Escape Battle
「ふぅ……」
カレラとの一戦をやり終えた悪司はベッドの横に腰掛ける。
「大分、時間が経っちまってるな……。
あたた、流石にちょっと腰もいてぇ」
横には、精魂果てたカレラが横たわっている。
(篭絡したのはいいが……、これじゃもうしばらく起きそうにないな)
考えながらも悪司の腰も少々痛みを上げる。
(少し休んで、カレラを叩き起こして、情報を聞き出すと共に要塞内を案内させるか)
カレラの寝顔……、いや気絶した顔を見ると悪司もゆっくりと眠りについた。
(なるほど、彼女が和樹殿の目的か……)
部屋の入り口で、ギーラッハは、和樹と話す末莉を見ていた。
(和樹殿の信念の強さが解る気がする)
目の前には、和樹の変わり果てた風貌に驚く末莉と、怒られあたふたする和樹。
ギーラッハがそこへ入り込む余地はなかった。
(和樹殿は、信ずるに値する人物だな……)
無影の一連の後、ギーラッハの中にあった蟠りが多少解消された。
ヴィルヘルム、和樹……、どちらも己にとっては信用するに値すると彼は思った。
逆にケルヴァンに対しては、少しずつだが、不信感は募っていく。
(だが、仕事は仕事だ……)
(さて、これ以上、覗くのもヤボと言うもの……)
二人の邪魔をしないよう、音を立てずサッと部屋からギーラッハは出て行った。
「あ、ギーラッハさん!!」
自分を助けてくれた誇り高き戦士の話をしようとした所で和樹は彼の存在を思い出す。
「行っちゃったか……」
廊下の奥に消えていく、ギーラッハの後ろ姿が和樹の目に映った。
「目を覚ましたか?」
この間と違って、隣に横たわるのは悪魔だが美女だ。
悪司の声も多少ニヤニヤとしたものになる。
「わ、私……一体……」
あの想像を絶する快楽の並から意識を戻した後である。
カレラの頭が寝ぼけたかのように多少混乱をする。
「覚えてるか?」
飼い主のように、悪司はカレラに語りかける。
(ああ、そうか私は……)
悪司の声でカレラは何があったかを思い出す。
「さ、話してもらうぜ……。
まずは、ランスの居場所と俺とあいつどっちが強いかだ」
悪司の瞳が険しくなる。
主にしかられた犬のように、カレラは答え始めた。
「今は多分、外で仕事してると思うわ……。
あなたもあった新撰組たちと同じよ」
「で?」
「あく……」
「俺が聞いてるのは、テクの事じゃない。
俺とランスが純粋に闘った場合、どちらが勝つかだ」
「……今は勝てるかもしれない」
カレラの言葉に悪司は、驚く。
「……どう言うことだ?」
「ランスは、どんどん強く慣れるわ。
それも普通の人より遥かに早い速度で……。
しかも彼には限界と言うものがないの」
黙ってカレラの台詞に集中する悪司。
「乾いた砂が水を吸収するかのように、彼はどんな事でも成長するわ。
悪魔であった私だから解る。
彼は私との行為でさえも成長の糧にしていたわ」
「……」
「最後に私が見た時は、悪司と互角くらいね。
けど、外で仕事を重ねる内に、戦いを続けていれば……」
「互角から、はっきり俺より強くなっているかもしれないか……」
最後まで聞く必要はなかった。
(そんな事で諦める俺じゃねぇ……。
絶対に絶対にアイツは、俺だけの手で倒す!!)
では、次に聞くべき事は何であろうかと悪司は考え出す。
(当初の目的通り、まず施設内を案内がてらに把握して、その後あゆ達と合流だな)
「それじゃ、重要施設の場所を教えてくれ。
それと何か役に立ちそうなアイテムのある場所とかな……」
「ええ、解ったわ……」
廊下を歩く内に兵達の話してる会話から、
ギーラッハは中央に従う者が来たのだと言う事を知った。
(騒がしい、騒がしいと思っていたらそう言うことか……)
横では、あの娘の衣装がそそるとか会話している兵もいる。
(女か……、己の知っている者であろうか?)
