行殺投入






はぁはぁと森の中を走る影一つ、影の正体はまだ幼い少女のように見える
だがその手には不釣合いなほどの長槍が握られている。
もうすぐ森の出口に差し掛かる、そこまで行ければ…しかし少女の考えとは裏腹に、
出口を塞ぐように人影が立ちふさがる、その影は4つ、いずれも美しい少女たちだったが
その身に纏った羽織は血に汚れ、ボロボロになっていた。

「沙乃…もう1度考えなおせ、またやりなおせるのだぞ」
影の一つが少女の名前を呼ぶ、名前を呼ばれた少女、
かつての新撰組十番隊組長、原田沙乃は憎憎しげに自分の名前を呼んだ少女、
新撰組副長、土方歳江を睨みつける。

「やりなおして何をするっていうのよ…もう私たちは過去の存在なのよ!」
「知れたこと、我らを見捨てた新時代への復讐、そして真の武士の時代を再び築くのだ」
そう原田へと高らかに宣言する土方。
その身体には無数の弾痕が刻まれている、聞けば五稜郭で蜂の巣になったのだという。

「沙乃ちゃん…またみんなで一緒に戦おうよ」
そう微笑を浮かべる近藤勇子の首には、まるで斬首されたのを後で縫いあわせたような痕がある。
「そうよぉ〜せっかく生きかえったんだしぃ〜2度目の人生エンジョイしないと」
にやにやと笑う金髪美女、カモミール芹沢の額にも、致命傷と思われる弾痕がある。

「健康って素晴らしいです…だから今度こそ好きなことをするの…」
そう呟くのは沖田鈴音、いつも青白い顔をしていた彼女だが、復活を遂げてやけに血色がよくなっている。
そして眼鏡の奥の瞳は、健康に比例するように欲望にぎらつきまくっていた。

「みんなどうしたの…こんなの新撰組なんかじゃないわ!」
そう叫ぶ原田の身体も傷だらけだ、彼女もまた上野寛永寺で大砲に吹き飛ばされている。
そう、彼女らは全員この世の人間ではなかった、つい先程まで…。

冥界での深い眠りから覚めた彼女らの前にいたのは、眼光鋭き魔将軍ケルヴァン、
彼は彼女らの現世への復帰と引き換えに、とある任務を与えた。
その任務とは、この島にやってくる人間を殺すこと、それも強ければ強いほど望ましいとのことだった。

「すばらしいではないか、またあの戦いの日々に戻れるのだぞ」
土方歳江の本当の願い…それはわが身が朽ち果てるまで戦いつづける事、
まさに修羅といっても過言ではない。
土方とは距離を置いていた原田にはそれがよくわかっていた。
新撰組もまた彼女の戦闘への渇望が生み出した産物に他ならない、しかも今の土方たちは
欲望と復讐心で我を失っている。

「まぁいい…我らに従わぬのならば、新撰組局中法度に乗っ取り、原田沙乃、お前を斬る!」
土方の合図と同時に、近藤、沖田、芹沢が原田を囲いこもうと円を描くように

「どうかしてるわ…目を覚ましてよ!勇子さん、そーじ、カモさん!」
原田は十文字槍を一応構えるが、その手に力は入らず、がたがたと震えている。
そして4人が同時に斬りかかろうとしたその時だった。

ズギュン!キン!
銃声と同時に渇いた金属音、そのスキに脱兎のごとく逃げ出す原田、
後を追おうとした土方たちだったが、原田の姿はすでにどこにもなかった。

突然の銃声に土方たちがひるんだスキをみて脱出した原田だったが、その時背中を掴まれ、
茂みの中にひきずりこまれる。
「!!」
原田は槍を構えようとしたが、そのまま関節を決められてしまう、そしてその耳元で声が聞こえる。
「落ちつけ!俺は味方だ」
「だったら関節技をとっとと外してちょうだいよ」
男の声に敵意を感じることはなかった、ならば信じてみるのもいいかもしれない。
どの道、抵抗したところで今の自分では勝てない、原田は相手の力量を正確に把握していた。

男は吾妻玲二と名乗った、何でも恋人を探しているのだという。

「それにしてもあれは化け物か…それともあれがサムライってやつなのかよ」
玲二は先程のことを回想する。
玲二は1番とろそうな眼鏡っ娘めがけリボルバーの引金を引いた、
しかしその弾丸は、次の瞬間、眼鏡っ娘の手にした刀によって弾き落とされてしまっていたのだ。
凄腕の暗殺者としてその名を知られる彼だが上には上がいる…。
玲二はエレンの身を案じずにはいられなかった。

そして一方の原田だったが、ふと気になることを思い出していた。
玲二…自分と同じく地獄から召喚された誰かがその名前を口にしてなかったか?
確か金髪の異人だったような…。

そしてそのころケルヴァンの部屋では…。
「いいねぇ…生きかえることが出来る上に玲二まで手に入れられるのなら願ったり叶ったりじゃねぇか」
荒っぽい口調で豪快に笑う金髪の少女の姿があった。
「まかせとけ、100人だろうが何人いようが無敵のファントム様が皆殺しにしてやるぜ」
やや呆れ顔のケルヴァンには構わず、口笛を吹きながら部屋を出ていくドライだった。
ドライが退出してから、しばらく経過したころ、ケルヴァンの配下が耳打ちする。
「女郎蜘蛛めが勝手なことをしておるようですが」
「今は捨て置け…こちらには切り札がある…それにしても冷酷無比な蜘蛛にこんな弱点があったとは」
ケルヴァンは部屋の中央の巨大な鳥かごの覆いを開く、そこには一人の少女が怯えた瞳で部屋を見まわしている。
彼女の名前は深山奏子、比良坂初音の恋人であり、すなわちこの世界で彼女が最も愛する存在だった。

「ほう…」 余程の深い絆で結ばれているのだろう、彼女の瞳には怯えはあれど恐怖はないことにケルヴァンは気が着いていた。
事実、奏子はケルヴァンの視線に気がつくとキッと彼の顔を睨み返したのだった。

(きっと姉様が助けにきてくださる…怖いけどそれまで私、負けない!)

【原田沙乃 所持武器 十文字槍】
【近藤勇子 所持武器 銃剣つきライフル】
【土方歳江 所持武器 日本刀】
【沖田鈴音 所持武器 日本刀】
【カモミール芹沢 所持武器 鉄扇】

【吾妻玲二 所持武器 S&W】
【ドライ 所持武器 ハードボーラー2丁】

【深山奏子 所持武器 無し】



前話   目次   次話