不敵






ここで時間は武器庫襲撃直後に遡る。

『あんっあんっあんッ!』
『がはははははははは!』
要塞内のある一角に、不必要なまでに豪奢な扉があった。
その左右には、門番らしい人らしき者が二人立っている。
何故「人らしき」者なのかと言うと、片方が甲冑を身に纏った骸骨で、
もう片方が体こそ人間だが首から上が馬だからである。
『んっ!ランスぅ!もっと、もっとぉ!』
『がははははは!可愛いぜカレラちゃん!』
『やんッ抜いちゃ駄目!駄目だってばぁ!』
『安心しな、ここを……こうやってッ!』
『ひああっ!こっ、こんなのぉ!』
『どうだ?悪魔でもこんな姿勢ですんのは初めてじゃないか?』
『あんっ!ひっ、久しぶりよぉ!』
『チッ、経験済みか……だが、俺様のハイパー兵器でこうするとな……っ!』
『あひぃっ!最高、最高よぉっ!ランスのコレ、太さも硬さも最高なのぉ!』
『くっ……そっちこそ流石は悪魔、カレラちゃんの締りも最高だぜ!』
『嬉しい……ねえ、イッて、アタシの中でランスのお汁出しまくってよぉ!』
既に数時間、こう言った声がその扉の中から漏れ続けている。
「……ブヒィィィィン!もう我慢できねぇ!」
扉向かって左に立つ馬男が、突然嘶きを上げた。
見れば、その股間は『馬並み』の言葉に恥じずその辺の奥様方が見れば溜息が出て
腰をくねらせそうな程に激しくいきり立っている。
「ヒヒィィン!お、俺も混ぜろぉ!」
もう一度嘶き、部屋に突撃しようと馬男は扉に手をかけた。それを後ろから羽交い締めにして
必死に抑えようとする右の骸骨。
「やめるでヤンス〜!」
「止めるなカトラ!あんな声延々聞かされて我慢できる程俺は年寄りじゃねぇ!」
「スタリオン!さっき同じ事言って突っ込んで、ランスの兄貴に殺されかけたの
 忘れたでヤンスか!?」
「……………」
スタリオンと呼ばれた馬男の動きが止まる。
よく見れば、彼の着ている鎧には大きな亀裂が入っていた。
また、馬の顔の為に分かりにくいが眼の所に握り拳大のあざが残っている。
「……クソッ、面白くねえ!」
毒づきつつ扉の手を放す。
「大体、何であんな人間の言う事を聞かなきゃならねぇんだ!?」
「仕方無いでヤンスよ」
カトラはそう言って(骸骨なので表情は変わらないが)苦笑する。
それに激昂するスタリオン。
「何が仕方が無いだ!?ここに召還されたばっかりの俺達に『お前等、雰囲気が手下っぽい
からこれから俺様の子分』って言ってきただけじゃねえか!」
「それで『俺達に勝てたらなってやるぜ!』って言って襲いかかって、二人とも一撃で
 負けたでヤンス」
「あ、あれは召還されたてで油断してたからだ!今度やったら……!」
「本気で殺されると思うでヤンス。ランスの兄貴、ありゃ下手すると魔界の者以上の
 強さと鬼畜な魂を持っているような気がするでヤンス」
「カトラ!手前どっちの味方……!」
と、そこでスタリオンは急に言葉を止めた。

