天才達の邂逅






(つぅ・・・)
ナナスは頭を殴られたような衝撃で目を覚ました。
(僕は・・・いや僕たちはどうしたんだっけ?)
ナナスは記憶を辿り状況を思い出そうとする。
確か郁美と共にアイと名乗る少女から逃げるために海に飛び込んで・・・
「そうだ・・・彼女は郁美さんは・・?」
泳いで逃げている途中で力尽きたのだった。

「おや・・・また間の悪い時に目を覚ましたものだね」
「あなたは・・・?」
ナナスはどこともつかない廃墟の一角に寝かされている。
少し離れた所に郁美が寝かされているのが確認できた。
「うう・・・つっ!」
郁美がうなされている。
「どういう事だろうね・・・この場にいる3人が同時に苦痛を訴えるなんて。もしかすると新手の音波兵器か何かかもしれないね」
ナナスは声のした方向に頭を向けて・・・ロングヘアーの女性の亡骸を視界に入れた。
別に死体を見るのは初めてというわけではない。
しかし死体が話すというのは・・・
「ああ、こっちだよ。別に死体が喋ったとかいう非科学的なことはないから安心してくれ」
よく見ると女性の亡骸の挟んでナナスを同じくらいの年頃の少年がうずくまっていた。
「君が目を覚ました瞬間に急に頭痛がしてね。実際問題この島の主はなにをする気なのやら
それに君もかなり情けない。女性に守られるように抱きかかえられて倒れているとは。僕の周りはそんな男ばかりだね」
「あまり長居したい場所ではないが他に風雨をしのげるような場所が近くになかったものでね。
ここまで運ぶのでも大分苦労したのだよ」
ナナスを滑舌に話す少年を凝視していたが相手はそのことに気づくと
「自己紹介がまだだったね、江ノ尾忠介。忠介で構わないよ」
「僕はナナスだ。この人は郁美さん・・・一つ聞いても構わないかな?」
「この島のことなら僕も全く知らないよ」
「そうじゃないんだけど・・・その女性は?」
ナナスは傍にあった亡骸、高円寺沙由香の亡骸を見て言った。
「僕がここに着いた時は既にこの状態だった。即効性の毒物を傷口から塗布でもしたのだろうね。
最も毒物を使用しなくてもいずれは失血死した可能性が高いがね・・・」
忠介の表情を見てナナスは嘘をついてないと判断した。
これでも一国の将を束ねる身である。人を見る目はあるつもりだ。

ナナスは上半身を起こし壁にもたれて忠介に自分達の事を説明した。
イデヨンの秘密が盗まれ、アーヴィが攫われた事。
郁美と出会い、アイと名乗る少女の誘いを断った事。
逃げるために海に飛び込んだ事。
(刺客であるなら僕らを助ける必要がないからね・・・少なくともアーヴィを攫った人の仲間ではないようだ)
一通り説明を終え忠介は
「なるほど、しかし魔力というのは・・・」
「僕らの世界には魔法だって存在する。異世界の人には信じられないかもしれないけれど」
「なるほど・・・しかし僕は魔法なんて使えないのだがなぜここにいるのか」
「僕が、多分ここに召喚されるときだと思うけれど光に包みこまれた。仲間が近くにいたから巻き込まれた
可能性が高い。君も誰かそういう人の近くにいて巻き込まれたということは・・・」
忠介は少し思案顔になったがすぐに
「いや、巻き込まれたという可能性はないな。むしろないという方にしておいた方が精神的な負担が軽くなる」
「巻き込まれた場合だと刺客が来るかもしれない。魔力を持たない者はこの島の人間には邪魔なだけだろうから」
「どの道他人に媚を売って生き延びようとは思わないね」
忠介はナナス達と同じ道を選んだということだ。
「どの道この島の主には会いに行こうと思っていたし、君の話で・・・彼女がなぜこんなことになったのかわかった」
忠介は物言わぬ少女を見つめながら呟いた。
「とりあえず郁美君が目を覚ましたら行動を開始しようか」
忠介の言葉には有無を言わせない雰囲気があった。
もし忠介のような人物がナナスの軍にいたら・・・
(こんな時に何を考えているんだろう?僕は)
「ナナス君、転送装置は君が発明したものだろう。特徴は君が一番よく知っていると思うのだが」
忠介の言葉に我に返ったナナスは軍師としての頭脳を働かせ始めた。
「そうだね。まずイデヨンは一番重要度が高い施設・・・多分島の中央だろうね。あと敵は魔術に詳しい。
相当な知識がないとイデヨンの仕組みを理解することはできないから」
それと───ナナスは更に言葉を続ける。
「召喚者の中にアーヴィのような魔術の心得がある人間を想定して、ある程度の防衛力、結界を張ってると思う」
「ずいぶんとお約束な展開だね・・・靖臣なら喜ぶのかもしれないが。で、当然結界を破る方法は存在するのだろう?」
「うん。多分向こうの術者による結界を外部からの補強で補ってると思う。その外部装置を破壊すれば結界に綻びができる」
「ここに来る途中に遠目に建物があったがそれかな?人がいそうにない雰囲気だったので立ち寄ったりはしなかったのだが」
「護衛がいなかったのかい?この大胆な計画を実行した人物がそんな杜撰なことをするとは思えないけど。
少し調べにいく必要があるね」
「まずするべきことは決まったね・・・ナナス君はもう少し休んでおいた方がいい。郁美君の事は僕が見ておこう」
「わかった。郁美さんが目を覚ましたら起こして・・・」
ナナスは無理が祟ったのかそのまま眠りに落ちていった。

一方忠介は・・・
(まさか・・・あの蛙が魔力・・・宇宙人・・・・・・・まさかね)
彼なりに自分の精神を守るために思考していた。

【ナナス@ママトト(アリスソフト) :招 状態△ 所持品なし】
【江ノ尾忠介@秋桜の空に(Marron):招 状態◎ 所持品、改造エアガン、手術用道具入りケース、
液体の入った小瓶3個(うち1個は、塩酸残り半分)、ミノタウロスの皮膚を貼り付けた服(白衣ではない】
【小野郁美@Re-leaf(シーズウェア) :招 状態△ 所持品なし】

時間はデリリュームにおいてのハタヤマ覚醒と同時刻。



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