であるなら、多少顔を確認しては見たい。
ギーラッハは、客室の方へと向かって行く。
「あれは……」
その行く先の彼の目に入ったのは、一組のカップル。
片方は見覚えのある女……。
「帰還するにはどうしたらいいんだ?」
歩きながら、悪司がカレラに囁く。
「……私は知らないわ。
上の人たち、多分ヴィルヘルム、ケルヴァン、比良坂初音。
知っているのは、このトップの三人だけね」
「ひらさかはつね?」
前二人の名前は、嫌と言うほど聞かされてきたが、初音の名前は、初耳である。
「普段は黒髪のセーラー服を着た少女だけど、蜘蛛の化身よ。
後は、絶対に闘っちゃ駄目としか言えないわ……」
「桁違いの強さと言うわけか……」
「……その三人を除けば、恐らく最強があの男よ」
そして、自分達の方へと向かってくる赤い騎士の方をカレラは見た。
「久しいと言うべきかな?」
先に言葉を発したのはギーラッハだった。
「ええ……、こっちは山本悪司って言うの。
多分もう知っていると思うけど、中央に着てくれた人よ」
カレラの話を聞きながらも、ギーラッハの目は悪司を捉えて離さない。
その様子にむすっとした顔をしながらも悪司は挨拶をする。
「よろしくな……」
だが、ギーラッハは少し悩んだ様子をすると、彼には珍しく意地悪げな返答をし始めた。
「大切な嫁を殺されてまで尚、中央に従うか……、男として最低の部類だな」
(まずい!!)
カレラは、焦った。
恐らく、あの放送の件をギーラッハも聞いていたのだ。
「所詮、自分の命が惜しいだけの信念も何もない輩。
尤も、ランスのあの行為に対しては、己も余り良くは思わないが……」
抑えてはいるが、悪司の顔が、気が怒りに溢れているのがカレラにも解る。
(悪司、お願い、落ち着いて!!
さっきも言ったようにギーラッハは、あなたでは……)
「だが、それでも今の貴公は、そのランスよりも劣っているとしかいいようがない。
まぁ、そんな男を選んだ女の目が……」
グワッ!!
咄嗟に前へでた悪司の拳がギーラッハに振り上げられる。
彼の怒りの臨界点をとうとう超えたのだ。
「ふふ……、やはりな」
一歩後ろに下がったギーラッハが、悪司に向かって構えを取る。
対する悪司の方は、しまったと言う後悔の念と怒りが入り乱れている。
「先程の言は、失礼した。
貴公がそのような男でない事は、直ぐに理解できた。
だからこそ、試させて貰った」
ギーラッハが大剣を握る。
「己は、己の仕事をしなければいけないのでな……」
ギーラッハの顔がニヤリと綻ぶ。
この男もまた強き者。
戦いにおける興奮がふつふつと湧き上がってくる。
「悪司!!」
カレラが叫ぶ。
それと同時に、カレラは媚薬の瓶をギーラッハに投げつける。
「何っ!?」
これにはギーラッハも多少驚いた。
カレラは、中央の側へ組するものであると思っていたからだ。
だが、そうおかしくも思わなかった。
(あの男に魅了されたか……)
手で払いのけると瓶が廊下に落ちて四散する。
その隙に、カレラが悪司の手を引き、二人は、逃げ出していた。
「悪く思うな……、逃がすわけにはいかない」
廊下の角を曲がっていく二人をギーラッハは追い始めた。
「くそ!!」
走りながら悪司が声を出す。
(はやく、他のみんなに知らせねぇと!!)
あゆやリップがいた場所への部屋へと向かう。
ふいに、カレラが悪司に話し掛ける。
「悪司は、先に行って、私は、時間を稼ぐわ」
「馬鹿言うな!! 言った筈だ。
俺が責任を持って護るって!!」
「このままじゃ、他の兵も来るわ。
二人でかかっていっても無駄死にするだけよ。
私は、時間を稼いだら必ず逃げ出すから」
続けてカレラが言う。
「仲間がいるんでしょう?
彼女たちまで無駄死にさせる気なの!?」
「……解った。
いいか、お前は俺の女だ!!
