嵐の前の静けさ
「美由希さん・・・扉を開けてくださぁい」
今にも泣き出しそうなリニアの声がするので美由希は扉に向かった。
(気配で部屋に帰ってくるのはわかってたけど、何か荷物でも持ってるのかな?)
美由希はリニアの他に気配がないことを確認するとゆっくりと扉を開ける。
片方の腕で1人、都合2人の人間を抱きかかえたリニアが部屋に入ってきた。
「さすがに疲れました・・・。リニア頑張りました」
そのまま部屋になだれ込むとベッドに抱えていた2人を横たえ、倒れるようにテーブルに突っ伏した。
(リニアちゃん意外に力あるんだね・・・)
「ああ・・・そういえば緊急モードになればよかったのですか。でもリニア、力のコントロールが上手くできませんし、
お二人を潰してしまうかもしれませんね」
リニアはどうやら体力を使い果たしたらしく机に突っ伏したまま美由希と話している。
「緊急モード?」
主人に危険がせまるとロケットパンチをするメイドロボを知っているが彼女も同じようなものなのだろうか。
「リニア人間じゃありませんから普段は一般的な範囲に力を抑えてあるのです。でもボンコツですから
力の調節ができなくていつもフルパワーになってしまうので2度と使うなと・・・」
「あはは・・・でも普通に運んできてるし」
(なんだか、かーさんと話してるみたい)
リニアが今運んできた人達にも自分のように普段の日常から突然この島にやってきたのだろうか。
美由希はベッドに寝かされている2人の顔を改めて見て・・・
「恭ちゃん!」
「美由希さんのお知り合いですか?」
「私の・・・兄さんだよ」
少し言葉に間があったような気もするがリニアにはそんなことを気に止める余裕はないようだ。
「2人とも無理矢理連れて来られたみたいですね。傷だらけですし、ああそういえば手当てもしなくちゃ」
リニアが机から動こうとした体を起こした。
「大した傷じゃない・・・本当に手当てが必要な傷は時間が経たないと治らないしな」
リニアが立ちあがろうとした瞬間、恭也がゆっくりと体を起こした。
「恭ちゃん、気がついたんだ・・・」
「い、いきなり声かけないで下さいよぉ、びっくりするじゃないですか・・・」
「・・・すまない。美由希の声で目が覚めたものでな」
「時間が経たないと治らないってどういうこと?」
「ああ、肋骨をやられた。少し痛む程度だ、問題ない」
(恭ちゃんああ言ってるけど絶対口にしないもんね、そういう事)
美由希や家族やそういった守る相手には一切弱音を吐いたりしない。
(───だから私の目標なんだよ、恭ちゃんは)
恭也は美由希の方を向きながら
「なんだかすごく久しぶりのような気がするが、一日も経ってはいないんだな。なんにせよ、無事だったみたいだな。
なんだ・・・その・・なによりだ」
こういう言い方はいつもの恭也である。
突然訳もわからずこの島に来てしまった美由希にはそのいつも通りが何よりも心地よく思える。
「うん・・・でも恭ちゃんが負けるなんて相手は・・・」
「肋骨をやられた相手はまた違うんだがあの剣士達何者なのか」
「恭也さん達を運んできた方々は新撰組と名乗ってましたけど・・・」
疲労から回復したリニアが会話に割って入る。
「・・・」
「え?え?リニアなんか変な事いいましたか!?」
美由希と恭也が突然黙ってしまったのでリニアは狼狽する。
「恭ちゃん・・・どう思う?」
「誰かが名を騙っているだけだろう・・と言いたいが妙な牛の化け物までいる島だからな。
死者がよみがえっても不思議はない」
何より恭也が負ける程の相手・・・歴史に名を残す剣客であっても不思議ではない。
「少なくても名前負けしている敵じゃないってことだね」
「ああ・・・桜井はまだ起きないか」
隣で寝ている男の顔を見て恭也は溜息をつく。
新撰組(と呼ぶ事にした)にやられる前から謎の力の反動なのかわからないが、相当弱っていたのでそのせいかもしれない。
「できたら今のうちに状況を把握しておきたかったんだが」
「あ、うん。それなら私とリニアちゃんが説明するね」
椅子に座っているリニアを恭也は見て
「そういえば自己紹介がまだだったな・・・美由希の兄、高町恭也だ。よろしく」
「あ、こちらこそリニアと申します。不束者ですがよろしく・・・」
「リニアちゃん使い方間違ってるよ」
美由希は苦笑しながらこの状況下でなんとも気の抜けた2人の自己紹介を見ていた。
3人はそれぞれが今までわかった事を話し合った。
その内容にはリニアが先ほど新撰組と交わした会話の内容も含まれている。
「つまり人を集めて何かしようとしているわけか」
「魔力資質者って・・・私も恭ちゃんもそんなのないような気がするけど。フィアッセならあるのかもしれないけど・・・」
願わくば、恭也の言ったような化け物がうろついているこの島に来てないことを祈りたい。
恭也も同様の事を思ったらしく表情を硬くしている。
普段から共にいる美由希以外にはその些細な表情の変化はわからないだろうが。
「あの化け物を魔力資質者以外の人間の処分に使っているのかもな・・・」
桜井舞人と一緒にいた女性が化け物に殺された事を考えるとありえない可能性ではない。
あの桜井舞人の得体のしれない力もあれがもしかすると魔力というものなのかもしれない。
しかし───そうなると
(やはりあの化け物はこの屋敷の主には制御できていないということになるな)
あの化け物が桜井舞人まで襲った理由が説明できない。
あれは誰にでも降りかかる天災のようなものになるのだろうか。
まあ、なんにしても───
「俺達がこの屋敷の主の我侭につきあう義務はない」
「うん・・・こんなの許せないよ」
「そうだな・・・御神の剣はこういった理不尽な力に対抗するためにある」
互いに思う事があるのか2人共黙ってしまった。
「美由希さん達は・・・どうされるつもりですか?」
重苦しい沈黙に耐えかねたのかリニアが沈黙を破った。
「確かにこんな風に関係ない人達を巻き込んだこの屋敷の持ち主は許せないけど・・・」
「・・・まずこの島からどうやったら元の場所に帰れるのかを探す方が先決だな」
恭也や美由希のような戦力になる人間ばかりが呼ばれたわけではない。
八重樫つばさのような一般人もこの島に来ているのだ。
そういった人間を一刻も早く元いた場所に帰す方法を見つけるのが先である。
八重樫つばさの事を思い出し、恭也はそう結論を出した。
(彼女のような犠牲者をこれ以上増やすわけにはいかない)
恭也にしてみれば当初の予定であったこの島の主に会うということは、島の主のやったことを知った今、意味がなくなった。
(もし会うことがあったとしたら・・・不破の技をを使う事になる、か)
敵残存戦力の掃討を目的として振るわれる御神流の裏の不破流。
(まだ俺には守るべき者が傍にいる)
リニアと何か話している美由希を見ながら恭也は八景を握り締めた。
【高町恭也@とらいあんぐるハート3(JANIS) 狩 状態△(肋骨骨折)
所持品 小太刀2本 飛針 小刀(小太刀とは別)チタン製鋼糸 目的 島からの脱出方法を探す】
【高町美由希@とらいあんぐるハート3(JANIS) 招 状態○ 所持品 小太刀(龍燐)目的 島からの脱出方法を探す】
【リニア@モエかん(ケロQ) ? 状態○ 所持品なし 目的 美由希、恭也、舞人の存在をケルヴァンから隠す】
【桜井舞人@それは舞い散る桜のように(BasiL) 招 状態○ 所持品なし】
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