何思う






 ハタヤマの触手は何度も引きちぎられ、段々とダメージが蓄積されていく。
 単純な魔力のぶつかり合いなら、ハタヤマに分があった。
 だが、アイはその手の相手のスペシャリストである。
 もし、人間へとハタヤマが変身できていたら、勝っているのは彼だっただろう。
 今のハタヤマは絶望に陥り、憎しみと怒りのままに暴れるだけである。
 そんな相手に冷静なハンターであるアイが不覚を取るはずもなく……

 「あうぅうううぅぅぅぅ…………」

   ダメージが、疲労が臨界点を超えた時。
 ハタヤマの身体がだんだんとしぼんでいく。
 元のぬいぐるみの姿へと戻っているのだ。

   「ちくしょう……。 よくもよく……」

 泣きながら、嘆きながら……。 やがてハタヤマの意識は消えた。

 「ここまででね……」

 アイが意識を失って倒れたハタヤマへとロッドを伸ばす。

 「やはり来たか!?」
 司令室で使い魔を通して、見ていたケルヴァンが叫んだ。
 そうアイのロッドはハタヤマへと届かなかったのだ。
 地面から映えたツララが、彼女のロッドを打ち砕く。

 「なっ!?」

   驚愕する彼女がハタヤマの周りを見渡す。
 まるで彼を守るかのように、ハタヤマを中心に回りにツララが生えている。

 「ご苦労だったな……。 後は余がやる。 貴様は元の仕事に戻れ」

 森の方から、ヴィルヘルムがゆっくりと姿を現した。

   「……従わない者は糧となって貰うのでは?」
 おそるおそるアイがヴィルヘルムへと不満をぶつける。
 「貴様の……。 いやケルヴァンのおかげでこいつらを飼いならすチャンスができたという事だ」
 一瞬、ヴィルヘルムは使い魔の方へとニヤリと笑って見せた。
 「解りました……。 総帥がそう仰るなら従いましょう」
 アイは礼をすると、下がり消え去っていった。

 「くっはっはっはっはっは!!」
 司令室にケルヴァンの笑い声が響き渡る。
 「やれるものなら、やってみるがいい!!」
 段々と意識が戻ってくる。
 そうだ……。 ぼくはあいつに向かっていって……。 適わなくて……。
 アーヴィちゃんは!?

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあああぁぁぁあぁ!!!!」

 叫び声を上げながらぼくは目覚めた。

 「OH!! ミスター・ハタヤマ!!」

 目覚めたぼくの前に突如として、浮かび上がる校長の顔。

 「禿ヘルム!!」

 「ノオオオオオオオオオオオオオオ!! アイ・アム、ヴィルヘルム!!」

 夢じゃない。 ぼくの前にはハゲが立っていた。
 でもなんでこんな所にハゲが?
 ぼくやアーヴィちゃんみたいに飛ばされたのかな?

 「ミスター・ハタヤマ。 大丈夫でぇすか?」

 そうだ、アイツは!? アーヴィちゃんは!?
 意識を戻すとぼくは直ぐさまに当りを見回した。

 「アーヴィちゃん!!」

 ぼくの横にアーヴィちゃんが横たわっている。
 どうやら意識を失っているようだ。
 生きてる!? 怪我は!?
 彼女の身体をくまなく見てみる。 けど服のやぶれ以外に外傷は何もなかった。

 「まさか校長先生が?」

 「HAHAHAHAHAHAHA!! イエース。 危ない所でした」

 そういえばこのハゲって魔法に関してだけは、世界一といってもいいくらい凄いんだよね。

   「いやー、流石校長先生。 助かりましたよ」

 助けてくれたお礼をハゲにする。

 「ミスター・ハタヤマ……」

 な、なんかハゲがまじだよ? 凄い真剣な顔で話し掛けてくる。

 「ユーの最近の魔法の上達振りは素晴らしかった。
 入学した時はただの落ちこぼれだったのが、今では禁断の闇魔法をメタモル魔法を覚えるとは……」

 げ、さっきのぼくの変身してた姿を見られた!!
 まずい、まずいよこれは……。
 けど、ぼくの心配とは裏腹にハゲは喋りだす。

 「憎しみや悲しみ、怒りに捕われて魔法を使ってはいけない」

 !? ぼくはビックリした。 さっきのぼくの心情を知っているからだ。

 「魔法とは……。 本来全ての生き物に眠っている素晴らしい力なのだ。
  人々は努力し、その力を開花させる事によって魔法を覚える。
  それぞれ自分の中に眠っている力なのだ。
  それは願いを叶える力、何かを思う心によってより強くなる」
 「突然何を言い出すんですか……」