廊下の向こうから、一人の騎士が歩いて来る。
その風情、峻厳にして高潔。
2mを越す体躯と、背負われたそれ以上に巨大な剣。
真紅に彩られた板金鎧に顔以外の全身を包みながらも音一つ立てぬその姿。
1400の齢を重ねたヴァンパイアにしてロードヴァンパイアに仕える騎士、ギーラッハである。
「ギ、ギーラッハの大将、お疲れ様ッス!」
「ギーラッハの大将、お疲れ様でヤンス!」
自分達とは比較にならないほど上級の『闇の者』であるギーラッハに対し、緊張した礼をする二人。
ギーラッハはその礼に僅かに首を頷かせて返すと、カトラに視線を向けた。
「……ランスと言うのはこの中か?」
「は、はいぃ!そうでヤンス!」
少し声を裏返らせて答えるカトラ。
その返事が終わるのを待たず、ギーラッハは扉に歩み寄った。
『フフ、また大きくなった』
『わはははは。当たり前だ、俺様のハイパー兵器は発射無制限だぞ』
『ランス、今度はアタシが上になるわ……思いっきり動いてあげる……』
聞こえてくる声。しかしギーラッハの表情には小波一つの揺らぎも見えない。
「あ、あのギーラッハの大将!アッシが呼びますから少し待って……!」
焦るカトラの声を無視し、ギーラッハは扉を開けた。

