物証






「あー、どこに行ったら建物はあるさ!?」
「先程樹上から見た限りでは、間も無くと思うのだが……」
不慮の出会いから戦闘に突入し、その後和解した大空寺あゆと山本五十六は
一路、拠点になりうる場所を求めて村落に向かっていた。
五十六が一つの推論を言ったのは、その途上である。
「……魔法?」
「ああ、私のいた国では一般的に存在していた。火を放ったり、全く違う場所に
瞬間的に移動したり、異世界から精霊や天使、悪魔を召還したりな」
「イソロク、あんたの生まれってどこ?」
「生まれ?生まれはJAPANだ。ここに来るまではリーザス国のランス王にお仕えしていた」
「……こーゆー状況じゃなかったら黄色い救急車呼んでる所だわね……
で、その魔法がどうしたって言うさ?」
「これはあくまで私の推測に過ぎないんだが……私達も、魔法で召還されたのかもしれない。
 少なくとも、私と大空寺殿は明らかに別の世界の住人のようであるしな」
「……って事は、その魔法ってので戻る事も?」
「あるいは……」
「推測ばっかりだけど……現状じゃ一番アテになりそうな話だわね。
 それじゃまず、拠点を見つけて、アタシ達を追ってる畜生どもを一人
 捕獲して一切合財吐かせて、そんで魔法使わせてサヨナラさ」
「そう上手く行くだろうか……?」
「上手くいかなきゃ死ぬ、それだけさ」
「……………」
間髪入れぬ返事。
「……そうであったな、大空寺殿」
「……その『大空寺殿』って呼び方、やめてほしいさ」
呼ばれ慣れない面映さをどことなく感じつつ、あゆは歩みを進める。
と、前方を歩いていた五十六の足が急に止まった。
「どうしたさ、イソロク?」
「血臭を感じる」
「!?」
五十六の言葉で、初めてあゆもその異臭に気がついた。
ねっとりとした鉄臭さを感じさせる、その臭い。
「敵?」
「分かりません……私が行きます、大空寺殿はここで隠れて……」
「馬鹿言ってんじゃないさ」
あゆは即座に否定し、五十六の持つ弓を見る。
「その弓、いきなり襲われてすぐ射れるモンじゃないんでしょーが。
 ここはアタシが行くさ……援護、頼むわよ」
「……わ、分かった」
「じゃ、行ってくるさ」
そう言い、あゆは腰を落しそろそろと臭いの源へ向かった。

臭いがより強くなる方に向かい音を立てないように歩く。
枝を越え、木の葉に掠れさせず、気配を完全に殺す。
「(あの動き……大空寺殿は忍びの者だったのか?)」
後から続く五十六は、その隠身の上手さに内心驚いていた。
「(屋敷抜け出す時の技がこんな時に役立つとは思わなかったさ……)」
大企業グループ・大空寺財閥令嬢である彼女は、『令嬢』である事を強要する父に対して
事あるごとに反抗し、巨大な屋敷と庭園から頻繁に脱走を試みていた。
彼女の隠身術はその実践によって身に付いたものに他ならない。
やがて、かすかだった臭いがその密度を増し、まるで固体のように二人の鼻にまとわりつく。
ふと、あゆの足に何かの液体が当たった。

「!?」

それは、余りに凄惨な光景だった。
彼女の前方に、赤黒い肉の塊が存在している。
おそらく人型のものであったのであろうそれは確認するまでもなく死んでおり、
周囲に血肉と異臭、そして何故か鳥の羽根を撒き散らしていた。
「こりゃひどいわね……うぷ、気持ち悪くなってきたさ」
嘔吐感を何とか抑え、後ろの五十六に手で合図を送る。
「これは……!」
彼女にとっても流石に衝撃は大きいのか、思わず言葉を失う五十六。
「……どう思う?」
「……少し、調べてみます」
あゆの問いに、五十六は呼吸を整えると死骸を調べ始めた。
「人間をここまでするなんて……確かに追っている連中、マトモじゃないさ」
思わずそんな言葉が口に出る。
だが、五十六の答えがそれを否定する。
「いや、大空寺殿……これは人間ではない」
「あんですと?」
「破損が酷いので正確には言えないが……これはおそらく魔物だ。
 鳥と人間が同時に潰されたにしては、羽根の量が多すぎる」
「……そんじゃ、こいつは敵だったって事?」
「おそらくは。それと、この魔獣を殺した凶器だが……ハンマーのようだ。
 この部分などは……」
そう言ってまだ比較的原型を留めている部分を指し示す。直径数十センチの
円形の
打撃痕がそこには残っていた。
「ハンマーって……この大きさのハンマー、これだけ叩き続けたっての?
 ……どんな大男さ?」
打撃痕を一瞥すると、あゆは死骸に背を向けた。
「まあ、他には何も無いみたいだし急ぐわよ、イソロク。
 夜になる前にさっさと拠点になりそうな建物見つけるさ」
「……そうですね、大空寺殿」
まだ五十六は気にかかる事があるようであったが、歩き去るあゆを見て、追いかけて行く。
跡には、ハーピーの無残な死骸だけが残された。


―――ふと、近くの草むらが揺れた。

「……『追跡者』ではなかったようね」
紫色の無地のドレスに身を包んだ小柄な少女は、そう言うと先程の撲殺に使われた
スレッジ・ハンマーを軽々と抱えると二人の向かった方向に歩き出した。
彼女、モーラにとって理想の展開はあのハーピーの死骸を『追跡者』の手の者が発見する事であった。
そうすれば芋蔓式に彼らを引きずり出す事も出来たであろうからだ。
しかし、来たのは『逃亡者』とおぼしき二人の女性。
そこで、モーラは次善の策を取る事にした。
護衛を兼ねた、彼女らを追って現れるであろう『追跡者』の破壊。
接触のタイミングは計らねばならない、いくらこちらが友好を示したとしても、
こんなスレッジ・ハンマーを持っている以上(この非常時に、どこかに隠して
必要時だけ出そうとするなんて言うのは論外だ)普通の存在でない事はごまかし
切れないだろう。
とはいえ、先程の少女には悪い事をしてしまった。
彼女を守る事を優先する余り、逆に恐怖を感じさせてしまったようだ。
「気をつけないとね」
誰にとも無くそう呟き、モーラは二人を追った。


【モーラ@吸血殲鬼ヴェドゴニア(ニトロプラス)……持ち物 巨大ハンマー 招】
【大空寺あゆ/君が望む永遠(age) 状態:○ 種別:狩 装備:スチール製盆】
【山本五十六/鬼畜王ランス(アリスソフト)状態:○ 種別:狩 装備:弓矢(弓残量16本)】



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