世界の欠片






――なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
――自分の責任だ・・・自分のせいで・・・アーヴィがアーヴィがアーヴィが、
――悪いのは、ぼくぼくぼくぼく
――ちがうちがうおまえだおまえだ

「あうっ!?」
藍は突然襲ってきた脳への衝撃に思わずその場でしゃがみ込む。
「何が・・・一体・・・。」
無意識に手にしている拳銃の引き金に指を掛ける。
「誰も――いないようですわね・・・。」
一人呟いて立ち上がったその耳元をヒュン!と風が突き抜けた。
「!!」
とっさに木の後ろに隠れると、続けざまに2射。
生ある木の表皮が銃弾によって引き千切れる。
その音が、藍の意識に今が戦闘中であることを植え付けていく。

(しくった・・・!私としたことが・・・。やはり勘が狂っておるのか?)
皇蓉子(すめらぎ・ようこ)は予想外に射撃を外した事に驚愕した。
「姐さん姐さんっ!いきなり見つけた人間撃ち殺そうとしてどないしはりますのや!?」
「貴様のせいかあぁぁっ!!」
手元にブラブラぶら下がっている喋る小鳥――正式にはケンちゃんという――を見つけた蓉子は、
「そんな殺生なぁぁぁぁ・・・!」
それを迷わず藍のいる方へ投げつけた。
「そんな殺生なぁぁぁぁ・・・!」

何か来る、そう音で判断した藍は敢えて音のする反対側から隣の木の後ろ目掛けて駆ける。
敵を確認した視界に飛び込んできたのは白いコートに紫がかった青い髪の優男だった。
ひるむ事無く藍は、駆けながらその男めがけて銃弾を放つ。
だが自分の反応よりも相手は数段優れていた。
銃口の向きか何かで判断したのだろう。その銃撃をいともたやすく回避し、向こうも木の背後へ回りこむ。

(馬鹿な・・・単なる学生ではなかったのか!?)
蓉子は先程以上に驚愕し、動揺した。
学生だと思っていた女がこちらに銃口を向け、あまつさえ戸惑う事無く銃撃してきたのだから当然だ。
「クッ・・・。」
何から何まで判らない事だらけだった。
今さっきまで列車の中にいたはずだ。
それが急に光が弾けたかと思えば自分は森の中。
混乱しないほうがどうかしている。
(これは、体勢を立て直すしかないか・・・。)
そう考えた刹那、パシッと自らが隠れる木の表面に何かが当たった。
「しまっ――」
油断していた。
反射的に木の側から離れるとコートの中から隠し武器であるクナイを数本抜く。
「これでっ!」
相手がいるであろう場所にそれを放ち、地面に突き刺さるのを確認すると再びそこに銃口を向ける。
――暗器。

クナイによって見事に標的の足元が地面に括り付けられる。
「意外だったけど・・・残念ね。私が相手では――」
木の表側に回り込んだ蓉子の視線が凍りついた。

「姐さぁぁん・・・堪忍してくださいなぁぁ〜・・・」
「また貴様なのかっ!!」
すっかり動けなくなっているケンちゃんを睨み付けて怒る。
その視線を掠めてすぐ横の樹皮にビシッと丸い弾痕が付いた。
「くうっ!」
それが敵からの銃弾であることを察知して蓉子は身を翻し、体勢を立て直すべく森の中へと消えていった。

「何とか・・・撃退できましたわ。」
じっとりとかいた汗を拭って藍は一息ついた。
「あぁ・・・姉さんでもええですから、そこに刺さったクナイ取ってもらえませんかね?」
「あら・・・今気付けばこの鳥さんお話出来るんですねぇ〜。」
藍は地面に刺さったままのクナイを引き抜く。
すると、さっきまでの静けさが嘘のようにケンちゃんが動き出す。
「いや〜!姉さんがいてくれはらんかったらワテあのまま動くことも出来んと餓死するところでしたわ〜!!」
そういって藍の肩先にちょんと乗る。
「ワテはケンちゃんと呼んでもろたらええですわ。姉さんはお名前何と仰るんです?」
「鷺ノ宮、藍、ですわ。ケンちゃん。」
「はぁー・・・そらまた結構なお名前でっしゃろ?○○宮なんてったらそりゃええトコのお嬢と決まってますからな!」
一人で大興奮している小鳥を藍は微笑ましそうに眺めている。
「姉さんはこんな辺ぴな所で何してはるんですか?」
「私は・・・元の世界に戻りたいのですわ・・・。」
ここまでの過程があるだけに、さすがに藍の表情が曇る。
それを前向きに解釈したケンちゃんは慌ててフォローに入る。
「ワテらもいろんな世界を廻って来てるんですわ。廻り回ればきっと元の世界に戻れますって!」
ケンちゃんは遠い目をして言い聞かせるように続けた。
「ワテはいろんな世界を廻ってるうちに、ここに飛ばされてしまいよったんですわ・・・。」
「そうなのですか・・・?」
「そ。本当ならワテの飼い主・・・っちゅーかご主人にあたる兄さんと一緒に壊れてしまった世界を修復するために”世界の欠片”を捜してたんですわ・・・」
「世界の・・・欠片?」
「そうです。まあ、厳密には破れてしまった本のページ、ですがね。」
ケンちゃんはそこで間を置くとクセッ毛のようなものを振り振りする。
「・・・ここは思ってた以上にいろんな迷子がおりますなぁ。皆さん、姉さんと同じような境遇でっせ。」
そして藍に向き直る。
「とりあえず、兄さんが見つかるまではワテ、姉さんと行動してもよろしいでっか?」
藍は一瞬戸惑ったが、笑顔で了承した。
「おおきに!助かりますわ〜!!んではちょっと失礼して――」
ケンちゃんはそう言って藍の制服の胸元に潜り込もうとする。

「よろしくお願い致しますわ。ケ・ン・ちゃ・ん。」
「は・・・はひ・・・」

藍につままれ、銃口を突きつけられたままケンちゃんは恐怖の笑顔の藍に引きつった笑顔で返すのだった・・・。

【鷺ノ宮 藍@Canvas〜セピア色のモチーフ〜(カクテルソフト) 分類:狩 状態:○ 装備品:拳銃(残弾不明) 行動目的:島からの脱出】
【皇 蓉子@ヤミと帽子と本の旅人(ORBIT) 分類:招 状態:○ 装備品:コルトガバメント(残弾数12発)、マガジン×4、暗器(クナイ:残数不明) 行動目的:現状把握】
【ケンちゃん@ヤミと帽子と本の旅人(ORBIT) 分類:? 状態:○ 装備品:嫁はんズ用携帯電話(13台)、クセ毛アンテナ 行動目的:世界の欠片探し及び兄さん(コゲ)探し】
*ケンちゃんは人数に含みません



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