それぞれの選択






「なんのつもりだ? あんたには感謝されこそすれ、恨まれる覚えはないんだが」
「そうね……私自身にはあなたに対する恨みはないわ。…でもこの子達にした事、忘れたとは言わさないわ」
 霧は自分の後ろの双子に目をやる。
 双子は怯え、悲鳴を上げる事すら出来ない様子だ。
(……厄介だな。あの様子じゃ双子に完全に騙されてるな)
 説明した所で信じてもらえるだろうか?
 玲二の事が信用出来ずに一度は逃げ出した霧を説得するのは容易な事ではない。
 しかし玲二はあえて困難な道を選ぶ。
 もしエレンが傍に居たら呆れ顔をして危険性を説いただろうが、
彼女とてそうする方が玲二らしい、と言う理由で内心では賛成してくれるだろう。
(だがあまり時間はかけれないな……あのアフロとロボットが来る前になんとかしないと……)

「佐倉霧…だったな確か。俺の話を聞いてくれないか」
「殺人鬼の言う事を信用しろっていうの?」
 霧はボウガンからイタクァに構え直し、その銃口は玲二を捉えている。
 だが、ここまでは玲二の予想通り。
 玲二はゆっくりと銃を地面に投げ捨てる。
 コルトとS&Wは霧の足元で止まった。
 その行動に戸惑ったのか霧の表情がこわばる。
「これで俺は君に危害を加える事は出来なくなった。話を聞いてもらえるか? あまり時間がないんだ」
 もう後戻りは出来ない。
 なんとしても霧を説得しなければ玲二自身の命もない。 
「あなたはどうしてそこまでして……」
 霧の背中に重みが加わる。
 双子の一人、なおみが霧の背中にしがみついていた。
「信じたら駄目だよ、お姉ちゃん。あの男は私達の時もああやって騙したんだから……」
 そうだった。
 この子達はなぜあんなに怯えていた?
 それは裏切られたからではなかったのか。
 信じたはずの守ってくれるはずの存在に裏切られたから……
「……お前達、そうやって騙したのか?」
 双子の姉妹に傾きかけていた霧の気持ちを玲二の言葉が冷静にさせた。
「あんたも……霧の方も不思議に思わなかったのか? 俺が霧を助けた時、そんな機関銃を持っていたか?
 霧もそれくらいは覚えてるはずだ。まさか俺の持ち物だったなんて与太話を信じてる訳じゃないよな?」
 ───そんな話を信じていた。
 あの時の双子の涙ながらの話を鵜呑みにして、疑いすらしなかった。
(じゃああの機関銃はあの子達の───)
「こんなに早くばれるとはね。しょうがないなぁ」
 霧が真実を知った時には既に遅かった。
「「えい!!」」
 掛け声と共に双子が霧を押し出す。
 よろめきつつも前に押し出された霧を玲二が受け止める。
 即座に玲二は次に来るであろうAK47の攻撃に見越し霧を抱きかかえたまま横に跳んだ。
 その瞬間、玲二の目に飛び込んで来たのは駆け足で木陰に隠れる姉妹……そして鳳なおみが手に持つリモコン。
 体中を駆け巡る悪寒。
 霧の全身を見る。
(───あった!)
 霧の背中に挟んであったプラスチック爆弾を掴むとそれを放り投げ、それと逆方向に再び跳ぶ。
 なおみが笑った気がした。

 爆発音が鳴り響いた。

「なんだ今の音は!」
 音だけ聞こえるのが逆に不安を募らせ、武は我慢出来なくなりコックピットを開けて外部の状況を確認した。
 揉み合ったまま崖下に転がり落ちて行く男女が見えた。
「タケル!」
 冥夜が言うまでもなく、武は崖下に向けてカイゼルを発進させていた。
「くそっ、一体何が起こってるんだ!」


「二人共死んだかな?」
「どうかな……ここからじゃ確認出来ないね」
 今後の憂いを絶つ為にも二人の状態は確認しておきたい所だが、子供には二人が落ちた崖を下るのは不可能に近い。
 もっともあの爆発では直撃しなくてもどうなっているのかは容易に想像出来ることであったが。
「また、利用出来る人間を探さなきゃね」
「めんどくさいね…」
 互いに顔を見合い溜息をついた。

