囚れの魔法少女






「あの…大丈夫ですか」
ナナスは額にあたる冷たい感触に気がつき、意識を取り戻す。
目を開けるとショートへアのシェンナを大人しくしたような感じの少女が心配そうに彼の顔を覗きこんでいた。
少女は小野郁美と名乗った、聞けば彼女も自分と同じく光に包まれ、気がつくとこの地にいたのだという。
「一体ここは…」
と、そこで背後に気配、ナナスが身体を起こし振り向くと、そこには小柄な黒髪の少女がいた。
「それについての疑問は私が答えるわ」

アイと名乗る少女はたどたどしくも懸命に2人に説明をしていく。
「えーと、つまり我々は、魔力を持った人間を集めていて、我々に協力すれば〜」
「お断わりします」
まだアイが全部せりふを言い終えていないうちにナナスは即答していた。
自分には帰るべき場所、探さねばならない仲間がいるのだ。
「もう一人の意見を聞いてからじゃないと…でも私もいや」
郁美も同意見のようだった。

それを聞いてアイの赤い瞳が不気味に輝く。
「勧誘を断った場合の招待者の扱いだけど、秘密を知った以上あなたたちは客人からただの敵に代わるの…だから」
そこまで言うとアイは手にしたロッドを2人に向けて構える。
「死んで」
「危ない!伏せて!!」
ナナスの叫びと同時に郁美は身体を伏せる、と自分のすぐ頭上を衝撃波が通過していく、
直撃すれば間違い無くミンチになっていただろう。

(ええと逃げる場所、逃げる場所…)
郁美は自分の頭をフル回転して最善の手段を考える、と、彼女の目に断崖が見える。
高さは十数メートルほど、下に広がる海面の色はかなり濃い。

「あの?ナナスさん、泳ぎは得意ですか?」
「え…うーん、人並みかな」
決まった、それ以外に手段は無い、このまま砂浜を全力疾走しても遮蔽物がない以上
いずれミンチにされてしまう、それなら少しでも可能性のある方を選択すべきだ。
幸い、水泳は得意だ。
郁美は、付いてきてとだけ言うとそのまま目的地に向けて走り出す。
「なるべく不規則なジグザクで走るんです、狙いを定まらせないように!」
郁美の後ろからナナスが声を掛ける、だがあまり体力は無いらしく早くも息を切らせていた。

「くそっ!すばしっこい」
一方のアイはそんな2人になかなか魔法を直撃させることが出来ず、苛立ちを隠せない。
それにアイ自身も走りながらの魔法詠唱なのでさらに精度が悪くなる。
その内、彼女は戸惑いを覚えはじめていた。
今まで彼女が戦ってきた”ゆらぎ”は欲望のまま逃げることなどなくどれだけ傷ついてもなお
女肉を貫こうと死の瞬間まで淫らな触手を伸ばし、のたくっていた。
だが…目の前の2人は違う、欲望の権化などではないれっきとした知性を持った人間だ。
その差がアイを惑わせていた。

しかし、逃げる2人の行く手には絶壁が広がっている。
逃げるのに夢中でそこまで気がつかなかったのか?
アイは唇をほんの少しだけ歪める…これでチェックメイトだ。

アイが2人を再び捕捉したとき、案の上2人は崖の上で立ち往生していた。
アイはロッドを構えなおし、射程圏内へと足を進める。
そしてそれを寄り添うようにして見ているだけの郁美とナナス、ここまでなのか?
と、そこで郁美がナナスへそっと耳打ちする。
「あの…ナナスさん、よく聞いてください、今から私が1.2.3と声を掛けるから…そしたら」
「一緒に下の海に飛びこむんですよね」
「分かってたんですね…」
「ここまで辿りつけるかは5分5分でしたけど、助かるには多分これしかなかったと思います」
アイがロッドを2人へと向ける。
「いち」
大気が魔力を受けて震え出す。
「にの」
そしてロッドから閃光が走る。
「さん」
2人は背中向けで断崖から海面へと身体を躍らせる。
そのすぐ上を霞めるように閃光が空を貫いていった。

ドボン!!…ぶくぶく。

ナナスは郁美に抱きかかえられるようにされて、海面へと浮上する。
潮流はそれほど激しくなく、これなら1人でもなんとか泳げそうだ。
そんな彼の顔を大丈夫かと言わんばかりに郁美が覗きこむ、濡れた前髪が額にくっついていて、
かなり色っぽい。
照れるように郁美から視線を逸らすと、ナナスは脈略のない話を切り出す。
「あの戦い方からみるに、多分モンスター専門の魔法使いでしょう…人間相手の戦い方じゃありませんでした」
 人間相手の魔法戦闘の場合、まずは退路を塞ぐのが〜」、
一方、崖の上で歯噛みするのはアイだ。
仕留めたと思ったのに…気がついたときにはもう遅かった。 

アイは数十分前のことを思い出していた…あの赤毛の男め。
赤毛の男は当然ながら協力を拒絶したアイに、とある映像を見せ、そしてこう言った。
「君がいやならそれで構わない、だがそのかわり彼に協力してもらうとしよう」と、
「お前ら殺すッ!秋俊に指1本でも触れたらお前ら全員殺してやるッ!!」
言葉の意味を察し、泣き叫ぶアイへと赤毛の男は言い放った。
「そうかそれほどまでにこの男が愛しいか…ならば我が手足となりて働け、それ以外に選択肢はないぞ」
もはや彼女に他の選択をする余地はなかった、最初から…。

(余談だが、深山奏子は鳥籠の中でこう思っていた)
『あの人、さっきの赤い鎧の男の人の時は怯えていたのに…』

「秋俊…必ず帰るから待っていて」
暗い瞳のまま呟きながら、アイはロッドを弄んでいた。


【ナナス @ママトト(アリスソフト) 持ち物なし 状態 ○ 招】
【小野郁美 @Re-leaf(シーズウェア) 持ち物なし 状態 ○ 招】
【アイ @魔法少女アイ(color) 持ち物なし 状態 ○ 鬼】



前話   目次   次話