Hit&Away






「いいか!ドライ殿は右翼、和樹殿は…」
歳江が指示を飛ばすまでも無く、ドライと和樹はミュラたちに突っ込んでいく。
「おい!私の指示を」

2人は歳江の指示など聞いていないようだった、そしてそのまま乱戦へとなだれ込んでいく
それこそがミュラたちママトト武将の思うつぼだった。

なすすべもなく乱戦となった中で歳江は歯噛みする。
彼らは自分たちの死角になる左側から、一糸乱れぬ陣形をもって斬り込んで来た。
間違い無く戦慣れしている連中だ。
事実、ミュラたちは一対一の状況には決して持ちこませず、常に二対一になるように巧妙な連携を見せている。
和樹もドライも個人的な戦闘能力は高いのだが、こういう集団戦闘には慣れていないのが丸分かりだ。
数というものは使い方を間違えればただのデメリットになりかねない、特に人間同士では…
いかに強力でもコントロールできない力に意味は無いのだ。
今や歳江は2人のフォローにてんてこまいで指示を出す暇などなかった。

なんとか距離を取ろうとするドライをさせじと牽制するミュラ、そこへ歳江が割りこむ、
「ドライ殿は和樹殿の援護を」
「させねえよ」
ライセンに追いまくられる和樹のフォローにドライを行かせようとした歳江だが、
ヒーローがそれに対応し、すかさずカットに走る。

ドライとヒーローが遣り合う音を聞きながらミュラと歳江が刃を交える。
その力量は互角、だが数合斬り結んだだけでミュラは悟った。
(強い!でもシェンナを斬ったのは彼女じゃないわ!)
自分と互角程度の腕ではシェンナに勝つ事は出来ても、殺すまでには至らないはずだ。

実際、不本意ながら墓から暴いた遺体(墓標に彼女の服が巻きつけられていたのですぐ分かった)
の損傷はほとんどがかすり傷で、致命傷以外に決定的な傷は見つからなかった。
だが、問題の彼女に致命傷を与えたのであろう刀傷だけは、凄まじいまでの切れ味を示していた。
相手はリックには及ばないまでも、ピッテンやバルバッツァ級の剣豪に間違い無い。
「ねぇ?黒いジャケットを着た女の子を殺したのは誰?」
「知らんな、地獄で本人に聞け」
すれ違いざまの斬撃の際にそれだけの言葉を交わすと、2人はまたそれぞれの仲間のフォローに向かった。

「ちくしょうめ」
ドライが銃の照準を合わせようとするが、この状況では彼女の腕を持ってしても味方に当たる可能性が高い。
別に当たっても構わないのだが、やりたい放題が出来たインフェルノの頃とは違う、
ここで味方殺しの烙印を押されるのは得策ではない。
と、焦っているドライのすぐ目の前にヒーローが大剣を振りかざして迫る、とっさに後ろにとび去ろうとした
ドライだが。
「ドライ殿!飛ぶ前にしゃがめ!」
歳江の声にしたがったドライのすぐ頭上をライセンの戦斧がかすめていった。
さらに追い討ちをかけようとするライセンだったが、それは歳江が制止する。

和樹はミュラに阻まれ、援護する事が出来ない。
と、そこで状況が一変した。
「3分!」
ミュラの掛け声と共に、ヒーローとライセンは素早く武器を収めると、
そのまま守備兵を蹴散らし、3人そろって一直線に走り去っていったのだ。
奇襲に失敗した時点で彼らは作戦を修正していた。
斬り込みは3分まで、それを過ぎた場合戦果云々に関わらず撤退するという方向に。

「仕方ねぇよな、すまねぇシェンナ」
森の中を走りながらヒーローが残念そうに言う。
奇襲が失敗した以上、あれ以上とどまるのは自殺行為だ、援軍が来るまでそれほど時間はかからないだろうし
それに敵の中に自分たちと互角に戦える手練もいる。
何より敵を討つまで退くなだの、全滅するまで戦えなどというアナクロな精神論は彼らには無縁だった。
無論彼らにも意地があった、だがそれを貫いて討死では意味が無い、
命にはそれに相応しい捨て時があるのだ。
「仕方ないわ…生きていれば何度でも戦える、でも死ねばもうチャンスはないの」
「それにシェンナならきっと言うわ、俺の敵を討つひまがあるならナナスを探せって」
それは彼女と同じ根無し草の傭兵稼業であるライセンだからこそわかることだ。
そこでミュラが唐突に立ち止まり2人に向き直る。
「みんな聞いてちょうだい!これから先この中の誰が死んでも絶対に敵を討とうだなんて思わないで!
ナナスを見つけるまでは、その屍を踏み越えて行くのよ」

「ああ、俺たちが全滅しても大将が無事ならそれが俺たちの勝利だ!」
ヒーローが高らかに応じる。
「ナナスさえ無事ならきっと立て直せる、ママトト軍の絆の深さを見せてやるのはそれからでもいいわ」
「この調子で次々といくわよ、一撃離脱はママトト軍の最も得意なやり方だってことを思い知らせてやるのよ」

「でもその前にシェンナに謝りにいかないと…ね」
3人はシェンナの墓へとその足を向ける。
「お互い命は大事にしねぇとな、俺ァ大将の泣き顔が一番堪えるんだ」
ふとしみじみとヒーローはライセンに話かける。
「そうね、ナナスを悲しませるわけにはいかないから」

そのころ残された歳江らは、憤懣やるかた無い表情で突っ立っていた。
所詮寄せ集めなので連携うんぬんは言っても仕方が無いし、個人で出来る限りの力は尽くしたので、
仲間同士の批判は口にしたくない。
何よりも戦った気がしないのだ、まるでパンチを待っていたら羽毛でなでられた、そんな拍子抜けした感もある。

彼らは自然と指揮官への不満を口に出していた。
「何が2時間だよ、あの赤毛は!そんなに待っていられるか!」
「我々は所詮コマに過ぎないからな…ふふ、池田屋の時もそうだった」
新撰組の強さを知らしめた池田屋事件、あの時も頼みとしていた会津藩が煮えきらぬ態度を取ったため
不本位ながら、新撰組単独で斬り込むことになってしまったのだ。
「でも、それなりに焦っていましたよ」
和樹がフォローを入れるが、ドライと歳江は堂々と指揮官批判を繰り広げる。
「日和ったんじゃねーのか?気ィ小さそうだしな」
「この程度で焦るようなら、ケルヴァン殿の将才も知れたものだな…」

【土方歳江、ドライ、友永和樹: 所持品 日本刀 ハードボーラx2 イングラム 鬼、状態良】
【ミュラ@ママトト: 狩 状態良 所持品:長剣】
【ライセン@ママトト: 狩 状態良 所持品:戦斧】
【ヒーロー@ママトト: 狩 状態良 所持品:大剣】



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