進むべき道
「やべぇな……」
ランスが五十六に向かって呟く。
「ランス王、あの者、信長と同じような禍々しい雰囲気を感じます……」
かつて従っていた魔人信長と同じ魔性のモノの気を、五十六は感じ取っていた。
「確か、ケルヴァンの配下であってたわよね。
なら、私の目的と行動、そして権限は知っているでしょ?」
初音からの警告である。
従わなければ実力行使に移る。
ランスでもそれは解る。
(せっかく見つけた極上の獲物だってのに……。
だが、こいつはまずい。
他の奴ならともかく、こいつはあらゆる意味でやばさの桁が違う。
レイか? それよりもノス? いや明らかにカミーラ何かとは桁が違う強さだ。
下手したら、ジルの野郎並かもしれねぇ……。
カオスがあってもいけるかどうかの奴相手に、俺と五十六で挑めってか?
……絶対に無理だ。
それにこいつは、ケルヴァンとヴィルヘルムを入れたトップの一人だ。
今、こいつと事を起こすと言う事は、俺様は嫌でも今から反逆しなけりゃいけなくなる。
まだ今の時点で謀反を起こすわけにはいかねぇ。
謀反だって、どっちに転んでもいいようにするためのもんだ。
それに俺様の女を危険にあわすわけにはいかねぇ)
「しかし、私の要蜘蛛を始末するなんて……。
意図的だったのかしら?」
初音の最終宣告だ。
ここで彼女の意に従わなければ、間違いなく襲い掛かってくるだろう。
「……返す」
ランスがひかりを初音に受け渡す。
「ふふ、賢い男は好きよ」
ひかりを受けとると初音。
「偶然だったのは蜘蛛からの情報で解ったわ。
今回は、その潔さに免じて、そこの娘と共に見逃してあげるわ……。
では、ご機嫌よろしくてよ」
そのまま初音は、言葉を残して消えてしまった。
「申し訳ありません、ランス王……」
五十六はランスに向かって頭を下げた。
今のランスの決断は、配下である自分の身を案じてくれたからだと思ったからだ。
それと共に、無闇に突っ込まなかったランスの判断と案じてくれた事を心嬉しく思った。
「気にするな……。 五十六のせいじゃねぇ。
俺様の力が足りなかっただけだ……」
それ程までにカオスのポテンシャルが高いのだ。
リーザス聖剣など足元にも及ばないほどに。
王になってからのランスは、戦闘の繰り返しだった。
元より人より遥かに少ない経験値でLvUPでき、更には才能限界値無限。
何をやっても経験値(主にSEX)にできるという特性。
そこでレイ、ジークというとんでもない経験値を持った魔人を二匹も撃破したのだ。
その成果は、対リックの時に現れた。
本来ならば、模擬なら五回やって一回一本取れればいいくらい。
実戦ならば五分といった感じであった。
だが、あの戦闘の時、ランスは気づく事はなかったが、
戦闘の繰り返し、魔人から得た莫大な経験値、そして彼の特異性により、
彼の実力ははっきりとリックを上回っていた。
でなければ、幾らランスとて、剣筋を読んだくらいでは2:1で勝てるはずがない。
ましてや、超音速のバイ・ラ・ウェイを防ぐ事など……。
そのランスですら、まだ及ばぬ初音。
彼は、自分の実力に怒りを感じた。
「五十六」
「はい」
「俺様は、これからもっと強くなる為に敵をいっぱい倒す」
「それは……?」
「幸いこの島には、モンスターもいる。
そいつらを倒してレベルをもっと上げる。
それに専念したとしても、保護をしやすくするためだといっとけばいい。
それと中央にも召還した者にも害を成すのもいるらしい。
そいつらも危険そうなら倒す、うん。
勿論、対抗する奴らは、俺様の眼鏡に叶えば泳がす。
外道なら殺す、後々邪魔になるかもしれないしな」
「ランス王……」
「なんだ?」
五十六は、嬉しく思った。
今のランスの判断は、彼女の望む王としてあるべき姿だった。
「この山本五十六、何があってもランス王についていきます」
「……行くぞ」
照れを隠すように、ランスはマントを翻して歩き始めたのだった。
ひかりを抱え、一旦別の巣に移動した初音は、アルがいないのを機に考えに耽っていた。
彼女の言葉の数々である。
一度は、覚悟した事、捨てた事。
人の身を捨て、蜘蛛となった時に、人の考えを止めた。
アルの言う事は、正しい。
だが、万人にとって正しいかと言えばまた別だ。
世の中には、完全なる悪であるゲンハ等もいる。
また価値観の違う種族もいる。
人間の間でもしばしばそれで戦さが起きるくらいだ。
(人……、懐かしい。
とうの昔に私はそれを捨て去った。
その私が情を持っている……)
「お笑い種ね……」
初音は理解している。
アルは、得れたものだからこそ言えるのだと。
彼女の立場だからこそ言える台詞なのであると。
普段の初音なら、そう一蹴していた。
一見余裕に見えるが初音は、失ったものなのだ。
そして、現在も失うかどうかの瀬戸際にある。
だからこそこの計画に加担したのだ。
例え、この島で叛旗を翻そうが、アルに免じて一人帰還しても
彼女を待ち受けるのは、更なる修羅の道である。
(この島に来てから、少しおかしくなっていたのかしらね……)
アルの言葉は、捨て去ったはずの人の部分に響く。
だが、長い年月を経て蜘蛛となった、修羅となった彼女の心はそれを否定する。
そこで認めてはいけない。
自分は何の為に生き続けてきたのだろうか?