「成る程。大した悪党だな、お前らは」
「俺達が言う台詞じゃねえだろうが。なんせ俺達の方がもっと悪人なんだからよ」
 それまで戦況を静観していたゲンハと直人が姉妹の前に姿を現す。
 突然現れた二人の男に対し、姉妹は一瞬戸惑ったもののすぐにAK47を構えた。
 こういう状況下で下手に演技しようとするとろくな結果にならないのは先程思い知ったばかりだ。
 姉妹の判断は間違ってはいない。
 だが、相手が悪すぎた。
「おらよっ!」
 既に間合いを詰めていたゲンハがなおみの銃を蹴り飛ばす。
「くっ…!」
 あかねがそれを見てゲンハに照準を向けるがこちらは
「どうもゲンハと居ると俺の影が薄くなる気がするんだよなぁ」
 直人がシグ・ザウエルで弾き落とした。

「……で、犯るのか?」
 木の蔓であかねを縛りながら直人はゲンハに問いかける。
「はっ! 当たり前だろうが。女目の前にして妙な事言ってんじゃねえぞ」
 ゲンハはなおみにのしかかりすっかりやる気である。
「ひっ…! やめ…!」
 なおみも必死の抵抗を見せるが腕力でゲンハに適うはずもなく簡単に押さえつけられてしまう。
(俺が言いたいのは最後の相手がこんな餓鬼でいいのか? って事なんだがな……)
 実際の所ゲンハにとっては相手の外見ではなく相手が女である事が重要なのだろう。
 目が見えようと見えまいと戦闘力に大差なかったのはそういう所もあるのかもしれない。
「なおみを放せ! この! この!」
 どうでもいいことに考えが及んでいた直人の思考はあかねの声によって現実に引き戻された。
 あかねは足をばたつかせ抵抗を試みるががっちりと木に縛り付けられ、全く身動きがとれない。
「で、直人。てめえはやらねえのか? せっかく二人いるんだ、分けるのも簡単だ」
 ゲンハの提案に直人は首を振った。
「わざわざ聞く事じゃねえだろうが。俺はたった一人の女にぶちまける為に我慢してるんだ。お前はお前で遠慮なく楽しめ」
「クックッ……待てば待つほど狂おしくなる。俺の言った通りだったろ?」
 ゲンハの言葉に直人は笑みを浮かべた。
「ああ、全くだ。こればかりはお前に感謝してるぜ」
「助けてやった恩は忘れたのかよ」
 不満げに問うゲンハに直人は
「さっき助けた分でチャラだ」
「なるほど! 違いねえ!」
 何がおかしいのか二人でずっとゲラゲラ笑っていた。

 それから少しして。
「行くのか?」
「ああ……言っただろ? 俺には会わなきゃいけない奴がいる」
 直人は立ち上がった。
 ゲンハの下でもがくなおみを一瞥して立ち去る。
「じゃあな。地獄で会おうぜ」
「馬鹿か。俺が死ぬ訳ねえだろ。地獄に行くのはてめえだけだ」
「死ぬまで言ってろ、馬鹿」
 それが彼らの別れの挨拶だった。

 玲二の投げた銃を回収した直人の耳になおみの悲鳴が響く。
(あいつだけは確かに死にそうもねえなぁ…)
 直人は自分の考えのおかしさに笑い出す。
(これで本当に言葉通りゲンハが死ななかったら、それはそれでおもしろいのかもしれねえな)

「俺が先に逝くか、それともお前ら二人が先に逝くか……真剣勝負といこうじゃねえか!」
 己の存在意義をかけ、ゲンハはなおみに己の凶器を突き入る。
 なおみの悲鳴で命を賭けた勝負は幕を開けた。


【白銀 武@マブラヴ age 状態○ 所持品 サブマシンガン(残弾0) 、ハンドガン(装填数 20発) 招 】
【御剣 冥夜@マブラヴ age 状態○ 所持品 刀 狩】
(『カイゼル』のコックピット内)
【銀色のバルジャーノン『カイゼル』 状態 アイカメラ破壊、外部の状況確認できず、現在コックピット開放中】
【吾妻玲二@ファントム・オブ・インフェルノ(ニトロプラス) 狩 状態? 所持品:手榴弾 暗視ゴーグル×2 食料・医薬品等】
【佐倉霧@CROSS†CHANNEL 狩 状態? 装備品 回転式拳銃(リボルバー)『イタクァ』残り弾数不明(13発以下)】

【ゲンハ@BALDR FORCE(戯画) 招 状態×(裂傷多数、背中に深い刺し傷、失明、かなり危険な状態)  所持品:鉄パイプ 包丁 AK47】
【鳳あかね@零式 状態×(縛られて身動き不可能) 装備品なし (狩?招?)】
【鳳なおみ@零式 状態×(ゲンハに押さえつけられている) 装備品なし (狩?招?)】

【直人@悪夢(スタジオメビウス) 招 状態△(傷は多いが命に別状なし) 所持品:シグ・ザウエル S&W(残弾数不明) 
 コルトガバメント(残弾数不明) クレイモア地雷×2 AK47】

(餓狼伝説直後)



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