代価と代者へ
「後は、頼んだぞ……」
ケルヴァンへの通信を打ち切ると、ヴィルヘルムは、上機嫌であった。
「雑魚どもといえど、ああすれば中央結界の守護になる。
さて、とっとと侵入者を排除して、要塞へ戻るとするか……」
葉月と蔵女たち、リリスに送られたものへの探索を開始しようとしたその時。
「ごふっ……!?」
突如、胸の痛みと共に彼の口から血が吐き出された。
咄嗟に抑えた右手が血にまみれている……。
(何故だ!?)
彼は、必死に原因を突き止めようと考え出した。
(くっ、まさか、大規模な魔法の連続使用がここになって響いてきたのか……。
さしあたって、世界を守る結界を張ったのが止めと言うわけだ……)
吐血したものの、その後に続く様子は、現在ない。
どうやら今のところそれ以上の障害が出る恐れはないようだ。
(普段なら耐えれるのであろうが、連続した大規模な術の使用とあい重なったおかげで、結界の副作用が
ダイレクトに身体に響いてきていると言うわけか……。
今は止まったが、このまま居ればまた身体が悲鳴をあげ始めるのは間違いない、
中央に戻り、再び陣のある部屋に戻り瞑想に徹すれば、負担は軽減できるが……。
止むを得ん、余がここで倒れるわけにはいかん。 早急に戻るしかない)
彼の身体を少しずつ光がつつみはじめる。
所定の場所に戻る事の可能なワープ魔法である。
光が瞬いた時、光と共に彼の姿は森から消えていた。
要塞中央ホール。
ケルヴァンは、結界に近づくものを感知して、対処の為に向かっている所である。
「やれやれ、中央を目指すものが現れ始めたか……」
また要らぬ雑用が増えたとため息をつきながら、部下へ命令すべく歩いていたケルヴァンの目の前に、
正確には中央ホールの床に描かれた魔法陣の模様の中心に、彼にとって一番会いたくない人物が現れた。
「これは、総帥。 お早いお帰りで、如何致しましたか?」
一礼を取りながらも今度は皮肉交じりに、彼は目の前に現れたヴィルヘルムへと話し掛けた。
「うむ……。 急用ができたのでな。
ケルヴァン、余の留守の間の守りご苦労であった」
(ちっ、もう少し出かけていてもらえば、此方も動けたのだが……)
顔には出さずに、ケルヴァンは心で舌打ちをした。
「ケルヴァン」
「はっ!?」
「余は、再び瞑想に戻る。 引き続き管理を頼むぞ」
「了解しました」
ケルヴァンが礼をすると総帥は、そのまま奥へと消えていってしまった。
(どう言うことだ?)
ケルヴァンは、突然のヴィルヘルムの帰りに疑惑を抱いていた。
(急用ができたから瞑想? 奴が出陣した時、明らかに私の失態以上の何かがあったのは確かだ。
それがまだ終わってないと言う事なのだろうか? だがそれで瞑想が急用となるのは何故だ?)
悩んでも結論は出ない……。
だが、彼は再び瞑想へと出向いてしまった。
しかし、ケルヴァンも無能ではない。
自分の情報が先ほど露見していたのに対して、ほぼ状況を掴んでいる。
(前回、情報漏れを起したのは、死者の魂が原因と見て間違いないだろう。
中央に集まってくる魂の残留思念から読み取っていたのだろうな)
ならば、それに気をつけ、対策をこうじればいいだけだ。
(再び瞑想に戻ってくれるのならば、都合がいい……。
今度こそ、慎重にやらねばな)
そう言うとケルヴァンは、結界に近づいてきたもの達にたいして、自ら出向くのであった。
一方。
再び部屋へと篭り瞑想へと戻ったヴィルヘルム。
(こうなってしまっては、しばらく余は動く事はできん……。
余の意を代わりに伝える忠実な部下が欲しい。
幸いこれだけの魂があれば、余の負担なしで召還は可能だ)
ヴィルヘルムとケルヴァン、それぞれの策略がめぐり始めていた。
【ヴィルヘルム・ミカムラ@メタモルファンタジー(エスクード) 鬼 状態△ 所持品 無し 】
備考:瞑想を止め、部屋から出た場合身体への負荷がかかり始める。時間が経過すればするほど、中央から離れれば離れるほど負担大。
前話
目次
次話