下っ端はつらいよ






 総帥の間こと新闇魔法学会本部。
 ごそごそと整備をする三人組の姿があった。
 「幹部ぅ、俺たち雑用しかさせて貰ってない気がするんですが……」
 「そうですよぉ、それにこの計画本当に上手くいくんですか?」
 「うるさい! 忘れたか、我々には理想郷を作るという偉大な目標があることを!」
 「だからって、魔王復活より無茶な計画だと思いますよ」
 「やかましい! 総帥様のいない間に任された機械整備ちゃんとやらんか!!
  大体、賞味期限の切れたカップラーメンの生活から解放されたのは誰のおかげだと思っておる!?
  そしてこの計画が成功すれば我々の生活もより豊かになる!!
  これも全て総帥様のおかげじゃ!!」
 「でも、やってる事はあんま変わりないですよ……」
 「そうそう、俺たちどうせ下っ端のままな気がするなぁ」
 闇魔法学会員AとB。 そして幹部。
 彼らは、闇魔法学会摘発を逃れ残った三人であり、魔王復活の目標を変え
 新世界を作るヴィルヘルムの考えにも従い、そのままついてきたのだった。

 「何を言うか!!
  例えば総帥様が練りわさびチューブを一本丸ごと食えと仰れば、
 おまえらはその通りにせねばならん!!
  総帥様が明日から全員モヒカンで参加を呼びかければ、
 北○の拳の雑魚と間違われようとも実効に移さねばならん。
  総帥様が夜中にコンドームを買ってこいとおっしゃれば、
 例え店員に白い目で見られてもレジまで持って行かねばならぬのじゃ~っ!」
 「げっ!」
 「俺、この世界から帰してもらってもいいですか?」
 「馬鹿者!!」
 幹部は、ドガン!! と手を打ち付ける。
 「総帥様のためにも……。 いや、人類の為にもこの魔法に満ちた理想郷を作り上げねばならんっ!」
 「幹部……」
 「召還した者たちを招きに行ってる同志たちがいるというのに、我らが働かんでどうするというのだ!!」
 「幹部……」
 「おお、解ってくれたか! A! B!」
 「いえ、幹部、それスイッチ押してますよ……」
 「連絡用の放送装置ですね……」
 「し、しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
 「あーあ、どうするんですか、幹部」
 「俺知りませんよ」

 スイッチは慌ててきったものの
あたふたとする三人の前に、ドアを開けて入ってくる男が一人。

 「「「ケ、ケルヴァン様!!」」」
 つかつかと歩いて三人に近寄ってくるケルヴァン。
 「いえ、これは幹部がやったことでして、俺たちはなにも……」
 「なっ、お前らずるいぞ!!」
 「うう、そんなに怖い目で見ないで下さいよ」
 三人の前に立つとケルヴァンは、水晶を差し出した。
 「総帥から直々に通信だ……」
 「「「げげぇ~……」」」
 『貴様ら!!』
 水晶から総帥の声が聞こえてくる。
 いつも水晶を通して総帥の指令を受けていた彼ら三人には慣れた風景である。
 「ははーっ!! 申し訳ありません。 部下どもが総帥様の言う事を……」
 「なっ、スイッチ押したのは幹部じゃないですか……」
 醜い責任の押し付けあいを始める三人。
 『良くやった』
 が、彼らの予想を裏切った声がかけられる。
 「はっ、それはどう言う事で……?」
 『余とした事が、盲点であった。
  一人一人出向いて迎えに行くよりも全てに連絡をしてから
 歯向かう物を排除し、迎えを出すというやり方を取ればよかったわ。
  我ながら呆れる……』
 「で、では、我々の事は……」
 おそるおそると幹部がヴィルヘルムへと伺いを立てる。
 「うむ、此度の件は、褒美を取らせよう」
 「ほ、本当でございますか!?」
 「やりましたねぇ、幹部」
 「バカもん、この功労は私のおかげであろうが!」
 『心配せんでもちゃんと三人にやるわ』
 「「「へへぇ~」」」
 『では、それについてはケルヴァンに任せてあるゆえ、彼から受け取るが良い』
 「「「ありがとうございます」」」
 そして水晶の輝きが終わり、総帥からの通信は終わった。

 「それでは、案内しよう……。 ついてこい」
 くるりときびすを返し、部屋を出て行くケルヴァン。
 それに追従していく、三人。

 そして、彼ら四人がついた部屋は、いかつい魔方陣の用意された儀式用の広い部屋。
 「あの、ケルヴァン様、ここは……」
 明らかに褒美が出されるような雰囲気の部屋ではないのに恐れを抱きだす三人。
 「三人とも、この水晶に触れよ」
 そういうと三人の前に三つの水晶が浮かび上がった。
 「あのぉ、それに触ると何があるんでしょうか?」
 『余の心遣いが気に食わんというのか?』
 各水晶から総帥の怒声が鳴り響く。
 「そ、総帥様、わ、解りました。 直ぐに触らせていただきます」
 ぺたっと三人同時に水晶に手を触れる。

 「触りましたが?」
 べきべきべきべき、ぶっ、ぐが、ごぼ。
 三人の身体が異様な音と共に曲がり始める。
 「うがっ、ぐあああ、ぎゃぁぁ……」
 「か、身体の骨が折れる……」
 『くっくっくっく』
 「そ、ぞうすい様……。 なにをぉ」
 『貴様らにフェンリルの力を与えた』
 「うがぁぁぁ、ぐげえええええええええええ」
 『喜ぶがいい。 その強大な力が褒美だ』

   やがて、悲鳴と共に、身体が変化し終えると三人は魔獣フェンリルの姿へとなった。
 「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁ!!」
 『ケルヴァンよ、この三匹への指揮権は貴様に任せた』
 「はっ、では、東西北の結界を維持する装置を守護させるとしましょう」
 『では、余はもう少ししたら戻るゆえ、留守を頼んだぞ』
 ぶぃんという音と共に水晶の光が消える。
 さっそくケルヴァンは、三匹の魔獣へと命令をかけると部屋を後にする。
 そしてフェンリルたちは、ケルヴァンの命令を受けるとそれぞれの持ち場へと向かっていくのだった。


【フェンリル@メタモルファンタジー: 魔獣 状態良 東の結界装置を守護】
【フェンリル@メタモルファンタジー: 魔獣 状態良 西の結界装置を守護】
【フェンリル@メタモルファンタジー: 魔獣 状態良 北の結界装置の守護】



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