咲く悪夢






 武器庫を強襲したママトト三人組。
 ヒーロー、ミュラ、ライセンは、そのまま南へと逃走した後、一息ついていた。

 「取りあえずよぉ、次はどうするよ?」
 焚き木を燃やしながら、巨体を幹に腰掛けヒーローは話し始めた。
 「敵の戦闘力は予想以上ね。 でもこうやって一撃離脱を繰り返せば勝機はあるわ」
 「それにリック達が合流してくれれば、遂行しやすくなる……」
 バチバチと燃える焚き木を囲い、三人は休息を取りつつあった。
 「!? 誰か来る!?」
 ライセンが声を出すや直ぐに三人はエモノを構えた。
 がさがさと草が枝が揺れる音が聞こえる。
 「さっきのヤツラの追っ手か…………それとも」
 大剣を握る手に力が入る。
 段々と音は近づいてくる……。

 来る!?

 今まさに謎の物体が三人の目の前に姿を現した。
 「HAHAHAHAHAHAHAHA!!」

 明るい笑い声と共に額のはげたグラサンおっさんが姿を出すと共に
三人共、気が緩んで武器を落としてしまった。

 慌てて、武器を拾いなおして構えなおすも何だかやる気がそがれる三人。

 「Oh、ユーたちは、ここで何をしているのでぇすか?」
 オッサンは、ひたすら明るかった。
 その明るさに三人は、すっかりやる気をなくす。
 「え、あ、私たち、気づいたら訳のわからないここに飛ばされてて……」
 「元の世界に帰りたくて、方法を探してる最中なんです」
 「それは、ベリーバッドですね」
 何か言い方のおかしさに違和感を持ちながらもヒーローが続けて喋る。
 「けど、仲間が殺されちまってよ。 その仇を打つために今紛争してる所なんだ」
 「それはもしかぁして、北の武器庫を襲ったりしましたかぁ?」
 「ああ、そうだぜ……」 
 「ヒーロー、離れて!!」 
 ミュラが大声を上げると、ヒーローは「何が?」と言った顔をするが
 すぐさま、事の重大さに気づいたか、後ろへと飛びのいた。
 「あなた……。 何故それを知っているの!?」
 「HAHAHAHAHAHAHA!! 気づかなければ、余の手下として生き延びれたのかもしれんのにな」
 あやしいおっさんから感じられる雰囲気も口調もがらりと変わった。
 重苦しく、圧倒的な威圧感が三人に伝わってくる。
 「あいつらの仲間ね……」
 口を切ったのは、ライセンだった。
 「仲間? 違うな、ヤツラは余の駒に過ぎん」
 「っつーことは、こいつは大物が出てきたな……。 悪いがこのまま返すわけにはいかねぇぜ!!」
 ヒーローの握る大剣に再び力が入る。
 「くっはっはっは……。 三人でまとまれば、余に勝てると思ったか。
  よかろう、持つものと持たざるものの決定的な違いを教えてやる!!
 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! メェタァモォル!!」


