淫魔






「どうしても歯向かうか……」
「ええ、彼のためにもね」
 目の前の男と対峙するだけで、カレラの額から汗が吹き出る。
 適わぬと解っている勝負を挑むことへの絶望感と緊張感が彼女に入り乱れる。
「悪く思うな……」
「覚悟はできてるわ」
「そうか……」
 ギーラッハが動いた。
 彼女には反応できぬ速度で詰め寄ると大剣が振り下ろされる。
(ここまでね……、さようなら悪司)
 ギーラッハの姿が瞳いっぱいに映される時、カレラの意識はそこで途絶えた。


 カツーン。
 靴音が冷たい空間に響き渡る。
 その音がカレラの意識を呼び覚ました。
「…………ここは?」
 自分は、ギーラッハに真っ二つにされたはず。
 ならば、ここは死後の世界なのだろうか?
 周りを見渡せば、石と鉄に囲まれている。
 そう、かつてハタヤマが捕われていた場所。
 即ち牢屋だ。
「目が覚めたようだな」
 カレラの前に立っているのは、彼女を死に追いやったはずの人物。
「ギーラッハ……、あなたも死んだのかしら?」
「……悪い冗談だ」
「……っ!? あなたの趣味かしら?」
 カレラは動こうとした時にやっと気づいた。
 己の四肢を壁にくくりつける拘束。
 しっかりと固定され、両手足を動かす事は適わない。
「……それは牢に放り込んだ兵がやったものだ」
 ギーラッハの顔が少し歪んだのがカレラには面白かった。
「しかし、意外ね……。
 気絶させただけで済ましてくれるなんて」
「一応、貴様は、此方側の人間であったしな。
 それにあの者達の事も聞かねばならん。
 尤も己は尋問など性に合わん、ケルヴァン殿の帰りを待つことだな」
 伝えるべき内容だけ言うとギーラッハは、後にしようとくるりと身を翻した。
「そうそう、言い忘れてたが」
「何かしら?」
「その拘束は魔封じも兼ねているらしい。
 尤も貴様にはそんなに必要はないが……ではな」
「待って!!」
「何だ?」
 カレラにはどうしても聞きたい事があった。
「悪司達は?」
「貴様ともう一人のおかげで中央からは逃走していった……それからは知らん」
 無愛想に言い終えると彼は、牢屋から出て行ってしまった。

「ケルヴァン様、いえケルヴァンの指示待ちか……。
 ほんの少し命が延びただけね」
(悪司は、無事に逃げおおせたか……。
 悪魔の私が何やってるんだかなぁ)
 身動きの取れない彼女に残された道は、ケルヴァンの裁定を待つだけ。
(けど、この拘束をつけた奴もいい趣味の持ち主してるわ……)
 先程、動いた時。
 動いた分だけ、拘束が腕を強く絞めるとほんの一瞬、針が飛び出た。
 痛みを与えて、苦痛で抵抗を失わせようというものだとカレラは最初思った。
 だが、時が経つにつれ、段々とおかしな感覚が身体に巡り始める。
「はぁ……はぁ……」
 息が段々と荒くなる。
(身体が……、まさか悪魔の私に効く媚薬だなんて。
 人に快楽を与えるはずの私が……こんな目にあうなんて)
 拘束は、抵抗をしないために作られたものではなかった。
 疼く身体を慰めれないためのもの。
 カレラにとって最大の苦痛を与えている。
「くっ!?」
 身を悶えさせようと激しく動こうとすれば、針が飛び出て更なる疼きを与える。
 それが余計に身体を悶えさせたくなる原因となる。
 永遠と巡る悪循環である。
(ケルヴァンが来るまで持つかしらね……)

【カレラ@VIPER-V6・GTR(ソニア) 鬼→狩(悪司に篭絡) 状態△(発情中) 所持品なし】
【ギーラッハ@吸血殲鬼ヴェドゴニア(鬼) 状態:○ 装備:ビルドルヴ・フォーク(大剣)】
隠密行動開始後



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