嘆息すべき事柄
「はぁ・・・。」
蔵女と葉月の様子を眺めながらリリスは不必要に大きなため息をついた。
「何でこんなことになっちゃってるんだろ?最低よね・・・。」
その手元には1冊の本があった。
「バランスが崩れれば、ここの本整理だけでもやたら面倒だ――まあ、嘘じゃないけどね。」
とはいえリリスはアルカディアにおけるほとんどの仕事を代理であるセイレンに任せている。
それ故そこまで時間に追われているわけではないから、やる気になればそれ程手間もかからないのは事実だ。
「”これ”が何でか本棚から落ちてなきゃね〜。」
苦々しく見つめる本に気付いたのは、蔵女が来る・・・異世界にロックがかけられる数十分前のことだった。
「うそ・・・破れてる・・・。」
リリスは乞食でも見るようにジトーっとした視線を1冊の本に浴びせた。
「マズイなぁ・・・。誰かしら外に出ちゃってるかも・・・。」
リリスは自身が扱うヤミの象徴ともいえる帽子、ジョウ=ハーリーの断片である失敗狩人――通称”コゲ”の一件を思い出し、再びため息をつく。
「大体、何で風もないココで物が落ちるわけ?」
その答えは永遠に出ることはないと思われた。
何故なら、彼女が以前イヴの編み物の邪魔をしようと自らを分裂させ、各本の中へ毛糸を持って入り込んだ際にセーラーちびリリスがその本につまづいて転んだからだ。
「まいったなぁ〜・・・。異世界を構築されちゃってるのもちょっと気になるし・・・。」
掃除機並みに魔力を吸い寄せている異世界の反応はリリスにとっても憂慮すべき問題だった。
もしかしたらこの本の綻びから外に出てしまった者が異世界に吸い込まれているかもしれない。
「・・・とはいえ私が入るわけにはいかないしぃ〜・・・。コゲはどこだか判らないし・・・」
つい最近までコゲはリリスが自作した、親であり、愛しい男性である”ヤミ・ヤーマ”のフィギュアにリリスによって憑依させられていた。
しかし、たまに起こる世界の綻び――つまり図書館の本の損傷があると狩人の代わりに汎用性のあるコゲと修正案内人であるケンちゃんを投入していたのだった。
誰か安定して作業が出来て、かつ利用価値の高い者はいないか・・・。
そんな思案をしている時に現れたのが他でもない、蔵女だった。
リリスは本のことについては触れず、頭を掠めた本整理の問題を蔵女にぶつけたのである。
敢えて葉月をついて行かせたのは彼女に異世界に紛れ込んだ者の確認と保護、もしくは観察を命じた為もあった。
「とにかく、2人に頑張ってもらってるうちに他にも破れた本がないかだけは確かめなくっちゃ!」
リリスは表面上は忙しそうにしながら館内に狩人を廻すのだった・・・。
【リリス:図書館内で思う】
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