 「何ぃ!?」
 三人は一斉に声を上げた。
 あやしいおっさんの姿が光、みるみると凶悪なアークデーモンの姿へと変化したのだ。
 「さぁ、来るがよい。 精々無駄な力を試すがいい」
 「うおおおおお!!」
 ヒーローがおっさんへと大剣を振り下ろした。
 「小ざかしい、吹き飛べ!! ソニックインパクト!!」
 おっさんの手から魔弾が発射され、そのままヒーローの身体へと当り後方へと吹き飛ばしていく。
 「がはっ!!」
 ヒーローは、そのまま後方の木に叩きつけられる。
 「ヒーロー大丈夫!? ならば、これはどう!?」
 今度は、スピードを重視し、虚をついた一撃をミュラが狙う。
 真っ向勝負をせずにおっさんを翻弄させようとスピードの勝負に出る。
 対しておっさんは、動かずじっとしているだけである。
 (誘っているのかしら……。 対した自信ね……。 それが命取りよ!)
 「貰った!!」
 おっさんの後ろから後頭部へかけての斬撃を繰り出す。
 「え!?」
 だが、剣はそのまま頭のあった位置を通り過ぎてしまう。
 「魔法使いだからといって、動きが遅いとでも思ったか?」
 「あっ!?」
 ミュラの後ろからおっさんの声が聞こえてきた。
 「何時の間に!?」
 「さらばだ」
 ダメだ、避けられない。とミュラは思った。
 「させない!!」
 横からライセンがアックスを振り回して突撃してきた。
 「邪魔だ!!」
 おっさんは手をライセンへと向けるとそのまま衝撃波をうち放つ。
 「うあ!?」
 ライセンもヒーローと同じく、そのまま後方の木へと叩きつけられる。
 「ライセン!?」
 その隙をついて、ミュラはおっさんから逃げ飛ばされたライセンの元へと駆け寄る。
 「しっかりして、大丈夫!?」
 「だ、大丈夫だ……。 このアックスじゃなければ、危なかったな」
 ライセンは、アックスを盾代わりにする事によってなんとか衝撃波によるダメージを防いでいたのだ。
 「良かった……。 ヒーローは?」
 ライセンの無事を確認するとミュラは、ヒーローの方を見る。
 「……まだまだやれるぜ」
 此方も再び立ち上がると大剣を構えなおす。
 「HAHAHAHAHAHAHA!! 余は、まだこれっぽっちも本気になっておらんぞ?」
 三人の顔が険しくなる。
 「逃げましょう」
 ミュラが口切った。
 「なっ、敵の親玉を前にして逃げれるかよ!? それにまだ始まったばかりだぜ!?」
 「ミュラの言う通りよ。 どうあがいても今の私たちの戦力ではあいつには勝てないわ」
 興奮するヒーローをライセンが説得にかかる。
 「いい、向こうから攻撃してくる気がない今がチャンスなのよ」
 「ちくしょう……」
 「1、2の3で私が焚き木を蹴りつける。 それを合図に後方へ全力疾走するぞ」
 「解ったわ……」
 「くそ……」
 「いいか、1……2の……3!!」
 ライセンが足元にあった焚き木をそのままおっさんへと蹴りつける。
 「何の真似だ」
 おっさんが目の前に来る焚き木を払うと目に見えたのは、全力で逃げる三人である。
 「もう少し楽しめると思ったのだが……。 所詮はゴミか。
  飽きたわ。 死ね、グラヴィトロン!!」

 「成功か!? ぐぁぁぁぁぁあああああ!!」
 「うあぁああああぁあああああ!!」
 「くぅうううぅうううう!!」
 「か、身体が押しつぶされる……」
 「ち、ちくしょおおおおおお!!!!!!」
 三人を……。 いや三人の周囲一体が通常の数十倍の重力場と貸していた。
 「惜しかったな。 余でなければ逃げれただろうに」
 後ろからゆっくりと迫ってくるおっさん。
 「くそおおおおおおおおおお!!」
 ヒーローが叫ぶ。
 「さぁ、もっと強くしてやろう。 これで終わりだ」
 「だ、ダメか……!?」
 三人は死を覚悟した。


 「バイ・ラ・ウェイ!!」

 突然、叫び声とともにとてつもないスピードの斬撃が幾重にも後方からおっさんを襲った。

 「何!? くっ、何者だ!?」
 咄嗟に防御魔法を発動させ、避けようとするものの間に合わず肩を一度切りつけられる。
 「バカな!? 不意打ちとはいえ、このメタモル化した余の身体を切るだと!?」
 それとともにかかっていたグラヴィトロンの効果が消え、三人はなんとか立ち上がりながらおっさんの方を見た。
 「「「リック」」」
 三人の声が一致した。
 リックは、バイ・ラ・ウェイを放った後、おっさんが気づく前に速攻で三人の下へと駆け寄る。
 まさに地獄から救いに来てくれた救世主である。
 「三人とも無事か!?」
 「ふん、相当な剣の使い手のようだが、それでも余の相手ではないわぁ!!」
 おっさんが魔力を集め始める。