泣き寝入りでもすれば、共に戦ってくれるのだろうか?
そんな事は、彼女の信念が間違っても許さない。
例え、借りたとしてもあの時に比べて力の劣る自分に負けたのだ。
九郎とアルの力が加わった所で、銀の強大な力の前には何ら変わりないだろう。
もし、初音がこの宿命を他者の力で断ち切ってもいいと考える弱さならば、
とっくにヴィルヘルムやギーラッハ等に頼み込めばいいだけのこと。
彼女にとって好きではない、相容れぬ人であったが、ケルヴァンのように嫌いではなかった。
彼らの持つその信念の強さには親近感を覚えたからだ。
誇りを捨てれたらどんなに楽だろう?
今までの背負ってきた因果の鎖から解き放ればどんなに楽になれるだろう?
その為には、つけなければいけない決着がある。
そのケリの優先順位は、この企みを潰す事ではない。
初音なら、理由さえつければ一人や二人くらいなら自分と共に帰還する事は可能なのだから。
彼女にとって、この計画は、力を増強させる為のものだ。
その見据える先は、唯一つ。
銀。
この宿命の敵を自らの手で討ち取る。
でなければ、彼女は永遠にこの鎖を断ち切ることはできない。
奏子のためにも。
そして、この計画は彼女にとって譲れないラインだ。
アルの言葉は、初音に懐かしく人の考えと情を与えてくれた。
だが、それは全てを断ち切ってからだ。
その先であってこそ、成立するものなのだと初音は知っていた。
あの二人のパートナーも全てを乗り越えて今があるのだろう。
その姿に初音は惹かれていたのかもしれない。
「ありがとう……」
目の前にいないアルに向かって初音は言った。
(もしこの計画が終わった時、あなた達が生きているのならば……)
そこまで考えて初音は止めた。
「私も弱くなったものね。
私はこれから全てを背負い進むわ……。
次会えば、再び戦う事になるでしょうね……」
挨拶はしない。
会えば、きっと再び人の心が浮き出て揺らぐからだ。
それを許してはいけない。
今許せば、彼女の全てが崩れる。
(彼女なら、二人の少女もよくしてくれるはず……。
ふふ、彼女はきっと私を裏切り者と思うでしょうね)
アルに会わないという事は、彼女への恩義を捨てる事になる。
だが、初音には、それより先の譲れない物がある。
心が痛む、どちらの心が痛むのかはもう解らなかった。
修羅の道を突き進んできたからこそ乗り越えなければいけない試練。
それは闇に生きる者ならではの試練。
(それを乗り越えた時は……。
あなたの言葉を思い出しましょう)
【比良坂初音@アトラク・ナクア(アリスソフト) 鬼 状態○ 装備品なし】
【ランス@ランスシリーズ(アリスソフト) 鬼(但し下克上の野望あり) 状態○ 装備品 リーザス聖剣】
【山本五十六@鬼畜王ランス(アリスソフト) 招 状態○ 装備品 弓矢(弓残量15本)】
【結城ひかり@それは舞い散る桜のように(バジル) 招 状態×(気絶中、外傷等は一切なし) 装備品なし】
【略奪者と探索者と調整者と。後 】
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