入隊試験






「条件付きとは、どういうことだ?」
「大事な女を探している」
 土方歳江の問いに、俺は答えた。
 存外、真剣な顔になっちまったのを自覚する。
「俺はあんたらの為に働く。その見返りとして、あんたらは俺の女を…今日子を探して欲しい」
 近藤勇子が「まあ」と呟いて、口に両手を当てる。
 歳江は表情を変えず、あらためて問うてきた。
「貴様、働くというが、何をするつもりなのだ?」
「何でもだ。拉致でも殺しでも、依頼されれば何だってやってやるさ」
「…ずいぶんと殺伐した発言だな」
 殺伐。…そうだよな。殺伐してるよな。
 今日子や悠人とバカやってた頃は、こんなこと口にする時が来るなんて思いもしなかったぜ。
 ――だが、今は。
 不敵な笑みが浮かぶ。
「合ってるだろ? あんたらのやってることと」
 これは、カマだ。だがほとんど確信に近いカマ。
 俺の視線と歳江の視線がぶつかる。
 しばしの沈黙の後、歳江が「ふっ」と冷笑を浮かべた。
「腹の探り合いは無しにした方がよさそうだな。いかにも、我等の任務は今貴様が言った通りだ」
 引き出した。まずは第一段階成功か。
「貴様の言い分はわかった。同志が増えるのは我等としても望むところだ。
その為に、貴様の要望を上役に進言するもやぶさかではない。
…だが」
 ここから、第二段階。
「貴様の要望を通すには、一つ我等に示さねばならぬものがあるな?」
 そう、示さなきゃならないよな。
 俺は『因果』を目の前の地面に突き立てる。
 その行為に、沖田鈴音が刀に手を添えるのが分かった。歳江と勇子は身じろぎもしない。
 俺はそのまま詠唱に入る。
「神剣の主として命じる。光となりて我を守れ!」

  ――ドンッ!

 足元に魔方陣が展開。加護のオーラフォトンが俺を包む。
「こっちは準備OKだぜ? いつでも来な」
 勇子がふわぁと声を上げる。
「すごいせっかちさんだよ、歳江ちゃん」
「だが話は早い。そーじ!」
 呼ばれた鈴音が前に出る。
 日本史の授業でも謎だったんだが、何で『沖田鈴音』で『そーじ』なんだろうな?
 こんなちっこいのに新撰組最強ってのも謎なんだよなぁ。
「こやつ、面妖な力を使う。加減はしろ、だが油断はするな」
 …無茶を言う。鈴音も普通に頷いてるし。
「こちらはこの沖田鈴音が相手をする。貴様の実力、見せてもらおうか」
 そう言ってはいるが、力を試す以上に俺が信用できるかどうかも試されるはずだ。
 ここでしくじる訳にはいかねぇな。
 だが、だからといって必要以上に気負うのはかえって危ない。
 俺は俺らしく、マイペースに行かせてもらうぜ。
「あいよ、お互い程々にってことで気楽にやろうぜ」


