亡霊が機神に送る歌






「たける、気をつけてね」
「心配するな尊人、こいつに乗ってる限り負けやしないさ。……必ず純夏を連れて帰ってくるからな」 
 自身の決意を確認するかのように声に出して、銀色のバルジャーノンのコックピットに乗り込む。
「綾峰さんと御剣さんには……」
 尊人はこの場にいない二人の名を口にする。
 ケルヴァンとの会談の後、綾峰は冥夜の付き添いで部屋に連れていかれた。
 表面上こそ普段通りであったが、やはりタマと千鶴の死による心労は計り知れないものがある。
「多分綾峰は無理してると思うからさ。これ以上不安の種を増やす事もないだろう? 尊人もあいつを支えてやってくれ」
「……ボクにはたけるの方が無理してるように見える」
「そうかもしれないけどな」
 おそらく尊人の言う通りなのだろう。
 今の武は純夏を助ける使命感だけで自分を奮い立たせているに過ぎない。
「でも俺は……」
 しかし今はそんな偽者の気力でも必要だった。
 助けを待ってる仲間がいるから、それに応えるまで止まるわけにはいかないのだ。
「俺は純夏を助けに行かないといけないからな。休んでる場合じゃない。
 二人に言っておいてくれ、嫌味は帰って来てからちゃんと聞くってな」
「わかったよ。でも後で散々言われると思うから覚悟を決めといた方がいいよ」
 武は尊人の言葉に苦笑した。
「覚悟しとくさ──じゃあ行ってくる」
 そう言ってコックピットを閉めようとした時
「帰って来るまで私は待てんぞ。道中ずっと言い続けてやる」
「冥夜!? なんでここに……」
 綾峰を部屋まで送っていった冥夜が戻ってきていた。
「タケルの考えが私にわからないと思っていたか。それに……ここでもたもたするような男ならとっくに見限っている」
 そう言いながらコックピットに乗り込んだ。
「私も一緒に行こう。純夏をさらった者達はかなりの使い手だった。タケル一人ではきついだろう」
「そうだな……こいつのサーベルじゃ純夏ごと傷つけちまう。
 さらった連中とやりあうなら外に出る事になるかもしれない。
 その時はさすがに一人って訳にもいかないしな。悪いが尊人、綾峰の事頼んでいいか」
 武の頼みを尊人に断れるはずもなく。
「わかったよ。……でも二人とも本当に無理はしないでね」
 尊人の言葉に武は親指を立てて答えた。
「よし、カイゼル発進!!」


「……そうだ。ハタヤマをいつでも出撃できるように準備させておけ。
 決して私が戻るまでの間、くれぐれも山本悪司達の監視を怠るな。万が一の事があればハタヤマと神風で対処しろ」
 ケルヴァンが中央にいない間にも状況は刻一刻と変化する。
 今まで武達にかまけていた為に部下への指示が遅れ気味になっていた。
『分かりました。それと、新撰組のカモミール芹沢が大砲の使用許可を求めて来ていますがいかがしましょうか?』
(大砲……例の88mm砲とやらか。先程の襲撃者の存在もある事だ、戦力はあるに越した事はあるまい)
「いいだろう、大砲の格納庫の鍵を渡しておいてやれ。……待て、今新撰組はそっちにいるのか?」
『いえ、カモミール芹沢と加賀野アイの2名だけです』
 一瞬、その取り合わせに疑問を持ったが、おそらく芹沢にアイが引っ張られてきたのだろうと結論づけた。
 それと同時にケルヴァンの頭の中で計算が行われる。
 万が一山本悪司達が造反した時、それに対抗できるだけの戦力が今中央にあるのかどうか。
 考えるまでもなかった。
「念の為カモミール芹沢と加賀野アイの両名は中央で待機させておけ。……そうだ、私が戻るまでの間だ」
 指示を出し終え通信機を切った。
 ケルヴァンは急いで中央に戻る支度を始める。
 悪司達以外にも不安材料は山ほどある。
 それも部下に任せる訳にもいかないような危険な要素が。
(ヴィルヘルムが和樹を破壊するような事がなければいいが……。
 それと無影が連れてきた者達。直に様子を探ってみるか……)
 だがそれらすら些細なものだ。
 現在一番の不安材料は……
(リャノーン……カトラとスタリオンにすら感づかれていた事を考えるとこのまま中央に、というのは考えものかもしれんな)


「……で、見事に人違いだった訳だな」
 リックの背中の人物を見て落胆の色を隠せない玲二。
「あの霧の中だったからな、しょうがないさ。しかしこんな奴いなかった気がするんだけどな……」
 リックの記憶が確かならば襲撃の時、あの場いたのはケルヴァンと少女二人だけだったはずだ。
 服装から明らかにあの施設の警備兵でない事が伺い知れる。
 と、すれば自分達と同じくケルヴァンに対する襲撃者だろうか?
(もしそうだったとしても……仲良く手を取り合って、という訳にはいかないだろうな)
 目の前の男──ゲンハからする血の臭いは今までのゲンハの所業を何よりも雄弁に物語っていた。
 ゲンハからする血の臭いからリックはなぜか先程武器庫で見た兵士の死体を思い出す。
 そして恐らく自分の勘は間違っていないだろう事も確信していた。
「暗視ゴーグルを着けてたのか。気の毒だがこいつは失明してるだろうな…」
 玲二は腫れ物を触るように慎重にゲンハの暗視ゴーグルを外す。
「リック、取りあえず追手が来ないうちに出来るだけ離れよう」
「そうだな。ぼやぼやしてる訳にもいかない」

