快楽の代償






(こりゃ上物じゃないか…坊っちゃんがいればお喜びになるだろう)
囚人服を纏った若い青年は、ぎらついた瞳をさらに光らせて廃墟の一角から様子をうかがっていた。
その視線の先にあるのは、寝息を立てているショートヘアの少女だ。
(だが、まずは味見だ)
青年は無造作に物影から少女の傍へと進み出ようとするが。
(うん?)
何やら話し声が聞こえる。
「うーん、結局寝つけ無いや、寝てる場合でもないんだろうけどね」
「なら、とりあえず周辺の様子でも調べながら今後の展望でも」
声の主は2人の少年だった
(なんだ男か)

物陰に潜んだ青年は残念そうに舌打ちする、死を待つばかりの独房で溜まった鬱憤は爆発寸前だ。
一人でも多く早く犯したい…、そういえばここにいるのは自分だけなのか?
何やら声が聞こえたと思えば光に包まれ、ここにいた。
別の刑務所に勾留されている、古手川と木戸はさすがにいないだろうが、
もしかすると隣り合わせの房にいた坊っちゃんは、自分と同じくここにいるのかもしれない。
少年たちが青年のすぐそばを通ったときだった。
青年の手刀が少年たちの首筋を一閃する、2人はドミノのようにばたばたと床に倒れてしまった。
(さて、と)


(なんか変な感じがする…魔界に落ちたときみたい)
夢の中ながらも、郁美はなにやらわからぬ不安めいた何かを感じていた。
(そういえば起きないと)
夢うつつの状態から素早く目覚めるため、思いきってぐっと上体を勢い良く起こす郁美。
ごいん
額に衝撃、だれかいるの?
目を開けるとそこに見えたのは見知らぬ廃墟と、鼻血を流している見知らぬ青年…いや見た事がある顔だ。
それも何回も、何処で?…確かTVで…って。
(こっ・・・この人、あの勝沼紳一の仲間だ、たしか直人とかいう)
例の史上最悪のバスジャック事件のことは郁美も知っている。
修学旅行のバスを襲い、乗り合わせた美少女たちに陵辱の限りを尽くし、廃人へと追いやった鬼畜たち。
その鬼畜の1人が自分の目の前にいる。
と、鼻血が止まったのだろう、直人は薄笑いを浮かべて郁美へと迫る。

「ナ、ナナスくん…は?まさか…」
「安心しろ殺しちゃいない、寝つけないとか抜かしていたから、眠ってもらっただけだ」
獲物をいたぶる狩人のごとく、ゆっくりと直人は郁美へと近づいていく、あせることは無い。
この手のタイプは抵抗など経験上考えられん、だからこそ犯しがいがあるというもの、
まずはゆっくりと言葉で…。
「何であいつらを生かしておいたと思う?お前の哀れな姿を見せつけてそれから殺るためさ」
「そしてお前はその後で両手足を落として、坊っちゃんに差し上げる…
女に手足なんぞ必要無い、穴だけあいてりゃ充分だ」

聞くもおぞましいセリフがぽんぽんと飛び出してくるが、聞いている郁美は思ったよりも冷静だった、
というよりあまりにも常軌を逸していてリアリティを感じないのだ。
「こんなに興奮するのは久しぶりだぜ、あの何とかってアイドルを犯った時以来だ、
教えてやろうか、あのアイドル完全にぶっ壊れちまってよ、今じゃ精神病院で
壊れたオルゴ―ルみたくなっちまったらしーぜ、笑っちまうよな…アッハッハ」

直人の言葉を聞き流しながら、郁美は考える。
このままでは間違い無く犯される、だが今の自分では勝ち目は無い…一介の学生が凶悪犯相手にどうしろというのだ?
(で、でも学生じゃないのなら)
しばらく出て来れない、といってはいたが、この最悪のシチュエーションで出てこないわけがない、
というより出て来てくれないと困る。

(と、とりあえず気絶っ!)
直人の手が自分の襟元に近づいたその時だった、
何を思ったのか郁美は渾身の力で自分の額を柱に叩きつけたのであった。

「自分から気絶したのか?まあいいすぐに起こしてやる…破瓜の痛みってやつでな」
気を失った郁美には構わず、その上にのしかかり、まずは唇を奪おうとした時だった。

「がっ!!」
自分の股間を膝で蹴り上げられ、思わずのけぞる直人。
「ほう?そこそこ武芸の嗜みはあるようだな、とっさに俺の蹴りを避けるとは」
直人の目の前で郁美が立ちあがる、だが、様子が明らかに今までと違っている、先程の怯えた様子は微塵も無い。
「お前・・・二重人格か?」
「少し違うな、俺はこの身体を借りているだけだ、ゆえに壊されると行く場所が無い」