 「だが、その力を決して間違った方向へと向けてはならん。
  怒りや悲しみ……。 負の感情で使うべきものではないのだ」

 校長が何を言いたいのかがなんとなくだけど解る。
 さっきのぼくは負の感情に捕われていた。

 「欲望に捕われて使う魔法より、何かのために使った時こそ、魔法は真の力を発揮する」

 なんとなく、篠原さんに怒られているような気がした。

 「ハタヤマよ。 余の元に来ないか? 余の元でより強くならんか?」

 なんとなく校長が何者か解る。
 断れば命がないかもしれない。 けど……。

 「すみません、校長先生。 ぼくはみんなのいる世界に帰りたいんです」

 「何故だ?」

 「アーヴィちゃんがそう願うからです」

 まだ会って数時間しか経ってないけど、それでもぼくは彼女の為に何かをしたかった。

 「そうか……。 ならば、それをやってみるがいい。 そして強くなれ。
  その時、余は再び貴様の前に姿を現そう」

 その言葉を残して、校長はぼくの前から姿を消していった……。
 『随分とハタヤマを高く評価してますね……』
 移動するヴィルヘルムへとケルヴァンの念話が届く。
 『これで彼らはより強くなる。 その時こそ彼らは余の計画に欠かせぬ者となろう』
 『歯向かうかもしれませんよ』
 『何のタメに恩をわざわざ売っていると思うのだ?』
 『ですが、総帥ご自身がルールを破られては部下への示しが……』
 『ケルヴァンよ……。 先に破ったのは貴様ではなかったか?』
 『まさか!?』
 ケルヴァンは驚愕した。
 あれを把握されていたからだ……。
 『上村雅文……。 こやつを殺さず暗示をかけ、殺戮者と化させたな?』
 『ぐっ…………』
 『双子の回収は良くやった。 だが何故あのような事をした?
  それにより望む者が殺される危険性は考えなかったのか?』
 『…………』
 『貴様は、そうやって殺戮者を作り出すことにより、人を極限状態へと陥りさせ、
 望みの王の誕生を待とうとしたのであろう?』
 ケルヴァンは、総帥のいわんとしている事がわかった。
 等価交換。 今回の事は互いに目を瞑れという事である。
 『解りました。 今回の件に関しての追求は止めましょう』
 『それでいい』
 『ですが、忘れないで下さい。 あまり目に余る行動をされると部下の中には不満を抱くものも現れます』
 次は此方にも考えがある。 ケルヴァンの言葉はそう意味している。
 『肝に銘じておこう』
 「アーヴィちゃん、気が付いた?」

 校長が去った後、アーヴィちゃんがやっと目を覚ました。

   「え、ここは? グラサンの人が私の前にきた後……」

 ぼくは、何があったのかをアーヴィちゃんに説明した。

 「ごめん……。 ぼくのせいでアーヴィちゃんを……」

 ぼくはひたすら謝りつづけた。
 そうする事しか考えが浮かばなかったからだ。

 「ハタヤマさん、私は怒ってなんかいませんよ」
 「えっ!? ぼくのせいで死にかけたのに……」
 「私の兄さんも同じ事を言う人なんです……。  
  ハタヤマさんの姿が兄さんの姿に重なって……。
  それで攻撃できなくなった私にも非があります。
  だから、あんまり自分を責めないで下さい」

 アーヴィちゃんがにっこりと笑顔を向けてくれる。
 ぼくには、それが眩しかった。

   「それにしても、ハタヤマさんが思うには私たちを助けてくれた方が犯人であると?」
 「うん……。 そんな気がするんだ」
 「……中央に行ってみませんか? そこで全てを見極めましょう」
 「でも、また危険な目に会うかもしれないよ!?」

 できるなら、もうアーヴィちゃんを危険な目に会わせたくない。
 「大丈夫です。 今度は私も不覚を取りません」
 「強いんだね、アーヴィちゃんは……」
 「私から見たら、ハタヤマさんの方が強いですよ」
 「そうかな……」
 「そうですよ、ハタヤマさんはもっと自分に自信を持ってください」

 そうだ、ぼくがこんな所でイジイジしてるわけにはいかない。
 彼女の為にも、今度こそぼくが何とかしなくちゃ!!

 「よし、任せてよ!!」

   絶対に彼女の笑顔を守るんだ!!

【ハタヤマ・ヨシノリ@メタモルファンタジー(エスクード):所持品なし、状態○ 招】
【アーヴィ:所持品:魔力増幅の杖、状態△(病み上がり) 招】



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