紅の騎士






「どうだ、久方ぶりの陽光は?、ギーラッハよ」
光差すテラスで、ケルヴァンは自分の傍らに立つ紅の鎧を纏った武人に話しかける。
「懐かしい…光よ」
ギーラッハはそのいかめしい表情を崩すことなく、だが確かに感傷が篭った声で応じる。
その首には、極彩色の護符が貼りつけられている。
「貴様を討てる者など滅多におるまいが、昼間にその首筋の護符を剥がされるなよ、
 護符がなければ貴様は吸血鬼の摂理に従い、陽光の中では一分も持たぬのだからな」

「心得ておこう、だが貴公に聞いて置きたいことがある」
「わかっている…貴様の主は私が責任をもって探し出してやろう…だから心置きなく戦ってこい」
ケルヴァンの言い様に、ギーラッハの眉がぴくりと動き、と同時にその手が腰の大剣に伸びる。
が、寸前で思いとどまる…今はまだその時ではない。
「己は何をすればいい?」
気を取り直し改めて目的を尋ねるギーラッハ。
「話したとおりだ、招かれざる相手、招きを拒絶した者を斬ってもらいたい、それだけだ」
「承知」

それだけを言い残すとギーラッハはまるで1分1秒でも惜しいかのように、テラスから退出する。
その背中にケルヴァンはまた声をかける。
「昼間の貴様は半分の力しか出せない、それも心得ておけ、まぁちょうどいいハンデにしか
 ならぬだろうがな」
「承知」

ギーラッハの姿が見えなくなってから、ケルヴァンはふぅと安堵の息を吐く。
話の間中握り締めていたその掌は汗でじっとりと湿っていた。
「聞きしに勝る恐るべき剣士よ…私はもしかすると誤ったのかもしれぬな」
彼はギーラッハを甘く見過ぎていた、所詮腕が立つだけの男と、
ゆえに彼の主君たるリァノーンを誘かせば、簡単に言うなりになるだろうと…。

だが、自分の目論見がはずれたことをケルヴァンは自覚していた。
事実を知ればあの剣士もまた初音と同じく、いずれ自分に立ちはだかるのかもしれない、
彼は配下に指示を出す。
「地下に確保してあるロードヴァンパイアへの監視を怠るな、誰にも悟られてはならぬぞ」
ケルヴァンは苦い表情で額の汗をぬぐう。
それは自分が確実に爆弾を背負い込んでしまったことを自覚した表情だった。

【ギーラッハ@吸血殲鬼ヴェドゴニア(ニトロプラス)……持ち物ビルドルヴ・フォーク  鬼】



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