伝えたい思い
「駄目だ」
他の誰よりも早く悪司がはっきりと言い切った。
「お願いします、私の妹も!!」
ここで引いてはいけないと美希も必死に演じるが
「それでも駄目だ!!」
先程よりもきつい口調で悪司は返した。
彼の意思は固く、揺るごうとはしない。
「悪司さん……」
「大将、きつすぎないか?」
リップとあゆが申し訳なさそうに言う。
「戻れるんなら俺が一番戻りてぇよ!!
だけどなぁ、ここに今いる全員が、その思いを我慢して来てるんだ!!
あんたにどんな理由があっても!! どんな我侭を言っても!! 俺達は戻るわけにはいかねぇ!!」
他の奴らも戻らせないという宣言通告だ。
その言葉に、リップもあゆも悲痛な顔を浮かべる。
悪司がカレラを受けているように、彼女達も九郎の行為を受けている。
だからこそ、悪司の感情が良く解る。
ここであの客室の場所まで戻ったら、彼等の覚悟を無駄にすることになる。
目の前にいる少女には辛いが、彼らが尋ねられるのは一つしかない。
残るか・一緒にくるか。
「ごめんなさい……、戻る事はできないの。
だから直ぐに選んで、来るか残るか……」
凄惨な現実をリップが突きつける。
正義の味方でありながら、助けてやることが出来ない事にリップの顔も歪む。
「お前が本当に妹の事を思っているなら残ってやれ」
美希に向かって、悪司が再び口開く。
「従っている限りは、絶対に殺されないだろうさ……。
だけど、お前だけ逃げ出したら、残った妹はどうなる?」
「そんな……」
悪司達から見れば、妹を助けれない、脱出できない悲しみにくれた言葉。
だが美希本人からすれば、せっかくの作戦が台無しになる悔しさの言葉だ。
そして、悪司は続けて言う。
「俺達はもう一度戻ってくる、必ずだ。
その時は……必ず助けてやる」
「あ……」
「行くぞ!! もう時間は許されない」
「ごめんなさい……」
「絶対に死んだら駄目さ」
悪司の合図と共に背負われたライセンと共に、四人は走り去っていった。
取り残された美希。
(あいつらせっかくのあたしの演技を〜!!)
顔は平穏を装っているが、心の中は煮え繰り返っていた。
(私に非はない。 超レアイベントをダメにしたのは彼らよ。
全く人情の欠片もないんだから……)
ぶつぶつと走り去っていった悪司達の悪口を言う。
(けど、それなりの抵抗勢力もいるのね……)
賢い彼女の頭は直ぐ様、別の事を考える。
(今ので彼らに私の印象を植え付ける事には成功っと。
万が一、彼らが再び舞い戻って、ここの人たちを倒すようなら……。
うん、私はどの道に転んでも安全ね)
先程までの怒りをけろっと忘れて、先の行動の利点を示し出す。
(どっちになっても私にとっては損じゃない。
でも、ここの人たちについていた方が望む者は手に入るから、
当面は、ずっと此方よりかな)
「大・悪・司!!」
前方に現れた兵達に向けて、悪司が必殺技で突撃する。
声もなく、兵はそのまま悪司の拳の前に倒れていく。
彼の切り開いた道を続けて駆け抜けるリップとライセンを背負ったあゆ。
「気張れよ!!」
前から来た時は、悪司が道を開き、後ろからの追っ手は、リップが防ぐ。
そしてライセンを抱えてあゆが中を走る。
必然と出口に向かう前方の方ばかりから兵がやってくる。
「邪魔なんだよ!!」
二度目の大悪司が放たれた。
神風の弓は、一直線に彼の胸元を狙っている。
(骨が砕けたか……本当に逃げ場はないな)
壁を貫通したほどの威力の矢だ。
九郎の右足のささった個所の骨は、砕けていた。
神風の矢に気が込められていくのが解る。
先程のと違って、今度は全力の一撃だ。
食らえば、骨のように身体が砕けるだろう。
(勝負は一瞬……。
頼むぜ相棒……アル!!)
九郎が銃を前に構える。
それと同時に十分に威力が込められた神風の矢が放たれる。
そしてクトゥグアが唸る。
気が込められ一条の光となった矢に向かって弾丸が放たれた。
弾丸が矢に当たるも矢はそのまま突き進む。
が……。
矢が九郎の身体にあたる事はなかった。
その矢は九郎の横の壁を貫いている。
「真正面にぶつけてたらそのまま貫いてきただろうな!!」
そう、九郎は矢尻に対して斜めに当たるように撃ったのだ。
飛んでくる矢に当てるだけでも軌跡に近い技である。
(いちかばちかしか残されてないなら、それにかけるしかないだろ!!)
