ほとばしるちから






 痛かっただろうな……。
 辛かっただろうな……。
 ……つばさ。
 お前は本当にがんばったよ。
 こんなわけのわからない所に来ても、文句の一つも吐かなかったもんな……。
 現実から逃げ出したりしなかったもんな……。
 お前がいなかったら、俺はきっと真っ先に逃げ出しただろう……。
 ……ほんの少しの時間だったけど、お前が一緒でよかったよ。
 お前のおかげで俺は、いつものように馬鹿なことを言って、ツッコまれて、笑っていられてんだ……。
 それを……。
 ……ごめんな。
 守って……やれなかった……。
 助けて……やれなかった……。
 それなのに……お前は俺に、「生きろ」って……。
「生きろ」って言ってくれた……。
 だから……。
 俺は、生きる。
 お前の分まで生きて、帰ってみせる。
 ……絶対に。


「……ぁぁあああああああ……あああーーーー!!」

 ……俺は叫ぶのをやめる。
 思いっきり叫んだからだろうか? なぜか、今まで感じたこともないようなすっきりとした感覚だった。
 頭の中が一気に晴れ渡る。
 今なら空でも飛べそうな気がした。……いや、何でもできそうな気がした。
 ……目の前には、つばさの命を奪った、牛の化け物がいる。
 潰れた目を俺にむけ、きょとんとしたような顔をしている。
 ……こいつが殺したんだよな。
 ……こらしめてやんなきゃな、つばさ。
 俺は大きく息を吸い込み、吐き出した。
「……こいよ。牛魔王」
「ぶるぁ……」
 化け物は一瞬ためらい、
「ぶ、ぶるあぁああ!」
 大きくテイクバックした斧をフルスイングする。
 速ッ!
 当たったら間違いなく死ぬだろうな。
 鈍く光る斧はうなりをあげて綺麗な弧を描き――
 俺の胸をかき切った。
「ぶるぁああ!」
 勝利を確信した牛は咆哮を上げるが――
「……お前、牛丼にしたら食えるかな?」
 横手から聞こえた俺の声に、明らかな動揺を見せる。
「ぶ、ぶらぁ?」
 化け物が薙いだ俺の体は、煙のように掻き消えていった。
 ……まあ、目が見えないんだから、分かりはしないだろうけど。
 慌てて声のほうに向き直ろうとする化け物。
 俺はゆっくりと、化け物の横腹に右手を置く。
「……つばさの痛みを思い知れ」
「ぶ? ぶるぁあ!?」
 手が熱を帯びるのを感じた。気持ち、光ってるようにも見える。
 ……出せる。
 今ならなんか出せる!
「くたばれ!! 牛魔王っ!!!」


 ドオオーーン!!

 激しい爆破音がした。
 俺の手から出た、なんか熱い光線みたいなものが、化け物の胴を一閃する。
「ぶるううぁああああ!!?」
 化け物が一際大きな叫び声を上げると、上下に分断されたその体はゆっくり崩れ落ち――動かなくなった。
 牛丼は……無理だよな……。
「……はぁ、はぁ……」
 ……何だ? 急に体が鉛みたいに……。
 今のなんか必殺技みたいなやつのせいか……?
 立っていられなくなり、俺もその場にへたり込む。
 ……俺は今、どうしてたんだ?
 残像残すわ、なんか出すわ……。
 孫悟空か、俺は?
「つばさ……見たか……? 俺は強いだろう……?」
 俺は空を仰ぎ、一人つぶやく。
『ああ強い強い。さすが毎日かめはめ波の練習してただけのことはある』
 つばさの声が聞こえた気がした。
「……はん! 次は、元気玉だ!」
 つばさの笑い声が聞こえた気がした。
 ……俺の頬は、目から出た鼻水で濡れていた。


  元気で、ね……

          お前こそ、な……

【ミノタウロス、死亡】
【桜井舞人、状態×(能力の反動による)】



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