(くそっ! 分が悪すぎるぜ)
 直人はなんとか玲二達を見失わずに追跡する事ができ、二人が休憩している隙に追いついたもののさすがに隙がない。
 この不利な状況の中どうやってゲンハを救出するか……微妙に酔いが残っている頭で必死に思考する。
(ちっ…やっぱり飲むんじゃなかったか……頭がまわりゃしねえ。せめて何かきっかけでもあれば……)
 玲二達に再び目をやるとそれぞれ持っていたゲンハと戦斧を交換していた。
(賭けだがやるなら今しかねえな……なんだ? この音は──)
 直人が今飛び出さんとした時、施設の方角から空気を裂く音と共に地面が振動した。
「ったく! 一体なんだってんだ!」

「巨大ロボット!? こっちに来る……まさかあれが追手か!?」
「ママトトみたいに直接要塞が動かないだけましと言えばましだが……」
 玲二達の目に飛び込んで来たのは明らかに自分達に向かってくる巨大な人型ロボット。
「……リック、先に行け」
「玲二!?」
「いくらお前でも相手があれじゃ無理があるだろ? 心配するな……後で追いつく」
 リックは玲二の目から決意が堅い事を知る。
「勝算はあるんだろうな?」
「ああ、成功率は限りなく低いけど……な。お前がいると邪魔なんだ。さっさと行ってくれ」
 玲二はゲンハをその場に下ろして敵を迎え撃つ体勢を整える。
「わかった。……また後でな」
「ああ、また後で」
 リックが走り去る音が耳から遠ざかっていく。
 完全に聞こえなくなってから一瞬のチャンスを逃さないように全神経を集中させる。
(先制攻撃で目を潰す……もしカメラの位置が違ったら一貫の終り……本当に博打だな)
 玲二は愛銃──S&Wを握り締めた。

「あいつらか!?」
 銀色のバルジャーノン──カイゼルは木々の間を飛び跳ねて移動しているため、
視界がぶれてこの距離では相手をはっきり確認する事ができない。
「私も相手の姿は見ていないのではっきりそうとは言えないが……人を背負っているな。可能性は十分にある」
 近づいて行く間に相手のうち一人が走り去って行く。
「逃がすか!」
「タケル、落ち着け。まずは純夏が先だ。……どうやらもう一人は覚悟を決めているようだな」
(俺が食い止めるからお前は先に、ってやつか? 悪役がやっても様にならないぜ)
 あと少しで相手の輪郭がはっきりと見える距離にまで近づける。
 同時にスピーカーを通じて玲二に向けて言い放った。
『お前! 純夏をよくも……あれ? 純夏じゃない!?』
 ようやく確認できた人質は純夏ではなく全く見知らぬアフロの男であった。
 武と冥夜が人違いを悟った瞬間、銃声と共にモニターが闇に包まれる。
 最後にモニターに映し出された光景はアフロの男が立ち上がる所であった。
【ケルヴァン:所持品:ロングソード 地図 状態△(魔力消耗気味) 鬼 行動目的 中央へ帰還】
【鎧衣 尊人@マブラヴ age 状態○ 所持品 ハンドガン(残弾なし) 狩 行動目的 武の帰りを待つ】
【綾峰 慧@マブラヴ age 状態○ 所持品 弓(矢残り7本) 狩 行動目的 武の帰りを待つ 】
(施設内部)

【アイ@魔法少女アイ(color) 鬼 状態○ 装備:ロッド】
【カモミール芹沢 @行殺!新撰組 (ライアーソフト)鬼 状態○ 装備:鉄扇、88mmキャノン『カモちゃん砲』】
(中央結界内部、行動目的:有事に備えて中央で待機)

【白銀 武@マブラヴ age 状態○ 所持品 サブマシンガン(残弾0) 、ハンドガン(装填数 20発) 招 】
【御剣 冥夜@マブラヴ age 状態○ 所持品 刀 狩】
(『カイゼル』のコックピット内)
【銀色のバルジャーノン『カイゼル』 状態 アイカメラ破壊、外部の状況確認できず】

【吾妻玲二@ファントム・オブ・インフェルノ(ニトロプラス) 狩 状態○ 所持品:S&W(残弾数不明) 
 コルトガバメント(残弾数不明)手榴弾x2  暗視ゴーグル×2 食料・医薬品等】
【ゲンハ@BALDR FORCE(戯画) 招 状態×(裂傷多数、背中に深い刺し傷、かなり危険な状態、失明)  所持品:なし】
【直人@悪夢(スタジオメビウス) 招 状態△(傷は多いが命に別状なし) 所持品:鉄パイプ 包丁 シグ・ザウエル】

【リック@ママトト(アリスソフト) 狩 状態○ 所持品:戦斧 火炎瓶×3 食料・医薬品等】

(仲間という名の利害関係後)



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