理想とはかくも高きものなり
要塞内、総帥の間前。
「総帥様、準備が完了いたしました」
配下のものがヴィルヘルムへと準備が完了した事を告げる。
「うむ、ご苦労であった。 下がってよい」
「はっ!!」
配下の者は、扉の向こうのヴィルヘルムに一礼を帰すとそのまま廊下を歩いていった。
「さて、では、一仕事するか」
放送機材を目の前に引き寄せ、彼はスイッチを入れた。
一方、ケルヴァンは、またもや少々不思議がっていた。
総帥の間でも放送はできる。
だが、それは島中ではなく要塞内部と局所的な不完全なものである。
今回、彼は、部屋の放送器具と結界を守護する魔力装置等の
外部の機材と繋ぎ、島全体への放送を行なう事にした。
わざわざ面倒くさい魔力を使い、中央にいない人が聞こえるようにするためである。
が、ここに一つの疑問が残る。
魔力放送ではないとはいえ、放送室であれば、魔道機材を通して、各所各所で声音放送をすれば、
島全体へと放送は、十分に可能だ。
また彼の実力なら単独で超規模な魔法を使うことにより通達させる事は可能かもしれない。
魔力を蓄える為に出し惜しみしている点は解る。
だが、凝った訳がどうしても彼の腑に落ちなかったのだ。
「やはり、帰還してからのやつの様子は、少々おかしいな……」
キンコンカンコ〜ン!!
島全体に、存在している全てのものに。
放送を告げる鐘が鳴り響く。
「HAHAHA!! グッモ〜ニング、エブリバディ!!
初めまして、ナイストュ、ミートゥー。
マイネイムイズ、ヴィルヘルム・ミカムラ。
実は、気づいている方もおられると思いマァスが、
みなさんをこの地に召還したのは…………この余なのだ。
ビコーズ、君達には、素晴らしい資質がある。
魔力と言う名のとても素晴らしい才能だ。
余の理想とする世界誰しもが魔法を使える、誰しもが努力しつづける世界の住民となって貰いたく、
余とそれぞれの理念を持つものたちの手によって、諸君達をこの地に召還したのだ。
ところがだ!! 大規模な召還の為か制御しきれず、我々の望んだ以外のモノたちまでが召還されてしまった。
しかも、中には此方側の召還した有望な者達を殺すモノまで現れる始末。
そこで余たちは、この危険性も考え、部外者を排除する事にしたのだ。
しかし、情報不足と一部の者の行き過ぎた行為により、諸君達の身近な人物まで排除してしまうと言う
実に嘆かわしい悲劇が起きてしまった。
だが、恐るべき事は、未だに召還したものを殺す望まれぬ召還されたモノ……イレギュラーとでも言おうか。
そのイレギュラーが複数島に運びっていると言う事実がある。
そこで、我々は、諸君達に提案したい。
今回の召還は、召還された時に身近にいる者を巻きこんだ可能性が高いと言う事がわかった。
よって、我々の理想に従い、諸君達と共に中央に来てくれる者は、我々と共に理想を目指そうではないか。
幾ら資質がなくても努力すれば、どんなにダメでも多少は開花させる事は可能だ。
中央に入るさいに、念のために多少頭の中を覗かせてもらうが、
寛大な理念を持ってして、余たちは受け入れたい。
素晴らしき世界を作り上げようではないか。
……残念だが、中央を目指さない者は、以降敵として見させてもらう。
以上だ、諸君達のよい返事と行動を待っている」
「傲慢で身勝手だが……、中々やってくれる。 ただの理想を求めるバカではなかったようだな」
ヴィルヘルムの放送を要塞内の自室で聞いていたケルヴァンは、苦笑していた。
先ほどの放送には、事実とそぐわない事が二つある。
一つ目は、召還された者を殺す者がいたから排除をすると言った事。
実際は、最初から部外者を排除にかかったのである。
危険を防ぐ為でもなんでもない。
二つ目は、情報不足である。
一部全くの不明があるとはいえ、実際は、ケルヴァンが召還した者の書類を作成し終えてある。
これもヴィルヘルムや配下のものたちに手渡されあり、情報が行き届いていなかったと言う事はない。
これにより多少は、召還された者に揺さぶりと疑念をかける事が可能だろう。
といっても、最後の彼の傲慢な態度が、大分台無しにしてはいるのだが。
「……それと『一部の者の行き過ぎた行為』か……。
ふっ、確かにそういい繕えば、いざとなれば、配下のものへ、最悪、私に責任を押し付けることもできるな。
これは、私に対する牽制と取るべきか……。 クックックック」
笑い終えると、彼は部屋の扉に手をかけ、廊下へと出て行った。
「ふん、あんなので従うやつなど余りいないと思うが……。
一応、思考を読み取る魔具の用意と結界周りに人材強化をしておかんとな……。
それと色々と調査の方もな……」
【ヴィルヘルム・ミカムラ@メタモルファンタジー(エスクード) 状態○ 鬼】
【ケルヴァン@幻燐の姫将軍1・2(エウシュリー) 状態○ 所持品ロングソード 鬼】
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