沈黙の剣士






 ここに来てからどのくらいの時間が経っただろう?
 そもそも、これは本当に夢ではないのだろうか?
 ……何度目かの同じ問いを、俺は自分に投げかけた。
 俺、高町恭也は見たこともない風景が後ろに流れていくのを横目にした。

 ここに来る前まで、俺は確かに妹の美由希と共に剣の鍛錬に勤しんでいた。
 急に美由希が倒れて、体が光って、そして……
 駄目だ……。よく憶えていない。
 意識を取り戻した時、俺は自分が見も知らぬ土地にいることに気がついた。

 夢であることを祈りながらも、現実に即した行動をとることを選び、俺はこうして探索を続けている。
 初め気がついたときは、砂を洗う波が穏やかな、広い浜にいた。
 砂浜はどこまでも続いていたが、波打ち際に沿って走り続けると、やがて波は岸壁に叩きつける大きな力となっていた。
 岸に沿って進むにつれ、多少なりともわかったことがある。
 海岸線のカーブの様を見る限り、ここは大して大きくもなく小さくもない、手頃な大きさ(表現はおかしいが)の島であることがうかがえる。
 また、大分時間が経ったであろうのに、人家も港も、ましてや人っ子一人も見当たらない。
 ……無人島と考えるのが妥当と言えよう。


 このままでは埒が明かない。
 そう思うと俺は、今まで気になっていながらも入るのは避けてきた、横手の森林に目をやる。
 意を決した俺は、細心の注意を全方向に向けながら、ゆっくりと木々の中に身を進ませる。
 そこは『気味が悪い』の一言でその全てを表せるような不気味な森だった。
 そこからまた、数十分程歩いたところだった。
 ……何かがいる。
 俺は自然に、腰に帯びた二本の小太刀の柄に手をやっていた。
 ……運のいいことに、俺が得意とする剣術、『小太刀二刀御神流』に必要な武器・道具は、一通り揃っている。
 ここに飛ばされたのが稽古中だったことが、不幸中の幸いとも言えよう。

 ……ふと、美由希のことが思い浮かぶ。
 仮に美由希が急に具合悪くなったことが、俺がここへ飛ばされた原因だとすると、その当人である彼女がここに来ていない、と考えるのは無理がある。
 間違いなく来ていると言っていいだろう。
 俺と同じく稽古中の出来事だったのだから、彼女もまた、その得物である刀――『龍鱗』――を持っているものと信じたい。
 『御神』の技を継ぐ者が、そうそう外敵に遅れをとることはないはずだ。
 ……目の前に姿を現した、この怪物のような生物が相手であっても。

 ゆっくりと姿を現したのは、体長二メートル半はあろうかという色黒の巨躯を誇る人間の体に、これまた黒茶けた牛の頭部を持つ生き物だった。
 俺の見ていた動物図鑑が安物でなかったならば、こんな動物が載っていただろうか?
 ――否。
 これは誰が見ても間違いなく、地球上には存在しえないと確信を持って言える物だった。
 ――ミノタウロス。
 ギリシア神話の中でのみ、その存在が保障される、牛頭の化け物そのものだった。

 ……昔痛めた膝は……大丈夫、問題ない。
 ……化け物は右手に持った鉄斧をきらめかせ、鼻息を荒げた。
 ――来る。

【高町恭也・高町美由希@とらいあんぐるハート3@JANIS、召喚】
【高町恭也、状態○狩、武器道具、小太刀二振り・飛針・小刀(小太刀とは別)・チタン製鋼糸】
【高町美由希、状態○招、武器、太刀一振り】
【魔獣ミノタウロス、武器、鉄の斧】



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