崩壊する自我
こんな…こんな事があっていいものか…
女……もっと女を犯して…
そうだ──女だ。
犯して犯して犯しぬいて…そして犯しぬいて殺してやる…
まずは俺をこんな目に合わせたあの黒髪の女だ…あいつはボロクズみたいになるまで犯してただじゃ殺さねぇ…
犯してから犯してから……
勝沼紳一の意識が急激に闇に飲まれてゆく。
まだ…まだ……犯したりてねぇ…
そうだ…女を……お……犯………し…………………て…………
女の声が聞こえた気がした。
そうだ──これは────女だ。
勝沼紳一の意識は突如覚醒していく…
そして目を見開き
「犯してや……がはっ!!」
その声は最後まで発せられることはなかった。
そして今度は勝沼紳一の意識は闇に沈むのではなく…
俺が…俺でなくなっていく……
なんだこれは………これは俺が食われている!?
徐々に紳一の意識は消え去り…
女………犯…し…て…………………………………………………………………………
そして完全になくなった。
今日子は虚ろな目をしたまま勝沼紳一の体を見ていた。
「あたしは…また人を……」
「言うな今日子、その男はどの道助かりはしなかった。お前のせいじゃない」
(それに…死んだ方がいい男でもある……)
光陰は今日子に止めを刺された男の顔に見覚えがあった。
バスジャック犯であり、そしてその所業は…死を持っても軽すぎるものであるとも言えた。
しかし──
(相手がどんな奴だったか、そんなことは今の今日子には関係ねえ。相手がどれだけの魔力を持っているかだ)
そして、人を殺したという事実も、相手が何者であったとしても関係ないことであった。
「ねえ…あたしはいつまでこんなことしなくちゃいけないのかな……」
「…」
「光陰、いっそのことあたしを……」
「なあ今日子、俺はいつまでだって一緒にいる、魔力が必要なら…俺が集める。言ったはずだぞ」
光陰はいつものように軽い調子で話しかけるが…
(また、あの目に戻っちまったな…)
今日子は先程までしていた光のない虚ろな目に戻ってしまった。
「…」
光陰の言葉も今日子には届かなかったようだ。
「因果…どうにかならないのか……そうか……無理だよな。本来なら殺しあってる仲だもんな」
しかし光陰はもう決めてしまったのだ。
それでも今日子を守ると。
(俺が因果に取り込まれる訳にはいかない…、当然死ぬわけにもいかねえ。
悠人お前もここに来てるのか?できるならあんなのはごめんだけどな…)
この世界に来る数瞬前まで悠人と光陰、今日子は敵同士として向き合っていた。
光陰にはとっくにその覚悟はできていたが、悠人はその瞬間になってもなお躊躇していた。
(本当は誰もそんなこと望んじゃいねえってのに…上手くいかないな)
その時──頭痛が──因果からの干渉が───した。
(あきらめたんじゃなかったのか!?お前もしぶとい…違う?)
それは誰かの負の感情の伝播──怒り、悲しみ、憎しみ、その全てであった。
(一体誰の…今日子!!)
光陰が目にしたのは頭を抱えうなされる今日子。
「ああ……うわああああああああああ………あたしの中に入ってくるなぁあああああああああああああ」
「今日子!!しっかりしろ!!俺が傍にいる!!」
その感情は光陰にとっては映画のワンシーンを見ているようなものであったが…今日子には空虚の干渉に感じられたのだ。
光陰の頭痛が治まった後
「殺せ…魔力を………集めろ」
うわごとのように今日子でないものが今日子の声で言葉を発している。
空虚が満たされない限り今日子への干渉──苦痛は続くのだろう。
ならば光陰のやることは既に決まっている。
(お前を守るって、魔力を集めてやるって、それが俺の決めた道だからな…)
【碧光陰@永遠のアセリア(ザウス)招 状態○ 所持品 永遠神剣第六位『因果』】
【岬今日子@永遠のアセリア(ザウス)招 状態○ 所持品 永遠神剣第六位『空虚』】
【勝沼紳一@悪夢(メビウスソフト)狩 状態死亡 所持品なし】
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