ヤミよりの使者






「さてさて困ったわ」
ここではない何処か、今ではない何時か。
その場所は巨大な図書館だった。霞むほど
果てまで続く書架、数え切れない本の列。
 リリスは金の髪を揺らしながら、本の海の
只中で思案していた。白のブラウスに黒のマント、
幼くも妖艶にも見えるその表情は目の前の問題で
眉を寄せている。
彼女は(とてもそうは見えないが)この無限の
図書館の管理人だった。
「どうした、そなたが真剣に悩むなど珍しい」
 カラン。
 静かな空間に軽やかな下駄の音が響く。
「あら、お久しぶり〜。って言うか再会の挨拶で
いきなり失礼じゃないの?」
 振り向いた先には赤い着物の童女。およそ、
この空間にはそぐわない出で立ちだ。
「気にするな。それより前に会うたのは、どのリリスだったかな」
「さあ?私達の間じゃ時間も世界も個も意味なんて無いでしょ。
それより蔵女ちゃんココに来たって事は暇でしょ?暇よね?
暇なんだ、うん決定〜!!」
「……おい……」
 蔵女の眼がじとりとリリスをにらむ。もっとも、狂犬ですら怯える
その視線もあっさりと無視されるのだが……。
「実はね、ちょっと困っちゃってるのよ、聞いてくれる?」
「聴きたくなくても、そなたは喋るだろう?」
 ふわりと蔵女が手近な書架に腰かけた。
「さあ、話すが良い。戯れならなるべく面白い話を望むぞ」
 暗き森で一際高い樫の樹の梢。一人の少女が見渡せる島内を鋭い
視線で見据えていた。服装はセーラー服、左手には身の丈に届こう
かと言う日本刀。およそそぐわない組み合わせだった。
 耳をそばだて、流れる風を読み、微かに漂う流された血の匂いに
顔を曇らせる。
「どうだ、葉月とやら。われらが考慮すべき者は見つかったか?」
 葉月と呼ばれた少女の傍ら。足場も無い宙に蔵女が浮かび上がる。
「わからない」
 蔵女の問いに一瞥すると、葉月は一足で枝を蹴り幹を数回飛んで
地上へと降りた。
 葉月と蔵女。異色過ぎるペアをこの地へ送り込んだのは言うまでも無く
無限の図書館の管理人リリスだった。
 彼女が言うには、この世界に呼び込まれた力はいずれ崩壊を招く
恐れがあるというのだ。この世界が壊れるだけなら問題は無い、しかし
数多の世界から呼ばれた者達が、その破局を彼らの世界に拡散させる
可能性があるとしたら?
 リリスが恐れたのはそれだった。まあ、ひどく現実的に言うなら
彼女が管理するそれぞれの世界……図書館の本が崩壊したら
もう一度整頓したりするのが嫌と言う私的な理由なのである。ひどい話だ。
 葉月と蔵女が行うべき事は「引き立て役」と言っても良い。
 突出した能力者を牽制し、なおかつこの饗宴の主催を暴走させぬ様
適度にゲームを活性化させる。その為には他の参加者と共謀し、裏切り、
見捨てる事も有りだろう。
「ふふ、世界を終わらせる者に世界を守れと言うか。おもしろい、その
戯れ乗ったぞ」
 蔵女はリリスの誘いに乗った。もっとも、流石に不安に感じたのだろうか
リリスはもう一人、本の世界の旅人である葉月を同行させてきた。
 しかし、どうもこの2人あまり歯車がかみ合ってはいない。
「不安だな〜」
 リリスの懸念は晴れるのか?それとも……。

【葉月 @ヤミと帽子と本の旅人(ORBIT) 持ち物:日本刀 状態 ○ 招】
【蔵女 @腐り姫(Liarsoft) 持ち物なし 状態 ○ 招】



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