迷走
和樹からの帰宅の通信も受け
朝倉ゆうなとまいなをわきに抱きかかえ、美希を連れて帰ったケルヴァンは
まだ目覚めぬ二人の為に、部屋を用意させ、部下に寝かしておくよう命じた。
「それと私が言うのもおかしいが敵対心を抱かれては困るからな。
手を出すな。 怯えさせるな。 大事に扱え。 起きたら、直ぐに私に連絡するように」
命令を受けた部下が、二人を丁重に持ち運んでいく姿を見ながら
我ながら似合わぬ台詞だな、と彼は心の中で苦笑した。
「あの、私はどうすれば……。 お腹が空いてるんですけど」
「それは、失礼した。 直ぐに用意させよう」
指をパチッと鳴らせ、部下を呼びつけた彼は、美希を部屋に連れて行くことと食事を用意させることを命じる。
「食事が終わったら、これからの事について話したい。 部下の者をつけておくので彼に伝えてくれればいい。
私の名は、ケルヴァンだ」
「はーい、わかりました。 それではお言葉に甘えて〜」
そういうと美希も部下に引きつられて、要塞の奥に消えていった。
先ほどまでびくびくとしていたのに、打って変わった落ち着き具合。
それにあの突然の冷酷な態度への豹変。
「これは思わぬ拾いものかも知れんな……」
「ケルヴァン様……」
美希を連れて出て行った部下と入れ替わりに配下の魔物が彼の元に訪れてきた。
「なんだ」
「北東の駐屯小屋に配置しておいた守り用の駒が倒されたようです」
「ふむ……。 思ったよりも速かったな……。 で、犯人は」
「使い魔からの報告によるとエレンという暗殺者のようです。
近代兵器の扱いにこそ長けていますが、招かれし者です。 いかがいたしましょう」
部下の報告を聞きながら、招かれたもののプロフィールを見たケルヴァンは、顔をしかめた。
「やれやれ、よりによって一番魔法とは無関係そうなのが、魔力資質有りか……。 少々面倒な事になりそうだな」
「また小屋からゾンビ用などに置いてあった物資を持ち出したとの事です」
その言葉に余計、彼は、頭を痛くさせられた。
なんなら危険因子は、いっそ初音の贄にでも回すか。 などと考えるケルヴァン。
そこで、彼は、ふと思い出す。
「そういえば、この女、ドライの言っていた吾妻玲二の恋人のはず……。
そうか、その手もあるな。 新撰組へ伝言だ」
「はっ」
「吾妻玲二と呼ばれる人物への狩りは中止するように。
発見次第、私が使い魔を通して交渉する。 もし失敗した場合は、捕獲して連れてくるように伝えよ」
「了解しました」
颯爽と翼をはためかせて、配下の魔物は、伝令へと走った。
「恋人を此方側に引き込めば……。 最悪人質に取れば、こちらの言う事に従わざるをえんだろう……。
後は、従わせた後でヴィルヘルムに洗脳してもらえばいい」
そして彼は、廊下を歩きながら、自らの部屋へと戻っていく。
「和樹か……」
和樹からの通信である
「はい、丁度、河原末莉の保護を終えました」
「ふむ、娘は、今どうしてる」
「一度に色んな事が起こりすぎたためにか疲れ果てて寝てます」
「そうか……。 では、和樹、お前にも命じる。
吾妻玲二への駆除は中止だ。 発見したら私に連絡せよ。
もし、私との交渉が決裂した場合は、捕獲して連れて来い」
「ケルヴァン様……」
「なんだ」
和樹は、ゆっくりと不安げに口を開いた。
「任務終了後、僕は、彼女の側にいてはだめでしょうか……」
突然のロボットの申し出が、ケルヴァンには不可解だった。
「まぁ、いいだろう。 任務の合間、終了後なら側にいることを許そう」
「ありがとうございます」
そう言うと和樹は、新しい命令を携えて、再び任務へと戻るのだった。
「感情を持っているのかもしれんな……。 後で少し調べてみるか」
途中、部下へ河原末莉に双子の時の内容と同じ事をするように伝え、
部屋に戻った彼は、椅子にもたれ、しばし休憩を取り始めるのだった。
【河原末莉 招 中央要塞中】
【朝倉ゆうな・まいな 中央要塞中】
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