傍にいるから
その少女は、泣いていた。
新しい街に引越し、唯一の友人であった猫が死に、何も無くなっていた。
そんな時、一人の少年が現れた。
少年は、少女の大事な友人を描いた。
それは、少女にとって、かけがえのない宝物。
そして――。
「大輔ちゃん・・・大輔ちゃぁん・・・・・・」
その少女は、再び泣いていた。
しかし、今度は大事な宝物は、戻ることはない。
「橘・・・さん・・・。」
もはや動かなくなった大輔にすがりついて泣く天音の隣に百合奈がようやく歩いてくる。
「弔って、あげましょう・・・?」
「ヤだよぉ・・・大輔ちゃん・・・・・・。」
「橘さんっ。」
百合奈は天音の肩を掴んで無理矢理自分の方を向かせる。
「今は、感傷的になっている時ではありません。私だって・・・」
そこで一度、百合奈は言葉に詰まった。
「私だって、胸が張り裂けそうです。でも、ここにこのままいればまた同じことが繰り返されるだけです。」
「・・・!」
天音がビクッと身体を震わせる。
「大輔さんや篠宮先生、それに・・・私たちだけじゃない、他にもこの世界に召喚されて、無残に殺された方々もいるはずです。」
「・・・。」
「ですから、その方達の無念の気持ち、その方達の命を、少しでも私達が生きることで無駄にしないようにしなくては・・・。」
天音の泣き声が止んだ。
「百合奈先輩・・・強いんですね・・・。」
百合奈はゆっくりと首を振る。
「いえ・・・私も、皆さんと同じです。」
「ありがとうございます・・・。そうですよね、今は、生きないと・・・。」
天音、百合奈の二人は負傷している恋を藍に任せ、黙々と穴を掘っていた。
二人の白く、細い手は土で汚れ、ところどころ血が滲んでいたが、それでも止めようとしなかった。
しばらくして、ようやく二人程が横になれる深さと幅になった。
二人がかりで血を洗い流した大輔と悠の遺体をそこに納める。
(篠宮先生・・・。)
天音は大輔と三人で過ごした学園での昼下がりを思い出す。
大輔のことを話す時の悠の優しい瞳。
そっと、大輔と悠の手を重ねてやる。
「橘さん・・・。」
「篠宮先生、大輔ちゃんの事――好きだった。私、知ってたんです・・・。でも、もう・・・。」
悠は大輔に自分の気持ちを伝えられないうちに死んだ。
自分は想いは通じたが、もう、大輔はいない。
泣きそうになるのをぐっと堪え、天音は大輔のほつれたシャツの一部を切り取ると、前髪を止めているバンドと結び変えた。
「もう、私は大丈夫。大輔ちゃんが・・・いつも隣にいてくれるから・・・。」
「・・・はい。」
それから二人は土を被せると、手向けるものがないことに気付き、胸のリボンのクリップを墓に添えた・・・。
【橘 天音 状態:○ 君影 百合奈 状態:△ 鷺ノ宮 藍 状態:○ 桜塚 恋 状態:×(右腕欠損)】
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