トラフィックス






速瀬水月が鳴海孝之に見捨てられていたころ、エレンは武器庫から武器を持ち出した何者かの後を追跡していた。
(そうだ、あとくされの無い様に倉庫を爆破しておけばよかったわね・・・)
エレンはもう1度戻ろうかと思ったがさすがにそれはやめて、地面に注目する。
足跡は2つありそれぞれ逆の方向に向かっている。

足跡の特徴としては、1つは青年男性らしく、もう1つはまだ幼い子供の足跡だった。
もうかなりの時間が経過している、今からでは捕捉はまず不可能だろうが、ともかく後を追いかけてみよう、
良からぬ相手ならば実力をもって制止するまでだ。
さて、どちらに行くか…エレンは少し考えると男の方の足跡を辿っていった。

足跡はとうに途絶えていたが、獣道の周囲の草木や土を観察すればある程度、相手の行動を予測することは出来る。
と、そこでエレンはかつていやというほど嗅ぎなれた匂いを察知する、これは血の匂い!
エレンはベレッタを抜くと慎重に周囲を見まわす、匂いは自分の左手から漂う。
(攻撃されたのね…)
出会い頭という感じか、状況からみて今、自分が追っている相手にやられたのだろう。
エレンは音を立てないようにそっと茂みを掻き分けると、肩から血を流した長髪の男が木にもたれている。
男は救急箱から包帯を取りだし、自分の傷の手当てをしようとしているが場所が場所だけに、
なかなか巻くことができないでいる。
(武器は無さそうだし、あってもあの状態では何も出来ないわね…)
エレンは万一に備えて自分の優位を確認し、それからゆっくりと茂みから男の前へと姿を現したのだった。

「助かった…利き腕をやられてな」
エレンが包帯を巻き終わると、天城小次郎と名乗る男は深々と頭を下げた。
聞くところによると、監視の目を盗み倉庫から物資を奪い、休憩していたところに、
いきなり出会い頭に射たれたのだという。
「で、あなたは何を持ち出したの?」
小次郎がバッグの中から取り出したのは地図と携帯食料と飲料水、それから通信機だった。
「俺たちは水も食料も持たされていないからな、それから情報も・・・」

(この男、出来る)エレンは感心せずにはいられなかった、
この状況で何が一番大切かということを理解している。
まずは基本的な情報収集、この場合は地図と通信機がそれにあたる。
それから単独でも生存するための物資、水と食料、医薬品だ。
それらが揃ってからようやく自衛のための武器の出番となる。
今回、エレンが武器を優先したのは、島を歩いた限り内部での水や食料の自給自足が可能だと判断したからだ。
それに…。
「まぁ、不思議なことにここに来て以来、腹も減らなきゃ喉も渇かないが念のためだ」
そう、もうかなりの時間が経過しているのに未だに喉の渇きも空腹も感じることが無いのだ。

「まぁ、誰だって死にたくないはずだ、右も左もわからない状況で短絡的な手段に走るのを責めるわけにはいかないな」小次郎は妙に達観したような口調で呟く。
「それでも私は出来る事なら止めたい」
そこまで言ったところでエレンは小次郎の顔を見る。
「もしかすると心当たりがあるみたいね?あなたを襲った相手」
「ああ…最低のゲス野郎だ」
思い出すのも腹立たしいといわんばかりに小次郎は前髪を掻き上げた。

そのゲス野郎は、興奮の余り呼吸を荒くしながら落ちつき無くボウガンを振りかざしていた。
その服装は独特の色を作業服だった、いわゆる囚人服と言われるものだ。
この囚人服を纏った男こそ、日本…いや世界の犯罪史上に残るであろう、凄惨かつ残虐なバスジャック事件の首謀者。
勝沼グループ元総帥、勝沼紳一死刑囚であった。

そう、彼は多くの美少女が乗った修学旅行のバスを襲撃、そのまま数十名の生徒たちを拉致監禁し、
陵辱の限りを尽くしたのだ。
そのおぞましき所業に世の中は慄然とした、本来慎重さを旨とする日本の司法制度によってでも
わずか数ヶ月で死刑判決が下ったところがそれを物語っている。

しかし彼は未だに満足していなかった、判決を聞いた彼の胸中に去来した思いは、
死にたくないとかそういう殊勝なものではなく、まだ犯し足りないというあくなき欲望だったのだから。
どうせ帰っても死刑、ここにいても殺される、なら最期のその時まで思う存分暴れてやる。

「まだ足りないんだ…」
紳一はぺろりと渇いた唇を湿らせながら、自虐的な笑顔を浮かべた。
ところでもう一方の足跡の方では…
「あかね、やっぱり引っ掛からなかったよ」
「うん、クレイモアで穴だらけにしてやろうと思ってたのに」
物陰に潜んでいた金髪の姉妹が枯れ葉で巧妙に偽装したクレイモア対人式地雷をせっせと回収していた。
双子なのだろう、顔だけ見るとまったく区別が付かない、ちなみに説明しておくと
赤い服を着ているのが鳳あかね、青い服がその姉の鳳なおみだ。

これでも元の世界では名うての戦闘機パイロットであり、そしてその天使の笑顔の裏側に潜むのは、
大人顔負けの狡猾さと子供特有の無邪気な悪意だった。
事実、追っ手を惑わすために、2人で足跡が重なるように歩き、わざとその足跡をこれ見よがしに
残したりと早くもその片鱗を見せている。

「ね、あかね。私たち以外がいなくなれば、きっともう誰にも襲われる事はなくなるよ」
「うんっ」
考え方が単純なのが子供である所以だが、それでも今はその単純さが逆に恐ろしい。
ともかく彼女らは自分が襲われないために、積極的に他人を襲うことに決めたのだった。

「やっぱり先制攻撃だよね」
そう万面の笑顔で笑う2人のバッグには、クレイモア地雷の他に例のプラスチック爆弾やら、
構造が単純で反動も少ない事から子供でも扱えると評判のAK47カラシニコフやら、
かなり物騒な代物が詰めこまれていた。

【エレン@ファントム オブ インフェルノ(ニトロプラス) 持ち物 ベレッタM92Fx2 ナイフ 状態 ○ 招】
【天城小次郎@EVE〜burst error(シーズウェア)  持ち物 食料 水 医薬品 状態△ 狩】
【勝沼紳一@悪夢(メビウスソフト) 持ち物 ボウガン(他にも所持している可能性あり) 状態 ○ 狩】
【鳳姉妹@零式(アリスソフト) 持ち物 クレイモア地雷x3 プラスチック爆弾 AK47 状態 ○ 狩】
(どちらか片方が招の可能性あり)



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