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「……桜井や俺達は何者かによってこの島に呼び出された。……俺はそう思う」
 高町が言う。
 俺達は、つばさを埋めた場所からかれこれ一時間程歩き続けていた。
 ……正直俺は、自分が一体どうしてたのか恐かった。
 あの必殺技みたいなモンを出してから、体が異様に重く感じられ、いろんな場所で血管がぶち切れているのもよく分かっていた。
 いまだに体中が、ありえない程の激痛を訴え続けている。
 ……とりあえず俺は、さっき牛の化けモンをやっつけたときのあの変な力は忘れることにした。
「……誰かが呼んだ、ってのはどうして分かるんだ?」
 俺は高町に聞き返す。
「……理由なんてないさ。誰かが俺達を召喚した、ってことにしておけば、目標を立てやすいだろう?
 当分の目標は、その俺達を呼び出した奴を探す、という分かりやすいものになる。……それだけだよ」
 今まで高町は冷静な奴だと思っていたが結構行き当たりばったりな性格をしているのかもしれない。
「……まあ確かにそうだな。何をすればいいか分からんままだと、動きにくいままだからな。とりあえず、
 俺達をこんな島に呼んだクソ野郎に会って、元の世界に帰してくれるよう、泣きながら懇願し奉る。
 ……それがこれからの方針というわけだ」
「……あぁ。そうだな……」
 高町は真顔で返した。
 ……正直俺は、こいつとはやりづらい。
 確かに今のはツッコミづらかったとは思うが、何も真顔で返すことはないどろ、オイ。
 いつものように鋭いツッコミがないと、生来のボケ担当であるこの舞人くんは何かこう……
 翼のない鳥とか、弾の入ってない鉄砲みたいな、そんな感覚に陥ってしまうではないか。
「……それで、桜井なら自分がこの島で一番偉い者になったら、どこに住みたいと思う?」
 なんかまたわけの分からない質問がきた。
「そりゃあお前、アレだろ。この島の真ん中にどでかいビルでも建てて、愚民どもが汗流してんのを
 紅茶でも飲みながらゆっくり拝みたいね」
「……と、いうわけだ。行くべき場所は決まりだな」
 高町が言う。
 ……ああそうか。こいつは島の中央目指して歩いてたんだな。
 確かに、テレビやゲームなんかの悪の親玉でも、大体は舞台の真ん中にいる。
 今のこの島の場合もそういう場所にいると考えるのが妥当だろう。
 ……まあ、黒幕みたいなのがいた場合の話でしかないけどな。
 とは言え、目的地は決まった。
 後はとにかく、突き進むだけだ。

 ……また沈黙。二人分の、引きずるような足音だけが延々と続いた。

「……なあ、高町」
 沈黙に耐えかねた俺は口を開く。
「その腰にある刀って、本物なのか?」
 俺はその刀を指で差す。
「……刀に本物も偽物もない。問題は、どう使うかということだけだ」
「……そうか……」

 ………………

 ……いや、会話終わってるじゃないか!
 こんな会話が続かん奴は初めてだ。
「いや、俺が聞きたいのはだな。つまりお前の持っているその刀は、人を斬ったりできるアレかってことであって……」
「……俺の家は剣の道場だ。流派は御神流。正式には永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術という」
「へ、へぇ〜〜〜」
 な、なんだ? ギャグか? え、えいぜん……なに?
「……殺人術だ」
 ゴクリ。
 思わず生唾を飲んでしまった。
 ……高町の言葉には、ギャグとは思えないほど圧迫感があった。
 さすがの舞人くんもこれには黙るしかなかった……。
 しかし……。

「……動くな、桜井」
 高町は低く落とした声で俺を制した。
 いつものように冗談を言ってふざけている場合ではないことは、高町のその目が物語っている。
「……どうしたんだ?」
「何かが……いる」
 高町は目を細めている。敵の場所を探っているのだろうか?
「……さっきの化けモンみたいな奴か?」
「……人間だ」
 それを聞いて俺はほっとする。
「なんだ。じゃあだいじょ……」
「殺気を感じる」
 高町は明らかな動揺を隠せないでいた。
 俺の、杖代わりの斧を握る手も汗でぬめってきた。
 ……まずい。瀕死の男が二人揃ったところで、できることは限られている。
 戦って命を落とすか、逃げるか……
「……囲まれている」
 ……退路は、断たれた。
【高町恭也:狩 状態△】
【桜井舞人:招 状態×】
【両者装備変わらず】



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