潜ミ休ム






 「どうしろって言うんだ、これで……」
 場所は、中央要塞の隅に位置する独房室。
 中で双厳が喚く。
 「まぁ、何かあるとは思ってはいたがな……」
 多少、生気が戻ったのか気が楽になった十兵衛。
 あの後、彼らは、無影の呼んだ専用の兵に連れられ中央に案内された。
 ケルヴァン直属の兵の方も、無影に頼まれたとはいえ、害意の方が明らかである彼らをどうするべきか悩んだ。
 だが、敵意があっても協力をしているものは既に何人かいる。
 結果、敵意ははっきりと感じ取れたが、ケルヴァンとの無影の間の約束という事で中央へ入れる事は決めた。
 他の者だったら、思慮深いケルヴァンの命令だ。
 確実に殺されていただろう。
 中央に入れるに当たって、彼らは幾つか条件をつけられた。
 一つ目は、無影は名前通り影として動いてる為、彼の仲間であるのは他の者へは秘密である事。
 この事を知るのは、ケルヴァンの部下でも和樹やギーラッハ、この兵を含めても数人もいない。
 二つ目は、元々の約束が双厳は確保するとの事だったので、周囲の目のためにも他の者のような部屋は与えれない。
 三つ目は、ケルヴァンから何かしらの指令が届くまでは部屋で待機。
 もしもの場合は、護衛を伴う事。
 以上、三つを約束付けられていた。
 その結果が、牢屋よりはマシなこの独房である。
 「入り口は頑丈な鉄壁。 いちかばちかで斬鉄でもやってみるか?」
 十兵衛が冗談交じりに言う。
 「馬鹿言うな、さっき薬を貰ったとはいえ、まだ動くには早い」
 一杯の水。
 怪我を負った三人の中でたった一杯だけの治癒の水が与えられた。
 この対応には、不服であったが、貰えるだけましである。
 重傷度の高い十兵衛が半分を、残りを命と蓉子が分け合って飲んだ。
 おかげで、十兵衛の出血は止まり、青ざめていた顔の血行は大分良くなった。
 命の方も出血や傷口の化膿は回避されたようだ。
 蓉子の方も一応骨がついて動くようにはなったらしい。
 双厳は、「生かさず殺さずかよ」と皮肉を垂れていたが……。

 その後、彼ら四人は、男と女で別けられて二部屋の独房に入れられた。
 「そういえば、さっきあの兵が言っていたが俺達以外にも中央に来たのがいるらしいな」
 話題を変える為に十兵衛が切り出した。
 だからこそ、彼ら四人は、無影の守秘の為、そして万が一の為に今の待遇を受けている。
 「完全に従う意思だったやつらに何の期待ができるんだ?」
 悪司達は、マークされてるとはいえ、検問を正式に突破したのだ。
 「……そうなると後は無影がどう動くかだが」
 「あいつが仕事を早く終わらせれば、俺達も帰してもらえるか……」
 「そうだ。 その場合、俺達も協力した方が彼等の目的が早く終わるのは間違いないな」
 「癪だな……。 それに可能性があるだけだろ?」
 「一番上は、そのケルヴァンではないらしいしな。
  やはり、ここは頂点に立つのに交渉するか、無理なら実力行使がいいんだが……」
 「お前が赤子のように扱われたあの剣士より遥かに強いらしいが?」
 「それが問題だな……」
 少なくとも今の戦力で、手持ちの装備で勝てそうな相手ではないらしい。
 これはあの無影のお墨付きだ。
 どうにでもなる相手なら、あいつなら「殺しに行こう」と言う筈である。
 更に敵の本拠地真っ只中である。
 逃走経路、1:複数を作り出す作戦、他の兵への対処。
 問題は山積みである。
 「寝るか」
 十兵衛が言った。
 「そうだな……。 まずは寝て体力を整えて、それからだな」
 「俺達にはあまり時間はない。
  かといって、焦って事を仕損じる何てのも持っての他だ」
 そう言うと十兵衛は、カンカンと壁を叩き始める。
 「何してるんだ?」
 十兵衛の不可解な行動に双厳が疑問を抱く。
 「隠密に使う暗号会話だ。
  今さっきの会話を伝えようと思ってな」
 十兵衛達は知らないが、モールス信号みたいなものである。
 「外の兵にばれないか?」
 「貧乏ゆすりくらいにしか思われないだろ」
 「で、届くか?」
 「駄目元だ」

 カンカンカン……。
 知ったものからすれば、規則性のある音が響く。
 「これは、暗号……?」
 「どう言うことだ?」
 蓉子が命へと尋ねる。
 「柳生が使う隠密の暗号会話の一つです。
  待っててください、今聞いてる所ですから……」
 やがて、壁から響いていた小さな音が絶える。
 「で、どんな内容なのだ?」
 言われるまま、黙っていた蓉子が口開く。
 「『寝て、体力を回復させろ。
   その後で考えて動こう』
  だそうです」
 「そうだな……。
  確かに安易に行動を起したのでは、事を仕損じる。
  ならば、万全の状態にしてから機会を伺うというわけか……」
 「ええ、今、合図を返しますから……」
 (うう、双厳と離れ離れかぁ……)

 「お、返ってきたな」
 十兵衛と双厳の部屋にカンカンと小さい音が響く。
 「『了解』だそうだ。
  また短い返答だな」
 「じゃぁ、寝るか?」
 「そうするか。 が、お前と寄り添うのは勘弁だ」
 「そりゃ、俺もだ」
 それだけ皮肉が言えれば十分と双厳は苦笑いしながら言った。

【双厳@二重影(ケロQ)状態○ 装備品 日本刀(九字兼定) 狩】
【命@二重影(ケロQ)状態△) 装備品 大筒 煙弾(2発) 通常弾(9発) 炸裂弾(3発) 狩】
【柳生十兵衛@二重影(ケロQ)状態△(左腕欠損、貧血気味) 装備品 日本刀(三池典太光世) 狩】
【皇蓉子@ヤミと帽子と本の旅人(オービット)状態△(接合したが左腕の骨は不安定) 
装備品 コルトガバメント(残弾16発)マガジン×2本 クナイ(本数不明) 招】
【行動方針:体力回復後、行動開始】
時間、ウェイトレスは振り向かない~



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