守りたかったもの
(ぬ……)
「どうしたんだ?」
透達の所へ戻ろうとしていた麦兵衛にハイシェラの思念が語りかけてきた。
(この先に何かおるな)
ハイシェラの真剣な様子に麦兵衛も状況を察する。
「……さっそくヤバイやつなのか?」
(相当まずい気じゃな。 禍々しくて、それに……、私の世界で言う神に似た感じがある)
古き神である魔神達を滅ぼした存在、外より来た新たなる神。
ハイシェラは、それらと良く似た感じがすると言うのである。
「神なんて、手におえないんじゃないか……」
現代社会における一般人としては極普通の反応である。
(安心せい。 お主の世界ではどうだかは解らぬが、神は無敵ではないし、
やろうと思えば私とおぬしでも十分殺せる。
私も昔は、神と呼ばれていたのだからな)
詰まる所、力ある存在なだけというのだ。
そして、麦兵衛には、それについて思い当たる節がある。
「まさか……」
(知っておるのか?)
思い出すようにハイシェラに語り始めた。
今日子の身体を操り、まひるを襲い、逃走した無貌の神の存在を。
「リック達は逃げきれたかしら?」
あれから大分走り続けた。
幸い、兵が追ってくる事もなく、あの施設が目に見えなくなって大分になる。
未だ気絶した純夏を沙乃が背負い、定められた集合地点へと歩きつづける。
「あの二人がそう簡単に死ぬとは思えないけど……」
自分達の方に追っ手が来なかったということは、リック達の方が成功したという可能性も考慮できた。
「だといいのだけれども……!?」
ミュラがふと足を止める。
「どうしたの……?」
疑問に思った沙乃。
「下がって!!」
ミュラが沙乃に向かって飛び出し叫んだ。
それと同時に物陰から影が飛び出してくる。
鈍い音が響いた。
見れば、ミュラの脇腹に剣が突き刺されていた。
「ミュラ!?」
純夏を背負った沙乃がミュラへ近寄ろうとする。
「来ないで!!」
だがそれをミュラは拒んだ。
直ぐさま相手へ向けて剣を振り上げる。
「ふむ……、攻撃の際に感づかれた……か」
影の正体である女は、剣を引き抜き後ろ回避していた。
(駄目、立てない、力が……、あの剣に吸い取られたのが解る)
幸いなことに臓器への損傷はなかったが、続く力が出ない。
刺された時に力を吸われたのだ。
「まぁ、魔力無しとはいえ丁度いい腹の足しにはなるな。
その後でゆっくりと奪うとするか」
そういい担がれた純夏を見据える。
「絶対に許さない!!」
純夏を地に投げ、沙乃が槍を繰り出す。
「其方はもう動けないだろう、後はお前だけだ……くくく」
怒りに燃え上がり、立ち向かってくる沙乃を見て、無貌の神はいやらしく笑った。
「やっぱりあいつか……」
目に忌まわしき姿が見える。
せっかく分かり合えた仲間を引き裂いた根源、無貌の神。
(あれが先程の話のやつか……、どうするんじゃ?)
「あの剣を砕けば、彼女の意識も戻るらしい。
このままじゃ、どちらが勝ってもどちらかが死んでしまう。
……もうそんなのはごめんだ!!」
(当然じゃな)
ハイシェラが満足そうに頷くと麦兵衛は四人の中へ飛び出していった。
「どうした? 息が上がってるぞ?」
無貌の神が目の前で槍を振るう沙乃に向かって話し掛ける。
「っく!?」
懸命に振るうが、無貌の神は、軽く攻撃をいなし続ける。
(な、何で相手は疲れないのよ!?)
「無理しないで……、あなただけでも逃げて……」
地に倒れたミュラが絶え絶えな息で沙乃に言う。
「お願い、ここで二人とも死んだら……」
「嫌!!」
だが沙乃はそれを否定する。
「美しい友情だ……」
彼らの前に立つ無貌の神に操られた今日子の表情が妖しく微笑む。
「だが、そろそろ飽きた……、楽にしてやろう」
沙乃が槍を振るった瞬間、無貌の神はその懐を掻い潜ってきた。
(やられた!?)
