求めと誓い






 侵略軍団ダイラストの怪人軍団と戦う正義のヒロイン高円寺沙由香!
 昂奮することによって、体内にエネルギー生成装置『ドキドキダイナモ(DDD)』
が強力なエネルギーを生み出し、超昂戦士エスカレイヤーに変身するぞ!
 変身に必要な者はエッチ! マゾサドノーマルアブノーマルなんでもOK、
ちょっぴり淫乱な素敵ヒロインだ!

 と書くとずいぶん馬鹿馬鹿しい印象を与えるが、
実際のところ彼女の戦闘力はなかなかに侮れぬものがあった。
今回召還された者達の間でも、確実に強者の部類に入る存在である。

 だが、
「えーん……ここどこぉ?」
 あいにくと、その性格の方は押しに弱く引っ込み思案。
 方法はともかくとして、いつも精神的に支えてくれた柳瀬恭平も
この世界に召還されず、当然今も傍にいない。

 そんなわけで彼女はわけの分からぬ状況に恐怖と当惑に身を震わせながら、
夜の闇の中、廃墟をさまようばかりであった。

 と、その耳に女性のうめくような声が届いた。
「……!?」
 いぶかりながら声のするほうへ移動する。
 廃墟の壁の曲がり角を曲がったその先、少し開けた場所で、
沙由香は月明かりに照らされた少女の姿を見つけた。
「う……ぐぅ……い、いやぁ」
 針金のように硬い髪を短くしているその少女は、その頭をかきむしりながら
くぐもった悲鳴を上げる。
 その傍に置かれているのは抜き身のレイピア。風変わりの柄を持つ細身の剣だ。

(ど、どうしよう……)

 刃物を持った少女が、血走った目をして苦悶にあえでいる。
平常時なら絶対にお近づきになりたくないが、沙由香は今まで数時間ずっと一人でさまよい続けてきたのだ。
なにはともあれ人に逢えたという安堵の念が強い。
 それに、
(な、なんだか知らないけど苦しんでいる人をほっとくなんてできません!)
 抜きゲヒロインだってそこら辺の矜持はあるのだ。一応正義のヒロインだし。

「あ、あの大丈夫ですか?」
 そういう理由で、おずおずと話しかけた沙由香に少女がビクッと反応した。
「……! だ……だめ! 来ちゃ……だめだよ!」
 歪む顔で、途切れ途切れに沙由香に告げる。

   沙由香は少し逡巡したが、やはり一人にはなりたくなかった。
それに何かあってもある程度なら大丈夫、という自信も心のとこかにあった。
今は変身してないとはいえ、自分の身体はバイオボディー。常人よりはるかに強靭なつくりをしているのだから。
「落ち着いてください。人にあえてよかったです」
 だから、少女の警告を無視して沙由香は無理に笑顔を作り、少女に近寄る。
「だめ……なの! ほんとだめ……だって!」
「大丈夫です。安心してください。私は正義のヒロイン、エスカレイヤーですから」
「やめて……『空虚』!」
 空虚という意味の通らぬ言葉が少女の口から漏れたとき、
沙由香の手が少女の肩に触れた。
「あの……本当に大丈夫ですか?」
 そういって少女の顔色を伺う。
  だが、少女はその問いに答えず、声をガラリとかえた。
「上質な魔力だ。貰い受けるとしよう」
「え……? ……!?」

   人にあらざる速度でレイピアが走り、ゾブリ、と沙由香の胸を貫いた。

(そん……な……バイオボディを……こんな簡単に!?)

 だが、本当の驚愕はこれではなかった。
 信じられないような悪寒と、薄ら寒い虚無感が沙由香を急速に襲い始めたのだ。
 沙由香は直感的に理解した。

(私……食べられてるんだ! この剣に私の魂が……!!)

 理解したところでどうにもならなかった。
 否、理解しなかった方が幸せだったかもしれない。

 さきほどと打って変わった空虚な目をした少女の前で、
沙由香はその魂を食われ、ただの機械のかたまりを残して消滅した。
「くそ……!!」
 碧光陰は歯噛みしながら廃墟の中を駆け抜けた。
 ほんの数分だったのだ。
 永遠神剣『空虚』に心を呑まれまいと抵抗して衰弱した岬今日子を廃墟の一角に休めさせ、水を調達しにいったほんの数分。
 だが、己の永遠神剣『因果』を通して光陰には分かった。
そのわずか数分のあいだに、今日子が力を取り戻したということが。

 それはすなわち―――

 ああやっぱりか、とバイオボディの擬似体液を浴びた今日子とその傍の躯を見て、
光陰は思った。
 諦観が光陰を包む。
 やっぱり、お前は負けちまったのか、と。

 彼らのもつ永遠神剣は、それを行使する契約者に
強力な力を約束する代わりに、代償を求める。
 敵を切り裂けと。血をすわせろと。マナを、魔力をよこせと。
 光陰は己を保てていた。
 彼はそれなりに強靭な男だったから。
 だが、今日子は―――
「光陰……あたし……」
 擬似体液で赤く染まる手をオロオロとさまよわせながら、今日子が呟いた。
「あたし……あたしぃ……」
 潤んだその目をさまよわせ、その声に嗚咽が混じる。

「いいんだ今日子、お前は悪くない」
 赤く染まる今日子の手を、光陰は優しくとった。
「仕方ねーよ、今日子。お前、別に強くないもんな」
 まだキスを交わしたこともなく、身体を重ねたことも無い恋人の身体を抱き寄せる。
「強くなれないのはさ、今日子。罪じゃない」
「あ……あ……」
「罪じゃないんだ。だからお前は悪くない」
「うっ……うううぅぅ……」
「お前が耐えられないのなら、魔力を奪えばいい。な?」
 涙が枯れ、次第に空ろになっていく今日子の瞳をみつめながら、光陰は静かに覚悟を決めた。

「お前に魔力が必要ならさ」
 ―――それがお前の求めならば。

「俺が手に入れてやる」
 ―――これが俺の誓いだ。
 嘘だ。
 廃墟の中、ななかはそう思った。
 こんなことがあるはがない。
 そう思った。

 だって、お姉さまはとっても強くて、とっても素敵で、とっても優しくて―――
 だから、こんな風に姉さまが動かぬ身体になっているなんて、そんなの嘘だ。

 だが、ななかがいくらそう思おうと、月の光は煌々と沙由香の躯を照らし続ける。

「う……う……うわ……」
 きっと、卑怯の手でお姉さまは討たれたんだ。

「うわ……わぁ……」
 きっとお姉さまの優しさにつけこんで、そうしてお姉さまを動かなくしたんだ。

「わぁぁぁぁぁぁああ……」
 おぞましく、醜く、汚い汚いやつが、お姉さまを殺したんだ。

「あああぁぁぁぁぁあぁっっっ!!」

   雄たけびを上げながらななかは誓った。
 そいつが今、この島で呼吸をしているだけで、許せないと。
 この報いをうけさせてやると。
 どんな手を使おうと、誰を傷つけようと、必ず―――

【エスカレイヤー/高円寺沙由香@超昂天使エスカレイヤー(アリスソフト): 招 死亡】
【FM77/ななか@超昂天使エスカレイヤー(アリスソフト): 招】
【碧光陰@永遠のアセリア(ザウス): 招】
【岬今日子@永遠のアセリア(ザウス): 招】



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