序章?






 ヴィルヘルム・ミカムラ。
 絶大なる魔力と魔術に関する知識を保有し
魔法の世界「アンゴルノア」では、魔法オリンピックで5つもの金メダルを奪取した元国民的英雄であり
同時に魔女っ娘育成専門学校「私立聖泉エンゲル魔法学院」の学院長も勤める。

 だが、そんな彼の裏の姿は、世を脅かす闇魔法学会総帥。
 彼は、誰よりも魔法を愛していた。
これこそが、人類にとって必要不可欠なものであるのだと思い
長い時を生きながら、その研究に没頭した。
 やがて近年になり、科学文明の発達により魔法は弱体化していった。
年々落ちていく魔女っ娘たちのレベル、彼は嘆いた。
 そして、魔法の発達のために、彼は魔女っ娘育成専門学校を開く事にした。
しかし、科学文明の発達により、魔法を覚えなくても生活がどんどん楽になっていく最中
段々といい加減な気持ちでプロの魔女っ娘を目指す生徒も増えてきた。
 何が彼を駆り立てたのだろうか? 何処で道を踏み外したのだろうか?
彼は禁じられた闇魔法を用いて、世界を恐怖に脅かす闇魔法学会を設立したのだった。
 『魔法でなければ適わぬ敵がいれば、平和を守るために、敵を倒すために、人々は再び魔法を手に取らなくてはならない』
 正気とは思えない考えである。
だが、彼にとってはこれは正義であった。
魔法を忘れていく愚かな人類に生物達に、自らの手で必要性を与えてやろうと。

 魔王の復活も目論んだ。 自らが魔王となることも考えた。
だが、進みゆく科学文明の前に、魔法はどんどんと過疎していく。
 悪の総帥として、自らの教え子たちと戦いながらも
彼は、長い間、研究に没頭した。
どのようにすれば、魔法を再び繁栄させる事ができるのか。
どれも成果を上げぬまま、時だけが過ぎていく。
 次第に彼は、自分のやっている行動に疑念を持ち始めた。
 例え、魔王と復活させても、この身を闇の王と変えても
今のこの状況を打開するほどのものなのだろうか?
 そうだ、ならばいっそ望む世界を一から作ればいい。
魔法が栄え、誰もが魔法の恩恵で生きる世界を。
魔力に満ち溢れた新しい新天地を!
 それからの彼の行動は、異世界に関するものを片っ端から調べ始めた。
研究の成果で、小規模ながら異世界へと繋げる術も覚えた。
そして、彼の目的に必要な技術と知識、そして人材を着々と揃え始めていった。
 初音は、銀を倒すための力を蓄える贄の苗所を条件に強大な力を。
 ケルヴァンは、覇王の生きる世界を作る目的への協力を条件に魔術に関する知識と魔道兵器を。
後は、どのようにしてケルヴァンによってもたらされた術式により完成された新しい世界の島へと力あるものたちを招くか。
今はまだ小さな島のある世界にしか過ぎないが、魔力のあるものたちを揃え
その力を使い、発展させていき少しずつ世界を広げていく。
これが彼の考えた目論見であった。

 だが、重大な問題が一つたちはばかった。
それだけの力を持つ者を召還するには、しかも大勢。
とてつもない程の莫大なエネルギーが必要である。
 彼は、そのために色々な世界を覗き回った。
そして、やっと彼の望みにあう代物を発見したのだ。
ナナスが作成している異世界から勇者を召還する事のできる「イデヨン」。
 イデヨンが着々と完成へと向けられている間に
三人は必要な魔力を蓄え、この世界と招かれるように誘導する術を練り上げた。
 そして、イデヨンの試運転の日。
こっそりと進入していたケルヴァンを通して総帥が
魔力を送り込みイデヨンを暴走させた。
そうやって、次々と召還されていく者達を島へと導いていったのだ。
 島の中央。
結界にはばかれ、力のないものはその場所を通り抜けてしまい
行きつく事の出来ない場所に彼らの根拠地である要塞はあった。
中には、この世界を構築するための術式方陣と補佐する魔道装置。
そして、召還魔方陣等が設置されている。
 「さて、結界の維持と魔力の蓄えのために余は少し眠りにつくか……」
彼の計画は、まだ始まったばかりに過ぎない。



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