死を覚悟した。
だが、痛みはない、意識がある。
「あなたは……?」
二人の間に割って入るように麦兵衛が立っていた。
「不意打ちとはやってくれるな……、引かなければ我も死ぬ所だった」
無貌の神は、自らの前に立ち構える麦兵衛を見た。
「そうか、あの時横にいた小僧か……、だが貴様如きでは我には……」
「うおおおおお!!!!!!」
無貌の神が言い終える前に、麦兵衛が動いた。
「なっ!?」
その動きは、常人とは思えぬ、一流の剣士のそれと変わりなかった。
「凄い……」
沙乃が感嘆の声を上げる。
「くっ!?」
突然の動きに無貌の神も後手に回った。
受け止めつづけるだけで精一杯だ。
ハイシェラソードと空虚のぶつかり合う音が空に響きつづける。
(良いか、狙うはあの剣じゃぞ。
話に聞き、そして間近で感じて解った。
恐らくあれが本体!!)
「解ってる!!」
ハイシェラの指示通りに身体を動かす。
向上した身体能力がそれを可能にさせていた。
「そうか!! 貴様も我と同じ!!
その剣が力の源、本体か!!」
(寄生して宿主をいいように操るお主と一緒にしてもらいたくはないな!!)
「ははははは!! 何を言うか、貴様も元の世界に帰りたいのだろう?
そいつを良いように動かす貴様と我と何が違うというのだ?」
(違うぞ!! 私は、貴様のように本人の意思を無視したりはせん!!
私とこの者の目的が一致したから協力している、そう仲間だ!!)
「くっくっく、それは貴様に力があるからだろう?」
ハイシェラと無貌の神の言い合いが、攻防の中で続く。
「ふむ、思ったよりも少々厄介だな……、ではこれならどうだ?」
空虚が妖しく光り輝く。
(いかん!! 避けよ!!)
ハイシェラが叫ぶと同時に麦兵衛に向かって雷撃が放たれる。
「こ…・・の野郎ォォォォ!!!???」
雷撃をハイシェラソードで迎え撃ち、全力で弾く。
弾かれた電撃は、辺りに四散し、すさまじい光となる。
「これも防ぐか……」
その様子を見た無貌の神は瞬時に考えを巡らせる。
(これは、続けても少々分が悪いかもしれないな……。
一旦引いて、出直すか……。
無理に肉体を狙って死滅しては、何の意味もないのだしな)
「はぁはぁ……」
(良くやった)
気づくと前に無貌の神はいない。
見回すもその姿は何処にもあらず。
すると……。
「今回は此方も万全ではなかったから引かせてもらう」
何処からともなく無貌の神の声が聞こえてきた。
「何処だ……!?」
「そこの気絶している少女は、また次回にするとしよう。
精々、それまで死なずにいるんだな」
辺りに無貌の神の笑い声が響く。
やがてその声が途絶えた時、場には四人だけが取り残されていた。
【原田沙乃@行殺!新撰組(ライアーソフト) 鬼(現在は狩) 状態○ 所持品:十文字槍 食料・医薬品等】
【ミュラ@ママトト(アリスソフト) 狩 状態×(極度の消耗状態) 所持品:食料・医薬品等 長剣 地図 純夏】
【牧島麦兵衛@それは舞い散る桜のように(バジル) 招 状態◎(身体能力上昇) 所持品 ハイシェラソード
行動目的:初音を倒す。結城ひかりの救出。透、まひると合流】
【ハイシェラ(ハイシェラソード)@戦女神(エウシュリー) 人数に含まない 状態ショートソード
行動目的:元の世界に帰る。今は麦兵衛に力を貸す】
【岬今日子(無貌の神)@永遠のアセリア(ザウス)招 状態○ 所持品 永遠神剣第六位『空虚』(雷撃1発分の魔力)】
【Pursuits後】
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