が大輔ちゃんに言っている言葉。
幸せを、大好きな人と共有できる素敵な言葉。
「っく・・・ひっく・・・」
必死に堪えようとしても嗚咽が漏れてしまう。
大輔ちゃん・・・大輔ちゃん・・・。

しばらくして、私はようやく落ち着きを取り戻した。
「もう大丈夫。心配させちゃってごめんね。」
そうだ、こんなところで落ち込んでられないんだ。
藍ちゃんたちと、合流しなきゃ・・・。

その時だった。

キンコンカンコ〜ン!!
島にいる全ての人に聞こえるような大音量のチャイムが鳴り響く。
「HAHAHA!! グッモ〜ニング、エブリバディ!!
初めまして、ナイストュ、ミートゥー。
マイネイムイズ、ヴィルヘルム・ミカムラ。
実は、気づいている方もおられると思いマァスが、
みなさんをこの地に召還したのは…………この余なのだ。
ビコーズ、君達には、素晴らしい資質がある。
魔力と言う名のとても素晴らしい才能だ。
余の理想とする世界誰しもが魔法を使える、誰しもが努力しつづける世界の住民となって貰いたく、
余とそれぞれの理念を持つものたちの手によって、諸君達をこの地に召還したのだ。
ところがだ!! 大規模な召還の為か制御しきれず、我々の望んだ以外のモノたちまでが召還されてしまった。
しかも、中には此方側の召還した有望な者達を殺すモノまで現れる始末。
そこで余たちは、この危険性も考え、部外者を排除する事にしたのだ。
しかし、情報不足と一部の者の行き過ぎた行為により、諸君達の身近な人物まで排除してしまうと言う
実に嘆かわしい悲劇が起きてしまった――」
「これは・・・一体・・・?」
「まいなちゃん!この声!」
「うん!ゼッタイあのおじさんだよっ!」
「これが誰だか知ってるの?」
急に反応した二人に私は泣くのも忘れて聞く。
そして、彼女たちの今までの冒険を端折って聞く事になった。
「――・・・らうが、
寛大な理念を持ってして、余たちは受け入れたい。
素晴らしき世界を作り上げようではないか。
……残念だが、中央を目指さない者は、以降敵として見させてもらう。
以上だ、諸君達のよい返事と行動を待っている」
そこで放送は終わった。
「信じられるわけないじゃないっ!なにが”かんだいなりねん”よっ!!」
まいなちゃんが頬を膨らませて抗議する。
「でもぉ・・・いかないと”敵”だって・・・。」
二人の視線が私たちに向けられる。
「お姉ちゃんたちはどうするの?」
「私たちは、お友達と合流する予定になってるの。」
藍ちゃんたちとも話し合えばもっといい意見が生まれるかもしれない。
私はそう思っていた。
それは百合奈先輩も同じだったらしく、
「ゆうなちゃん、まいなちゃん。もし良かったら私たちと一緒に行動しませんか?」
同時に二人の顔が嬉々とする。
「「うんっ!」」



【橘 天音@Canvas〜セピア色のモチーフ〜(カクテルソフト)分類:招 状態:○ 装備品:キャンディー(半分) 行動目的:藍たちと合流・朝倉姉妹の保護】
【君影 百合奈@Canvas〜セピア色のモチーフ〜(カクテルソフト)分類:狩 状態:○ 装備品:キャンディー(半分) 行動目的:藍たちと合流・朝倉姉妹の保護】
【朝倉 ゆうな@はじめてのおいしゃさん(ZERO)分類:招 状態:○ 装備品:キャンディー(半分) 行動目的:とりあえず天音たちと一緒。・雅文を探す】
【朝倉 まいな@はじめてのおいしゃさん(ZERO)分類:招 状態:○ 装備品:キャンディー(半分) 行動目的:とりあえず天音たちと一緒。・雅文を探す】



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