弓矢は次の間が空く。
対して九郎のクトゥグアは連射に特化した銃である。
続けて、弾丸が幾つも神風に打ち込まれていく。
そして神風は倒れた。
「やった……か?」
一息ついたものの右足の骨が砕けているため思うように動けない。
「脱出は……無理だな、隠れないとダメか……」
「これでラストォォォォォ!!」
5度目の大悪司を放つ悪司。
出口付近の兵を吹き飛ばされ、そこを過ぎれば要塞から脱出は成功する。
「ぜぇ……さっさと行くぞ!!」
必殺技を何度も使いつづけたせいで悪司の体力は限界に近い。
彼を今突き動かしているのは、精神の一言である。
この計画が失敗した責任とカレラと九郎のためにも。
悪司の心はそのために突き動いていく。
「羅喉達の待ってる場所は……、あっちか!!」
あの時頭に浮かべさせられた地図を思い出し、悪司達は再び走り続けた。
身を隠そうとして壁に手を当てて、別の部屋へと歩く九郎。
元いた部屋は、弓のせいで壁が一部壊れているし、
片付けや現場を見に来られたら危ないと踏んだからだ
悪司達の方に兵は集中したのか。
それとも神風がいたからか。
この付近には兵が見当たらなかった。
「……なんだ?」
廊下を歩く音が聞こえる。
「くそっ!!」
廊下の途中の為、身を隠せる物がない。
とにかく銃を構えておかなければいけない。
「凶と出るか吉と出るか……」
そして、足音の主が姿を現す。
「なっ!?」
九郎の目に映ったのは、美しい少女が一人。
「これは……?」
目の前の少女が、この荒れた状況を見て疑問を浮かべる。
九郎も敵か味方か解らず引き金を引く事が出来ない。
もし、リップ達やアリアのような立場だったら早とちりとなる。
かといって警戒を解くのも気早い。
そして、少女は、廊下の向こうに倒れた神風の方を見る。
「……あなたが?」
少女がそう言った。
「ああ……」
クトゥグアを握りながらも、九郎は何気なく答えた。
「そう……」
残念そうな顔をして少女が腕を軽く振るった。
九郎の足が、手が、腹が、地面から生えた氷のツララに貫かれる。
「ぐあああああああああああ!!!!!」
声にもならない絶叫が響き渡る。
握り締められたクトゥグアも地面に落ちる。
その様子を見ながら、一歩一歩少女が近寄ってくる。
意識が遠のいていくのか、少女の姿が歪んでいく。
「そんな!?」
彼の瞳には、目の前に近づいた自分がいた。
「こんなものかな……、さようなら」
彼自身の手が九郎の身体に触れる。
そして……、その手を通して電撃が彼の体の中に流された。
(俺は……、俺は……!?)
薄れゆく意識の中で、走馬灯のように頭の中で物事が浮かんでいく。
足止めを買って出た時に、半ば覚悟はしていた事だった。
だが、それでも無念は消せない。
(アル、アル……、すまない)
離れてしまった最愛のパートナーへ語りかける。
(せめて、せめて、ここで起こった事を……。
初音と奏子の事を、そして俺の思いを届けたい……)
死の間際に、床に転がったクトゥグアが目に入った。
(頼む、アルに伝えてくれ……)
そして、九郎は崩れていった。
それと同時に、誰も気づかなかったがクトゥグアもまた消えうせていた。
目の前の男が灰となり崩れ落ちたのを確認すると化けた九郎は、少女の姿に戻る。
そして、神風の元へと歩いていく。
「大分手ひどくやられたみたいだね」
少女が倒れ伏せる神風に話し掛ける。
「滑稽か?」
すると苦しそうにしながら、神風が膝を付きながらも起き上がった。
そう神風は、人間ではない、モンスターである。
それ故に通常の人間よりも耐久力が遥かに高い。
ましてやケルヴァンに強化されたのなら尚更の事。
無念ながらも九郎の銃撃を何とか生き長らえていた。
「話は聞いてるよね?」
そう言いながら少女は、神風に回復魔法をかける。
「勿論だ。 私の仕事の中には、あなた達を守護する事も含まれている」
「それなら僕の敵じゃない。
……銃弾は、後で抜いてもらってね」
神風が動けるまでになると、ハタヤマは冷たい笑みをし、
騒ぎが治まったのを察すると部屋へと戻っていった。
【山辺美希@CROSS†CHANNEL(フライングシャイン) 招 状態○(覚醒?) 所持品:スタンガン】
【山本悪司 @大悪司 (アリスソフト) 招 △(極度の疲労) 行動目的:ランス(名前、顔は知らない)を追う・中央から脱出】
【大空寺あゆ@君が望む永遠(age) 招 状態:○ 装備:スチール製盆 行動目的:中央から脱出】
【ライセン@ママトト(アリスソフト) 狩 状態△(媚薬により発情中) 所持品:なし】
【七瀬凛々子(スイートリップ)@魔法戦士スイートナイツ(Triangle) 招 状態○(軽傷有り)所持品:グレイブ 行動目的:中央から脱出】
【ハタヤマ・ヨシノリ:所持品:魔力増幅の杖 治癒の水(一回分)状態○(アーヴィに変身中) 招→鬼 行動目的 要塞の防衛、絶対に生き抜く】
【大十字九郎:死亡】
魔獣枠
【神風:状態 △】
【嘘で固めたペルソナ後】
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