餓狼伝説
一面に広がる暗闇。その光景に対する既視感。
鳴り響く轟音。機械を通した人の声。
──なんだ? この感覚は? 一体俺はどうしちまったんだ?
耳元で銃声が響いた。
ああ、そうだった。直人と馬鹿騒ぎしてたからこの感覚をすっかり忘れていたぜ。
思い出した、この暗闇は……
没入だ。
ネットにダイブするあの瞬間。
全ての行為が容認されるあの世界へ入る為の儀式。
──だが、いつまで経っても何も見えない。いつものあの感覚が甦らない。
それでようやく彼は理解した。
(そうか……目がいかれちまったんだな)
彼はこの時何より重要視したのは目が見えなくなった事実ではない。
彼にとってのもっとも重要な事はここが現実であり、己の生を確認した事であった。
(生きてさえいればどうにかなるぜ……なにも勃たなくなった訳じゃねえんだ。相手の面拝めないのは残念だけどなぁ!)
傍に感じるこの気配。
さっき殺した──あの軍人と同じ臭いだ。
少し距離があるが女の臭いもする。これは直人が狙っていた女の匂いだ。
ゲンハは歓喜に震えた。
「殺りがいのある敵と犯りがいのある女……戦いはやっぱりこうじゃねえとな!」
何も見えない暗闇の世界に向かい、復活の咆哮を上げた。
ゲンハが咆哮と共に放った奇襲の蹴りは見事に玲二のS&Wを遙か彼方にまで吹き飛ばした。
見えないのに相手の男の狼狽した顔が手にとるように分かる。
「今のはここまでのタクシー代だ。釣りはいらねえぜ」
だから相手の戦意がなくならない内に挑発する。
歯向かってこない奴は敵じゃない。そんなものはただの的だ。
(さあ来い。女の方はお前をぶっ殺した後にゆっくりいただく)
相手が息を飲む気配。
息づかい、足が大地を蹴る音、拳を空気を切り裂く音。
──そうだ、目なんて感覚器の一つでかない。
愛する者同士は見えなくたってなんでも分かり合えるっていうじゃねえか。
俺は人間全てを愛してる。
だから見えなくたって相手のやろうとする事がわかるのは当然だ。
ただ殺る事か犯る事でしかそれを表現出来ねえけどな!
(こいつ……目が見えないんじゃなかったのか!?)
それは間違なく事実だ。
確認してみても間違いなくアフロの男の目は光をとらえてはいない。
ではどうしてこの男は自分の位置が正確に分かり、玲二の攻撃を受け止め、避ける事が出来るのか……
──いや、それ以前の問題にどうしてこの男は自分と戦っているのだ?
中央の人間であるなら、あのロボットに助けを求めればいい。
もし目論み通り、視界を奪えていたのだとしても手に持った剣を一薙ぎすれば視界の有無は殆ど関係ない。
しかしそれすらしないのは自分達を同じく中央に逆らう側の人間なのか、それとも……暴れたいだけの人間か。
「お前は……なんで俺と戦うんだ?」
問いかけは自然に口をついて出た。
「簡単なことだろうが! 男は殺す! 女は犯す! てめえが男だからぶっ殺す。他に理由が必要か?」
気味の悪い笑い顔だった。
あの男──マスターサイスを思い出すような……そんな全てを嘲笑うかのような笑い。
だが皮肉にもそれを思い出す事が出来たおかげで玲二の覚悟が決まった。
「お前は……お前のような奴はこの場で息の根を止めてやる」
「そうだ! その意気だ! そうじゃなきゃおもしろくねえ!」
その決意すらも嘲笑うと、ゲンハの攻撃はさらに激しさを増した。
「あれは純夏じゃなかった。でももしかしたら純夏を見てるかもしれない」
コックピットの外から微かに怒号や叫び声が聞こえる。
事情はわからないがどうやら戦闘の真っ最中のようだ。
「しかし聞ける雰囲気ではなさそうだしな……。
そもそもいきなり攻撃してきたり、逃げ出したり……あの者達にもやましい事があるのではないか?」
幸か不幸か武はアイとの戦闘で銃声は嫌と言うほど聞いたので、モニターの故障の原因は直前の銃声にあると考えていた。
もし銃声を知らなければモニターの故障が攻撃によるものだとは気付けなかったかもしれない。
「そうだな……もしそうなら簡単には話してくれないか」
相手を尋問にかければ純夏の手掛かりが見つかるかもしれない。
しかし尋問に手こずっている間に純夏に何かあったら?
こんな所でぼやぼやしてる場合ではなかった。
冥夜は武の言葉を待っている。
「まず、外にいる奴らを倒す。その後コックピットを開いて外の様子を確認しながら純夏を探す」
そうだ…こんな所で立ち止まる訳にはいかない。
この場所でやるべき事はないから。助けるべき人はいないから。
「こいつなら適当に腕を振り回すだけでも十分凶器になる」
「タケル…いいのだな? 外に居る者達は友の仇という訳でもない。そういう者達を殺す覚悟があるのだな?」
「ああ……」
冥夜には今の自分はどう映っているのだろう。
簡単に自分の今の表情が思い浮かび、何も映さなくなったモニターで確認すると想像通りの顔をしていた。
滑稽だった。
(情けない顔してるな……本当)
だけど今しばらくは見逃して貰おう。
まだやる事が残っているうちは。
戦いはいつ決着がついてもおかしくない状態でありながら、いつ終わるかわからない膠着状態に陥っていた。
コルトさえ抜く事が出来れば勝算はあるのだが、相手も薄々それを察しているのか攻撃を絶え間なく繰り出し常に間合いを詰めている。
そんな状態の中、巨大ロボットの動きに気付いたのは玲二だけだった。
駄々をこねる子供のように腕を振り回して近づくロボットを見るや、玲二の頭にある考えが浮かぶ。
(先程に続いて賭けになるがしょうがないか…)
ゲンハの負っている傷で勝手に倒れてくれるのを狙うのが一番現実的であるのだが、ゲンハはそんな素振は一切見せない。
「こうしながらどうやって目の前の相手をぶち殺すのか考えるだけでもゾクゾクするだろ? 互いにそう思いあってりゃ楽しいぜぇ……」
「お前は……狂ってる」
その言葉を聞いてゲンハの攻撃が激しさを増した。
「ヒャーハハハ! そうさ、人間狂ってるくらいがちょうどいいんだよ!」
玲二はゲンハの攻撃をやりすごしながらも機を伺う。
(今だ!)