  「いきます」
 刀を逆手に持ち替えた鈴音が向かってくる。
 この世界、結構何でも出てくるからな。
 もしこいつらが本物の新撰組だとすれば、幕末屈指の剣豪と手合わせするってことか。
 へっ、なかなか出来ることじゃないよな!
 地面に刺さったままの『因果』を強引に引き抜く。
 土塊を鈴音に向けて飛ばすようにして。
「…!」
 あっさりかわしやがった。突進力も変わんねぇ!
 逆刃の一撃が俺に向けて振るわれる。
「っと!」
 これは防御。
 次いで逆袈裟! これも防御。
 次も連撃かと思ったが、今度は下がって間合いを取った。
 加減はしてるんだろうが、このくらいなら見えるな。
 防御集中してればの話だが。
「…攻める気ないんですか? 守りだけでは勝てないですよ」
 ………
 …鋭いな、おい。
「いやー、とりあえずは防御の手並みを見せとこうかと思ってな」
「そうですか。では、見せてください。もう少し速くします」
 言うなり、来た。
「おおっと!」
 ――ガガガッ!
 上段、小手、ツバメ返しての袈裟切り!
 全部防御した。俺って凄ぇ。
 間合いを取った鈴音の顔が少し引き締められた。
「…次、いきますよ」
 速攻。
 ――ガガッガガガガッ!
 袈裟、上段、フェイント入れて胴、小手――これ以上は無理だ! なら!
「ててっ!」
 喰らいつつ前に出る。肩口と脇腹に痛みが走るが、耐えられないほどじゃない。
 オーラフォトンの防御がなければ、骨にひびくらい入ったかもしれないが。
「えっ!?」
 鈴音が困惑の表情を浮かべる。
 カウンターで突貫した俺は、鈴音の襟首を掴んで密着することに成功する。
「組み打ちか!」
 歳江の声が聞こえる。
 鈴音が身を固くする。
 俺はフッと勝利の笑みを浮かべると、『因果』を離した手を鈴音の背後に回し――
「あ〜、やっぱちっこくて可愛ええ〜」
 かいぐりかいぐり。
 ぎゅっと抱きしめて頭なでなで攻撃に入った。
「なっ!?」
「わお」
 歳江と勇子がそれぞれ驚愕の声を上げる。
 鈴音は一瞬固まってされるがままだ。…ったが、
「…ひ、いやあぁーーーーー!」
 悲鳴と共に、肘で顎を打ってきた。
「ご!」
「やめてくださいーーーー!!」
 両手でどーんと突き飛ばされる。
「のおっ!?」
 意外と強い力で吹っ飛ばされた。
 起き上がった俺の目に、歳江の後ろに隠れてガクガク震えている鈴音の姿が見えた。
 …やりすぎたか?
 歳江は歳江で烈火の表情で刀構えてるし。
 勇子はなんだかなぁという表情で苦笑してるだけだが。
「き、貴様ぁ! 大事な女を探しているというのは狂言だったか! この女子の敵が!!」
 今にも斬りかかってきそうな雰囲気でのたまう。
「いや、嘘ついたわけじゃないぜ。まーなんというか条件反射みたいなもんでな。
可愛い女の子には目がないんだ、俺」
 それに、あの状態から当てようと思ってマジ反撃なんぞしたら…こっちの加減がきかねぇからな。
 当たるかどうかはともかくとして。
「では貴様は、心に決めた女子がいながら…!」
「ちなみに、こういうことは今日子の目の前でもやってるぜ? だからこれは俺と今日子との問題だ。
最近の武士は他人の男女間問題にまで口を出すのか?」 
 半分は嘘だ。直接的な行動には、まず出ない。
 今回は例外だな。
 ともあれ、歳江はぐっと言葉に詰まった。
 構えた刀は小刻みに震えたままだったが。

「で、試験的には俺の評価はどうだい?」
 まだ冷静に見てそうな勇子に向かって尋ねる。
「え? そうだね、鈴音ちゃんの剣をあれだけ止められるのは凄いと思ったよ。
でも守ってばっかりだったよね? 剣技の方も見せてもらわないと…」
 だろうな。
「OKだ。そいつは今から見せよう」
 言って、鈴音を見る。
 ぶるぶると首を振って拒否された。
「じゃあ、勇子ちゃん頼むわ。俺から行くぜ」
「え? 私?」
 問いかけた時には、俺は地を蹴っていた。
 数メートルの距離を一気に跳躍。
「うわ!?」
 勇子が叫んで銃剣を構える。だが、
「上段横一文字で行く! かわしてくれよ、止めようなんてすんな!」
 俺は叫ぶ。
 正直言って、剣技で認めさせるのは難しいだろう。
 攻撃能力で俺が見せるものは、一つだ。
 勇子を指名したのも、動かれる前に即座に攻撃に移ったのも、立ち位置がいいからだ。
 木を背にしたその位置が。
 勇子の目の前に着地、同時に『因果』にオーラフォトンの輝きが宿る。
 勇子が身を低くした。
 よし!
「おおおお!」
 叫びと共に、俺は『因果』を振るった。
 直後、破壊音が轟く。
 勇子の背後にあったニ抱え近くはありそうなその木は、俺の一撃で真っ二つに叩き折られていた。
「うわわわ!」
 砕け散った破片が勇子に降りそそぐ。
 次いで、叩き折られた木が盛大な音と土煙を上げて後方に倒れた。
 振りぬいた姿勢を保ったまま、俺は尋ねる。
「とまあ、破壊力が俺のウリなわけだが、試験結果はどうなった?」
「……合格だ」
 苦虫を噛み潰したような歳江の声が聞こえた。