「っ!」
得体の知れぬ雰囲気にじれた直人が蹴りを放つ。
「ほう、いい腕はしておるな・・・だが」
郁美は、いや、今やその正体は魔界の猛将良門だ、は、それを片腕で受け止める、
じんとした痺れが骨まで伝わってくる。

「弱者をいたぶる以外の用途には使っていなかったようだな、防御がなっていないぞ」
直人もかなりの達人だが、魔界の戦場であっても猛将と謳われる良門の敵ではない。
案の定、良門の人差し指がカウンターで直人の右目を貫いたのであった。
「お前…TVで見た事があるな、確かバスジャックの」
結局完膚無きまでにブチのめされた直人の顔を、まじまじと見つめながら良門は尋ねる。
その手には部屋に転がっていたハンマーと、なにやら凶悪な形の物体が握られている。

「何人襲った?」
「聞いてどうする?」
「いや?お前が泣かせた女の数だけ、こうしてやろうと思ってな」
と、言うなり良門は五寸釘を直人の手の甲にハンマーで打ちこむ。
「ぐぎゃ……」
悲鳴を上げそうになった直人の口を塞ぐ。
「煩い…さあ言え」
「俺は…俺は何もしていないぞ、俺は命令されただけだ」
「そうか、なら100本だ」
「10人犯して…壊した」
「なら、やはり100本だな」

良門は直人の口に猿轡をはめると、直人を外に連れだし柱に磔のように縛り付けていく。
「五寸釘でこれだけ痛がるようでは、船釘でどこまで保つことやら」
船釘とは、五寸釘などとは比較にならないほど太く長く凶悪な形をした、船専用の釘のことだ。
どうやらこの廃墟は船工場のようだった。

「さて、子曰く、主過ち犯す時あらば、臣これを戒めるべし…」
準備が終わると良門は古の漢文を口ずさみながら容赦無く直人の身体に釘を打ちこんでいく、
それに反応するかのように直人の身体がぴくんと痙攣する、絶叫したいのは山々だが猿轡で声が出せない、
良門は致命傷にならないように、なるだけ苦痛を長引かせるために、指先や足の甲や膝の皿、肩甲骨なとに
釘を打ちこんでいくのであった。
「子曰く、真の忠義とはこれ〜」

手持ちの船釘を打ちこみ終わると、良門は船止めの柱に頭を下にして直人の身体を鎖で結わえ付ける。
潮が満ちるまであと僅かだ、満ちれば直人の全身はすっぽり海水に浸かるだろう。
それまでに助かれば不本意ながら仕方が無い、奴に天運が味方したというだけのことだ。
「お前のような畜生以下の蛆虫でも殺しはしない、外道は八つ裂きがお似合いだが
 お前ごときで、郁美を人殺しにさせたくはないからな…」

ようやく猿轡を外された直人は、薄笑いを浮かべてぼそりと呟く。
「後悔…するぞ」
「かもな」
それ以上は答えず、良門は今や血まみれの直人を眺める。
その直人は達観したかのように相変らず薄笑いを浮かべている。
他人の命の大切さが分からない奴は、きっと自分の命も大切とは思えないのだろう。
もはやそれには構わず、良門はナナスたちの元へと帰る、のしのしと大股で歩きながら。

だがしかし、残された直人は未だにあきらめてはいなかった。
(お前をどうやって犯してやろうかを考えているのさ、『郁美』とかの方じゃないぜ、あくまでもお前だ
 中身が何だろうが、身体が女ならそれで結構だよなぁ…これだけはだれにも譲れないぜ、
 坊っちゃんでもな)
すでにその前髪は海水に濡れていきつつあったが、それでも直人は薄笑いをやめなかった。

【ナナス@ママトト(アリスソフト) :招 状態△(気絶) 所持品なし 基本行動方針:島からの脱出】

【江ノ尾忠介@秋桜の空に(Marron):招 状態△(気絶) 所持品、改造エアガン、手術用道具入りケース、
 液体の入った小瓶3個(うち1個は、塩酸残り半分)、ミノタウロスの皮膚を貼り付けた服(白衣ではない
 基本行動方針:島からの脱出】

【小野郁美(良門)@Re-leaf(シーズウェア) :招 状態◎ 所持品 ハンマー 基本行動方針:不明】

【直人@悪夢(スタジオメビウス) :招 状態△(傷は多いが命に別状なし) 所持品なし 
基本行動方針:良門を犯す】
(2時間以内に救出されなければ溺死)



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