ゲンハの拳が顔面にまともに入るがそれでも止まらず体ごと突っ込む。
「がっ…!」
そしてゲンハはそのまま後方……カイゼルの方に突き飛ばされた。
同時に玲二も体勢を崩し、前のめりに倒れこんだ。
突如カイゼルが揺らぐ。
その巨体が横薙ぎに倒れる。
その倒れた脚部につまづいて転び、ゲンハは空を見上げる格好になる。
本来ならば上半身と下半身が泣き別れしていても不思議ではない状況であったからこれは幸運──
「ったく、お前は無茶しすぎなんだよ」──いや、当然の結果だった。
鉄パイプを構えた直人がゲンハを見下ろしていた。
「その声……直人か」
直人はゲンハの言葉を聞いて舌打ちする。
やはり直人の姿は見えていないのだ。
玲二との殴り合いはその事実を忘れさせる程の戦いぶりであったが、それでも改めてその事実を目の当たりすると衝撃だった。
「遅えじゃねえか。何してやがった?」
「一番格好よく登場できるタイミングを見計らってたんだよ」
「そうだな! 俺達は主役だからなぁ! そういう事には気を配らねえといけねえ」
ゲンハは大笑いしながら言った。
本当は直人はリックが引き返してきた場合に備えて息を潜めて機を伺っていただけなのだが、物は言い様である。
ゲンハと共に笑う直人に立ち上がり、銃を構える玲二の姿が見えた。
「そういや直人。さっき取り逃がした女が近くにいやがる、お前見えねえか?」
直人の心配もよそに全く変わらない調子でゲンハが問う。
「それは後だ! さっさと立て! 今はそれ所じゃねえ!」
無理矢理ゲンハの手を引っ張り起き上がらせる。
「出来の悪い恋愛映画みたいなワンシーンだな」
「だからそれ所じゃねえって言ってるだろ!」
そう言う間にも玲二が撃った銃弾が顔を掠める。
慌てて二人はカイゼルを盾にして隠れる。
ゲンハが直人の手をとって立ち上がる。
「おい! 気でも触れたか!? 今立ったら…」
「狂ってるのは前々からだぜぇ!」
銃弾の中を走り抜ける。
ゲンハは半死人の物とはとても思えない程の力で、直人を引っ張り木陰に飛び込む。
その瞬間先程までいた場所で炸裂音が鳴り響いた。
(あいつら予知能力でもあるのかよ)
玲二は困惑していた。
投擲した手榴弾を避けられた上に、狙い撃ちしたはずの銃弾をも全て避けられた。
再び巨大ロボットが立ち上がるのが見える。
(あんな奴を見逃したらろくな事にならないのは分かりきってるんだけどな)
それでもこの場は退いた方が賢明だ。
落としたS&Wを拾うとゲンハ達と反対方向に駆け出した。
だが、3歩も走らないうちに玲二の目に飛来する物が映る。
「ちっ…!」
辛うじて身を反らして回避する。
それの飛んできた方向には
「吾妻玲二…人の皮を被った悪魔……私が殺す」
ボウガンを構える少女とその影に隠れるようにする双子の姿があった。
【白銀 武@マブラヴ age 状態○ 所持品 サブマシンガン(残弾0) 、ハンドガン(装填数 20発) 招 】
【御剣 冥夜@マブラヴ age 状態○ 所持品 刀 狩】
(『カイゼル』のコックピット内)
【銀色のバルジャーノン『カイゼル』 状態 アイカメラ破壊、外部の状況確認できず】
【吾妻玲二@ファントム・オブ・インフェルノ(ニトロプラス) 狩 状態○ 所持品:S&W(残弾数不明)
コルトガバメント(残弾数不明)手榴弾 暗視ゴーグル×2 食料・医薬品等】
【ゲンハ@BALDR FORCE(戯画) 招 状態×(裂傷多数、背中に深い刺し傷、かなり危険な状態、失明) 所持品:鉄パイプ 包丁】
【直人@悪夢(スタジオメビウス) 招 状態△(傷は多いが命に別状なし) 所持品:シグ・ザウエル】
【佐倉霧@CROSS†CHANNEL 狩 状態○ 装備品 ボウガン(現在矢は装填されていません) 矢の数は一本(撃ったら拾うので矢自体は
なくならない、二発目を撃つ時には装填準備が必要)回転式拳銃(リボルバー)『イタクァ』残り弾数不明(13発以下)】
【鳳あかね@零式 状態○ 装備品 AK47(使いやすい火器だが、子供につき命中率低め)クレイモア地雷x2 (狩?招?)】
【鳳なおみ@零式 状態○ 装備品 AK47(使いやすい火器だが、子供につき命中率低め)プラスチック爆弾 (狩?招?)】
(亡霊が機神に送る歌直後)
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