固有の記憶が紡ぐもの






 中央要塞。
 ヴィルヘルム・ミカムラの居城であり、この新世界の要となる場所である。
 そのような場所であるゆえに、様々な人間や魔族が住まい、様々な施設が存在する。
 たとえば山辺美希がいるこの場所、武器庫もその施設のうちの一つだった。

「ゴイシャス」(訳注:ゴイス(凄い)+デリシャス)
 開口一番、美希はのたまった。
 ちょっとした講堂くらいの広さの部屋に、所狭しと武器が並べられている様はまさに圧巻である。
 物珍しげに周りを見回しながら奥に進んだ美希だったが、ふと足を止めた。
「…うあー、まさかあるとは」
 陳列されている数多の武器の中から、美希は目に留まったそれを選び手に取った。
 ――バックマスター社製・マックスポイントクロスボウ。
 しかもコッキング装置付き。
 狂気に満ちたあの世界で、最も扱い慣れた凶器がここにあった。
(何であるんだろう、つーか何で見つけちゃうんだろう)
 これを手に取ると思い出してしまう。
 これで、自分は一体何回……
「あーー!! NO!でりーと!思考消去!思考消去!」
 あわてて思考を打ち消す。
 できれば思い出したくない記憶だ。
「ふぅ、何とか内なる自分に打ち勝ちました、先輩」
 架空の黒須太一がグッジョブと親指を立てた。


 河原末莉の部屋で一度目覚めかけた記憶がある。
 スキテキシュことメイドさんが戻って来た時だ。
 その時、末莉は泣いていた。
 どうしたのかと尋ねるメイドに、何でもないと一生懸命言い訳していたように思う。
 その後また眠りに落ちてしまい、気付いた時にはいつの間にか自分の部屋に戻されていた。

 体調が戻った美希は、すぐに行動に移った。
 ここも、絶対安全な場所ではない。
 それを知ってしまった以上、じっとしているわけにはいかなかった。
 どういう理由があったのかは分からないが、あの男女の始末を命じたのは、やはりケルヴァンだろうから。
 自分も同じ目に合う可能性は、あるということだ。
 たぶん、ケルヴァンの目的に反することをしたんだろうと予想はしている。
 彼に従っている間は安全だと思うが、万が一ということもある。
 幸い、一度要塞内を練り歩いたおかげで顔と名前は知られている。
 特に兵舎関係の施設は顔パス状態だった。

 とりあえず、今の自分に出来ることは何かと考えると。
 もしもの時の為、護身用の武器を確保することと、脱出経路の確認、利用できる人材の選別…くらいなものだろう。
 まずは武器の確保。
 それで美希は一人でここを訪れていた。
 兵舎にいた兵士に伝えた訪問理由はそのまま。護身用の武器が欲しい。


「でもこれが一番使い慣れてるわけだしな〜」
 考える。自分の目的は何なのか。
 自分が可愛い。死にたくない。生きたい。なら必要なのは?
「身を守れる知恵と力、なのですのだ」
 一週間が永遠にループし皆が初期化されていく中で、自分が身に付けたもの。
 何十週も固有の記憶を持ち続けてようやく得られた、生き残る為の、強さ。
 たとえ誰であろうと、騙すことも、犠牲にすることも厭わない歪んだ強さが、自分を守る絶対不変の武器だ。
 クロスボウを付属の布で包み小脇に抱える。
 矢筒もセットで持ち、美希は中庭に面した窓へと向かった。
 この周辺の地理は、事前に頭に叩き込んであるので間違いない。
 格子がはまっていたが、これらを外に出すことくらいは出来そうだった。
 外に誰もいないことを確認し、窓下の茂みに放る。
「これでよしっと」
 そして美希は、また武器庫内を物色し始めた。
 兵舎で待っていた兵士に、護身用としてスタンガンの持ち出しを許可してもらったのは、そのすぐ後である。


 自室まで誰にも発見されずにクロスボウを運んだ美希は、クローゼットの中にそれを隠すとまた外を練り歩いていた。
「う〜ん、思いっきり身体検査されたなぁ」
 もちろん女性兵士がやったわけだが。
 自分が、と立候補したチヌ野郎(訳注:チヌダイ(魚類)の様な顔をした男の意。相手を侮辱する言葉)もいたが、
その女性兵士と一緒に四本のツンドラ気候並みに冷たい視線で射抜いてやったら大人しくなった。
 ともあれ、次は脱出経路と手駒だ。
 利用できる人材は現状では極端に少ないので、これから発見していくしかない。
 もしケルヴァンから命を狙われる立場になったとしたら、中央の者はほとんど敵になるだろう。
 今の立場ならほとんど味方だろうが。
 どちらの立場でも使えそうな人材といえば。
(強いて上げれば、末莉ちゃんくらいかな)
 彼女に何かさせるのは難しい気がするが、人質としては使えそうだ。
 とすれば、仲直りしておくのが上策だろう。
「ああ…なんかもうヨゴレ確定だなぁ、私…」
 とほー、と肩を落としながら歩いていた美希の目に、一組の男女の姿が映った。
 少し先の十字路を横切っていく。
「にょー!?」
 思わず声を上げるが、その二人は美希に気付かずそのまま走り去り、見えなくなった。
 美希は十字路に急ぎ、二人が進む方を覗き込む。
「うーわー…ここにもそういうお店ってあるのかなぁ」
 美希が驚いたのは女の方の服装…というかコスチュームだ。
 やたらめったら露出度の高いセーラー服みたいなコスチュームを着ている。
 長物を持っているが、あれはなにかの小道具だろうか。
 きっと、自分のような処女には想像もつかない、もの凄い使い方をするのだろう。
「これは、どういうシチュエーションなんすかねぇ…愛の逃避行?」

『B子さん、あなたのような娘がこんな店で働いてはいけない!』
『Aさん…』
『僕と一緒に逃げましょう!』
『はい!』

 むくむくと野次馬根性が沸き起こってきた。
(あ〜…どうしよ。後つけてみようかな)
 今しか出来ないことだが、今やらなければならないことではない。
 かと言って、有事の際の下準備がそんなに急務なのかといえば、そういうわけでもない。
 悩んだ。
 数秒、美希なりに悩んだ末に結論を出し――
 ――そして美希は行動を開始した。



【山辺美希@CROSS†CHANNEL(フライングシャイン) 招 状態○(覚醒?) 所持品:スタンガン】
【大十字九郎@斬魔大聖デモンベイン(ニトロプラス) 招 状態△ 所持品:自動式拳銃(フルオート)『クトゥグア』、残り弾数不明(15発以下)】
【七瀬凛々子(スイートリップ)@魔法戦士スイートナイツ(Triangle) 招 状態○(軽傷有り) 所持品:グレイブ 行動目的:敵本拠の捜査】

【『ウェイトレスは振り向かない』直前】

【備考1:美希の部屋のクローゼットに、クロスボウ有り】
【備考2:美希の行動は任意】



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