 「くそ、なんて化け物だ。 肩の傷ももう治ってやがる」
 「それより、でかいのが来る!?」
 「お前ら、とんでもないのを相手にしてたんだな……。 とにかく逃げるぞ」
 「でも、またあの魔法が!?」
 「つべこべ言ってる暇があったら、走れ!!」
 リックが三人を激励させ、再び四人で後方へ走り始める。
 「無駄な事を……」
 おっさんが今まさに魔法を放とうとした時。
 「させるかぁ!!」
 ヒーローが一人おっさんの方へと突撃していく。
 「死にに来たか!!」
 グラヴィトロンの詠唱をキャンセルし、おっさんはヒーローを吹き飛ばす。
 だが、ヒーローは、飛ばされるも直ぐに再び立ち上がり、突撃しようと構える。
 「バカ、何やってんだ!! ヒーロー!!」
 リックが走りを止めて、ヒーローへ向かって叫ぶ。
 「みんなは、先に行っててくれ!! ここは俺が時間を稼ぐ!!」
 「無茶言うんじゃねぇ!! お前を置いていけるか!!」
 「このまま四人いっしょに逃げたら、全滅だ!!」
 「ヒーロー……お前……」
 その言葉とヒーローの顔の険しさに三人は悟った。
 「すまない……」
 「あやまんなよ……。 この役目は、一番耐えれそうな俺にしかできねぇ。
  気にすんな、後で絶対に追いつくからさ」
 「ああ……」
 精一杯の笑顔でふっと笑うヒーローへ三人はできる限りの笑顔で答えると走るのを再開した。

 三人が走り去っていくのを見送るとヒーローは、再び目の前の敵に向かって構えを取る。
 「仲間の為に死ぬつもりか……」
 「へっ、ただじゃぁ、やられないぜ……」
 大剣を握り、再びおっさんへと突撃を繰り出すヒーロー。
 「バカの一つ覚えしかできんのかぁ!!」
 ヒーローは、また前と同じく魔法で後方へと吹き飛ばされる。
 「どうだかな……。 うおおおおおおおお!!」
 再び立ち上がり突撃し、少しでも仲間の為に多く時間を稼ごうとする。
 「はぁはぁはぁ……。 どうした? 俺はまだ死んじゃいないぜ!!」
 「いい加減にあきたわぁ!!」
 「がはぁっ!?」
 四度目、それも今までの物とは違った一撃がヒーローの腹にHitした。
 だが今ので肋骨が折れ、内蔵が破裂しても彼は再び立ち上がろうとした。
 足が震える、力が入らない。 それでも大剣を支えにして何とか立ち上がる。
 「藻屑と消えろぉ!! スタァァァァシュゥゥゥゥトォォォォ!!」
 ヒーローの目の前に星のように魔弾が降り注いでくる。
 「ああ、これまでか……。 一足お先に行かせてもらうぜ。
  後は、頼んだ……。 みんな」
 彼の意識は薄らいでいった。
 しかし降り注ぐ魔弾に身体を貫かれながらも、彼の顔は安らいでいた。

   「ふん、屑の癖に粘りおって……」
 目の前の怪獣が絶命したのを確認すると、ヴィルヘルムは死体を跡形もなく燃やし分解するのだった。
 「逃げおおせたか……」

 一方、三人はまだ走っていた。
 目に涙を浮かべながら、悔しさを糧にして、今は生き残る事しかできない
 自分達の無力さを呪いながら。
 (絶対に、ヒーローとシェンナの仇を取る!!)
 三人の思いは一つだった。

【ミュラ@ママトト: 狩 状態良 所持品:長剣】
【ライセン@ママトト: 狩 状態良 所持品:戦斧】
【リック@ママトト: 狩 状態良 所持品:パイロード】
【ヒーロー@ママトト: 狩 死亡 所持品:大剣】
【ヴィルヘルム・ミカムラ@メタモルファンタジー 状態良 鬼】



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