絶対に帰ってこいよ!!」
「そう、それでこそあなたらしいわ……」
走るのをやめ、すっと悪司の唇に、カレラは唇を重ねた。
ほんの少しの抱擁が終わると悪司は、客室の方へと走るのを再開する。
その様子を見届けるカレラ。
「命を狙ってたはずなのにね……。
命を助ける事になるなんて……」
角からギーラッハの姿が飛び出る。
「悪司、絶対に死んだら駄目よ。
あなたは、悪魔である私を屈服させたんだから……」
赤い悪魔へとカレラは、勝てぬ戦いを挑みに行く。
「くそう、くそう、くそう、くそう!!」
あのキスの時。
カレラは、思念を通じて悪司に出来る限りの情報を伝えた。
一つは、島の地図のイメージと共に東西南北の結界装置のありか。
ユプシロン等の危険な鬼側の強敵。
そして、最後にこの要塞からの脱出で最も安全な経路を……。
本人が否定しようとも悪司には、それらの行為の意味が解った。
(結局、俺は、また守れないっていうのか!?)
そして、彼は次の覚悟も決めた。
下手をすれば、彼らが気づかない内に先に手が回っているかもしれない。
この辺りに彼等はいるはずなのだ。
(たった一言……、それだけで敵より早く行動できる内容のを……)
「失敗だ!!」
悪司の大声が響き渡った。
「この声は!?」
リップとあゆが同時に声を上げる。
アルの事を尋ねようとしていた九郎も何事かと動きが止まる。
「先程、話した悪司さんの声です!!」
リップが九郎に伝える。
「あのだあほは、もうばれたのかーっ!!」
悪司がへまったのだろうとあゆは思った。
「早く、ここから脱出しないと……」
リップの先導と共に、あゆがライセンを支えて、四人は部屋を出る。
「確かあちらの方から声が……」
悪司の声がした方へと四人は移動しようとする。
ヒュン!!
突如として、四人の前に弓が飛び出る。
その威力は、壁を貫通した程の強い一撃が……。
「何処へ行くのです?」
神風が弓を引きながら、姿を現した。
恐らく、ケルヴァンの命の後、監視をしていたのだろう。
(俺以外は、みんなまだ若い女の子だ……。
やれるか? いや、ここでやらなきゃ後でアルにしかられる!!)
「ここは、俺が防ぐ!!
みんなは、その悪司と合流してくれ!!
こいつを倒したら、俺も直ぐ行く!!」
走り出した中で一人、その場に九朗は留まった。
「九朗さん!?」
リップが振り向いて叫ぶ。
「はやく!! この時間を無駄にするな!!」
「は、はい!!
必ず助けに来ますから!!」
九郎の迫力に気圧され、ライセンを二人で担ぎ悪司の声の方へと走り始めた。
それとほぼ同時に……。
「ぐぅ!?」
九郎の右足に神風の弓が突き刺さる。
神風の次の弓を引く音が聞こえる。
(逃げ場のない早撃ち勝負か……、望む所だ!!
俺は……、絶対に負けない!!)
その様子を後ろからつけてみていた美希は、動きが完全に止まってしまった。
だが、動きこそ止まったものの、不思議と美希の頭の中は物事を考え始める。
(見た所、あっちの四人が反逆者だったみたいだけど……)
ポケットの中のスタンガンを美希は握り締めた。
(あの弓女に協力すれば、私は今後共に絶対に安全が確約されそう……。
だけど、それはまたあの光景が……)
見過ごすか、協力するか、それとも見なかった事にして去るか、美希は悩み始めた。
【山本悪司 @大悪司 (アリスソフト) 招 ○ 行動目的:ランス(名前、顔は知らない)を追う・中央から脱出】
【カレラ@VIPER-V6・GTR(ソニア) 鬼→狩(悪司に篭絡) 状態○ 所持品なし】
【大空寺あゆ@君が望む永遠(age) 招 状態:○ 装備:スチール製盆 行動目的:悪司と合流】
【ライセン@ママトト(アリスソフト) 狩 状態△(媚薬により発情中) 所持品:なし】
【大十字九郎@斬魔大聖デモンベイン(ニトロプラス) 状: △(右足負傷) 所持品 自動式拳銃(フルオート)『クトゥグア』、
残り弾数不明(15発以下 行動方針:苦悩中】
【七瀬凛々子(スイートリップ)@魔法戦士スイートナイツ(Triangle) 招 状態○(軽傷有り)所持品:グレイブ 行動目的:悪司と合流】
【山辺美希@CROSS†CHANNEL(フライングシャイン) 招 状態○(覚醒?) 所持品:スタンガン】
【ギーラッハ@吸血殲鬼ヴェドゴニア(鬼) 状態:○ 装備:ビルドルヴ・フォーク(大剣)】
【固有の記憶が紡ぐもの、Dark Roads後】
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