まず部屋に入ってギーラッハを出迎えたのは、匂いだった。
大量の汗と愛液、精液が入り混じったむせ返るような淫臭が鼻を突く。
ある意味、恐ろしくシンプルな部屋だった。
方形型の部屋の中央に5〜6人は入れるであろう巨大な円形ベッド。
枕の付近に手の届く位置に小さなテーブルがあり、上には果物や料理、
酒が手を付けられずに置かれている。
まさしく『飲む、食う、交わる』以外の目的が存在しない空間であった。
そのベッドの上で絡み合う二人の男女。
不敵な笑みを浮かべ、大の字になって女のするがままに任せる若い男。
決してマッシブと言う訳では無いが引き締まった肉体は、実践でその筋肉がトレーニングではなく
実践で磨かれた物である事を物語っている。
どこか悪戯好きな子供を思わせる顔立ちは20前後と言った所だろうか?
「ほらぁ……入っちゃうわよ。ランスのおちんちん……」
そして、男の屹立した肉棒を潤んだ瞳で見つめつつゆっくり腰を落す肉感的な美女。
「はあぁ……!」
むっちりとした尻肉がぷるりと揺れ、口から悩ましげな吐息が漏れる。
強気そうな吊り眼とショートカットの緑髪が良く似合う女性であった。
只一つ、頭から生えた二本の角が彼女が人で無い存在―――悪魔である事を示している。
「うっ、動くね、動くわね……!」
進入してきたギーラッハに気付いていないのか、あるいはあえて無視しているのか。
彼女、悪魔カレラは腰を激しく上下させる。
サイズ90cmを遥かに超えるであろう巨乳が揺れ、室内の淫臭が更に濃さを増す。
その光景は、経験の少ない少年であれば見ただけで射精してしまうかもしれない程に淫らなものであった。
「……邪魔をする」
だが、ギーラッハはその光景を無感動に見やるとベッドに近寄った。
「んっ!んっ!ランスぅおっぱい、おっぱいも揉んでぇ!」
「がははははは!こうか!?こうかぁ!?」
「違うのぉ!もっとぐにぐにって激しく!潰れちゃっていいからぁぁ!」
―――しかし、ベッドの上の二人は全く反応しない。
「……………」
対して、ギーラッハはそのまま無言でベッドの傍らに立つ。
「……シュールな光景でヤンス」
「……だな」
部屋の外から恐る恐る中を見るカトラとスタリオンはそう呟いた。
と、下からカレラの胸を揉みしだくランスの眼が初めてギーラッハを見た。
「ったく……お前、ギーラッハだったか?ン百年生きてる割には気の利かんヤツだな」
「……臨戦時に交わってしかおらぬ貴様に何故気を使わねばならん?」
重々しい声。そこには明らかな苦味が混じっている。
「分かってねぇなあ……よっ!」
「あはぁぁっ!そっ、そこグリってしちゃ駄目!全部ぅ、全部アタシがイカせるのぉ!」
腰の一突き、腹上のカレラの声が一際高く上がる。
「で?」
「ヴィルヘルム様からの勅命だ。つい先刻、武器庫の一つが襲撃を受けた。
 また『招かれざる者』達の抵抗も無視できないものになりつつある。
 ランス、及びカレラ。お前達も要塞防衛の任から離れ『狩り』に移れとの事だ」
「……まだあんだろ?」
口を閉じるギーラッハに先を促すランス。
ギーラッハはほんの僅か眉を動かすと、再度口を開く。
「……なお、その際お前達が『招かれざる者』を捕獲した場合、好きにして良いとの事だ」
「フン、だろう……な!」
「アウウッ!」
深々と突き込まれ、カレラの背が弓なりにしなる。軽く達したようだ。
「だとさカレラちゃん!聞こえるかい?」
「うんっ!聞こえる、聞こえるわっ!ランスぅ、可愛い男のコ、生かしてくれる!?」
「がはははは!カレラちゃんこそ嫉妬して女の子壊すなよ?ほらっ!」
「あんっ!だ、大丈夫だよぉ!アタシぃ、女の子も……大好きだからぁっ!
 ンンッ!ラ、ランス、イクね、イクねっ!」
「ああ、お、俺様も……出すぞ!」
「出してっ!ドクンドクンってランスのせーえき出してぇっ!」
瞬間、二人の動きが停止する。
「………ッ!」
「あああああぁぁぁっ!」
「……用件は以上だ、出立を急げ」
両者が絶頂に達する姿を、ギーラッハは相変わらずの無表情で見下ろすとベッドから背を向けた。
「待ちな」
その背中にかけられるランスの声。
「……何だ」
「俺様からも伝えて欲しい事がある。だからこっち向け」
「……………」
横柄な言葉に、ギーラッハは憮然としつつも振り返る。
「!?」
刹那、ギーラッハは自分の首の前に篭手を翳した。
そこに突き刺さされる剣の刃。
「チッ……流石は伊達に年は取ってないようだな」
交わったままのランスの右手に、一振りの剣が握られていた。
見れば、枕の下に鞘が一振り敷かれている。
「……これが、伝言か?」
「い〜や……ギーラッハ。お前が俺様を『取るに足らない奴』と思ってたみたいなんで
 何となく腹が立った。それだけだ」
「……成る程」
ギーラッハの唇がかすかに歪む。腕に刺さった剣を抜き、再度背を向ける。
「……訂正しよう」
金属同士の衝突音。
「くっ!?」
今度はランスが驚きの表情を見せる。
一瞬前に背を向けた筈のギーラッハが、ランスの方を向いていた。
その胸の位置では、ランスが突き入れた剣がギーラッハの背負っていた筈の大剣で止められている。
「……噂に違わぬな、『鬼畜戦士』殿」
「……あんたもな、『紅の騎士』」
「……そーゆーの『男の友情』ってヤツ?」
横からかかる、からかうような声。
そこには、何時の間にかランスの肉棒を抜き、身支度を終えたカレラが立っていた。
まあ、身支度と言っても局部だけを隠した全裸とさして変わらぬ姿ではあるのだが。
「ンなワケあるか……おい、俺様は着替えるからさっさと出て行け」
「承知した」
ランスがパタパタと手を振ると、今度こそギーラッハは背を向け部屋を退出した。
「おいスタリオン、俺様の着替えは用意できてるか?」
「へ、へいランスの兄貴!おいカトラ、用意できてるよな!?」
「ええっ!?スタリオン、ソレはスタリオンの仕事だったはずでヤンス!?」
歩き去る背後で騒々しい会話が続く。
ギーラッハは、その喧騒から離れつつ一つの疑問を感じていた。
(分からぬ……何故ヴィルヘルムはあのような男に拘束を与えておらんのだ?)


【ランス@ランスシリーズ:鬼(但し下克上の野望あり) 状態○ 装備:リーザス聖剣】
【カレラ@VIPER-V6・GTR:招(その場の気分次第) 状態○ 装備:媚薬】
【スタリオン@ワーズ・ワース:鬼 状態○ 装備:長剣】
【カトラ@ワーズ・ワース:鬼 状態○ 装備:長剣】
【ギーラッハ@ヴェドゴニア:状態変化なし】



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