「…じゃあ、本拠地に一旦戻らないといけないのかよ」
「そうなる。今言った通り、こちらからでは連絡が取れん」
 不便な。何で双方向の連絡手段を持たせないんだよ。
 味方として認めてもらって、いざ行動に入ろうって時にこの体たらくだ。
 すぐにでも捜索に出たかったが、仕方ねえか。
 上の連中に今日子の説明をしないことには、こっちについた意味がないからな。
「ま、いいさ。ならとっとと中央に行くとしようぜ」
「うむ、それなのだが…」
「二手に分かれた方がいいと思うんだよ」
 いきなり戦力分散かよ。
「なんでだ。全員で行動した方がいいんじゃないか?」
「うん、そうなんだけど…、中央から光陰君の情報をもらった時に聞いたんだけどね」
 俺の質問に、勇子が苦笑しつつ答えてくれた。
「私達の他にも同じ任務で行動してる人達がいるんだけど、結構な人数が中央に戻ってるみたいなの。
だから、外の警戒が手薄にならないように、できるだけ外で行動して欲しいって言われてるんだよ」
 …なるほどな。それで、妥協案で分散行動か。
 組織っていうと、やっぱ色々あらぁな。
「それでね、私と光陰君が中央行き。歳江ちゃんと鈴音ちゃんが外の哨戒がいいと思うんだけど」
 む、鈴音ちゃんと一緒じゃないのか。
 まあ、歳江には嫌われちまったようだしな。歳江と一緒よりはいいか。
 と、勇子の提案に歳江が不満の声を上げる。
「待て、勇子。まだこやつが完全に信用できるかは疑問だ。局長たるお前が行くことはあるまい。私が行こう」
 いやそいつは勘弁してくれ。
 つーか裏切る気もさらさら無いんだけどよ。
「ん〜、でも歳江ちゃんと光陰君相性悪そうだし、鈴音ちゃんに行かせるのは可哀相でしょ?
私が一番適当な人選だよ」
 切ないことに、まだ歳江の後ろに隠れたままの鈴音ちゃんがコクコク頷いて同意してくれた。


 結局。
 なんだかんだで勇子に説得された歳江は、鈴音ちゃんと一緒に行っちまった。
 戻ったら芹沢と鉢合わせることになるとかなんとか言って説得してたから、たぶん中央にはカモミール芹沢がいるんだろう。
 史実でも仲悪かったようだからな。
 で、俺は今、勇子に連れられて中央を目指している。
「きっと要望は通ると思うよ。今日子さん、早く見つかるといいね」
「…ああ、そうだな。サンキュ」
 その為に、最善の方法と思える行動を取った。
 正義だモラルだは二の次でいい。
 中央に行ったら、それからは透達召還された者を狩ることになる。
(ま、組んだのが殺伐が似合わねぇ勇子だってのは、ある意味救いかもな)
 そう思いながら、俺は勇子と共に中央への道を歩いていった。



【碧光陰@永遠のアセリア(ザウス) 招 状態○ 所持品:永遠神剣第六位『因果』 スタンス:『空虚』を砕いて今日子を助ける】
【近藤勇子@行殺!新撰組(ライアーソフト) 鬼 状態○ 所持品:銃剣付きライフル】
【土方歳江@行殺!新撰組(ライアーソフト) 鬼 状態○ 所持品:日本刀】
【沖田鈴音@行殺!新撰組(ライアーソフト) 鬼 状態○ 所持品:日本刀】

【『ただ一人の女のために』後】



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