鬼畜王の誤算






加賀元子は島の中央からやや近い山の頂上に立っていた、そこからは島の全形がほぼ一望できる。
もっとも島の中心部だけは不自然なまでの濃厚な霧によって何があるのかはわからなかったが。
(ここなら…)
元子は手に持った拡声器のスイッチを入れる、ここからなら自分の声はかなりの遠くまで届くだろう。
(悪司…)
元子は心の中で夫の名前を呼ぶ、そんな彼女が身に纏うのは純白の花嫁衣裳だった、
念願のオオサカ統一を成し遂げた記念に、先送りになっていた悪司との結婚披露宴を、
大々的に執り行うこととなったのだ。
そしてその華やかな宴の最中、誓いの杯を交わそうとしたその時、まばゆい光に包まれ気がつくと、この島にいた。

そこからはまるで五里霧中だったが、それでも手がかりが無いわけではない。
光に包まれる直前、悪司の口から「誰かが呼んでいる」という呟きが漏れていたのを元子は確かに聞いた。
なら悪司もきっとここにいるはずだ。

そして元子が夫の名前を呼ぼうと拡声器に口を近づけたその時だった。
「がははは、女見つけー!」
いきなり現れたランスによって、元子は背後から組み敷かれてしまったのだった。

「や、やめて!やめてったら!!」
必死で抵抗する元子だが、ランスの腕力には叶わない。
「がははははは、ういやつじゃ、ほーれ」
ランスは抵抗をものともせず、次々と白無垢を剥ぎ取っていく。
「花嫁を後ろから犯すってのはなかなか背徳的でいいものがあるな」
「何よ!いったいどうしてこんな…」
「知る必要はない!それにここは大人しく従った方がいいぞ」

「どうせ招かれた奴ら以外はみんな俺様のような連中に残らず殺されてしまうんだ、
 助かるには皆殺しにでもするしかないんじゃないのか?」
ズボンを下ろしながらランスは恐るべき言葉を吐く、
「だったら俺様に抱かれた方がまだ幸せってものだろ!がはははは、さてと」
あまりにも自分勝手な理屈を並べながら、スタンバイOKとなったランスが、
まだろくに濡れてもいない元子のモノに自らのモノを押し当てた時だった。

「悪司…さよなら」
そんな呟きが聞こえたかと思うと、ランスの視界が真紅に染まった。
なんと元子は迷うことなく自分の薬指に輝く婚約指輪、そこに輝く鋭いまでにまばゆく光る宝玉で、
自分の喉を一思いに掻き切ったのだった。

「あ、おい何やってやがるんだ!」
元子の喉から噴水のように吹き出る血潮を眺めながらあたふたとするランス。
彼はあきらかに困惑していた、自分のいた世界でここまで気合の入った真似をやらかす女は、
1人としていなかった、いや、いるのはいたのかもしれないが、そういう場合は、
往々にして彼の仲間たちが安全弁となっていた、例えば
(ランス様、ムリヤリ襲ったらこの人自殺しちゃうかも)
(そうよランス、少しは分別を持ったらどう!?)
(うーん、お前らがそういうなら仕方ない、許してやるか)
と、いった具合に…。

そうこうしている間にも元子の顔からはみるみる間に生気が失われていく、もはや時間の問題だ。
「俺様の責任じゃないぞ!お前が勝手に死んだんだからな!!」
そう吐き捨てランスは山を降りていった。

しかし彼は大きなミスを犯していた、背後から出会い頭に襲ったために、
元子が手に持っていた物が一体何であったのかをまるで確認していなかったのだ。
そしてそれは元子の傍らの茂みの中で、この惨劇をしっかりと周辺に実況していたのであった。

今や虫の息の元子、だがそれでも茂みの中の拡声器に気がつくと動かない手を動かし
必死でコードをたぐり寄せ、自分の口元まで持っていく。
(おねがい…あと少しだけ…)
喉に穴が開いているので声が出にくいがそれでも、精一杯喉を動かし元子は最後の言葉を
拡声器に乗せて周辺に響かせた。

「悪司…花嫁衣裳…汚しちゃってごめんね……さい…ごのお願い言うから…聞いていて
私の…敵は取らなくていいから…そのかわり…私と同じような…人を1人でもたくさん助けてあげて…
憎む…気持ちを…誰かを救う気持ちに…変え…て…それから…」

その続きは永遠に分からなかった、何故なら…
「何余計なこと言ってるんだ…こいつは!まるで俺様が悪者みたいじゃないか!!」
ようやく拡声器に感づいたランスが元子の心臓を一突きして止めをさしたからだった。
ランスは拡声器を慌てて拾い上げ、
「おい!お前らこいつの言う事を信じるな!俺様は人助けをしようとしたんだぞ!!
大人しく俺様に抱かれてさえいれ…」
そこから先は聞こえる事は無かった、電池切れである。
「くそっ!!」
ランスは役立たずの拡声器を投げ捨て、悪態をつく。
普段彼をサポートする仲間のいない事が、ランスの精神感覚を微妙に狂わせ始めていた。
事実、シィルやマリアらがいれば、ここまでの惨劇にはならなかっただろう。

お前のせいだ!と言いかけて自分のそばには誰もいないことを思いだし、ランスは威嚇するように
わざと足音を立てて下山していった。

そしてその頃山本悪司は、
「トコ…トコちゃん…何だよ…それからって何なんだよ!!何が言いたかったんだよ!!
 ちくしょう!ちくしょう!ちくしょうが!!」
拳から血を滲んでいるにもかかわらず傍らの大木に拳を打ちつけて、男泣きに泣いていた。
「ゆるせねぇ…トコちゃんが何を言おうが関係ねェ!あの野郎をバラバラにして
 それからこの下らないことを考えた奴らも、一人残らず皆殺しにしてやらぁ!!」
涙ながらに吠える悪司。
だが、それでも脳裏に妻の最後の、命をかけた遺言が甦ると、力無くうなだれることしかできない。
「俺にはこれしかできねぇんだよ…他に…他にどうしろってんだよ…」

そしてまた一方では…1人の少女が凄まじい形相で声が聞こえた方角を睨んでいた。
かなり問題のある男ではあったが、1本筋の通った男だと、非道ではあるが決して道理の通らぬ
真似をする男ではないと思っていた…だが。
「見損なったぞ…」
そう一言山本五十六は呟いたのみであった。

【加賀元子 :死亡】
【ランス@ランスシリーズ:鬼(但し下克上の野望あり) 状態○ 装備:リーザス聖剣】
(拡声器は電池切れのため放置)
【山本悪司/大悪司(アリスソフト)状態:○ 種別:招 装備:なし 行動方針:不明】
【山本五十六/鬼畜王ランス(アリスソフト)状態:○ 種別:狩 装備:弓矢(弓残量16本) 行動方針:島から脱出】
(大空寺あゆも同行しております)



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