略奪者と探索者と調整者と。






「やられた……」
 突如初音の様子が豹変する。
「むっ? どうした?」
「要蜘蛛がやられたわ…」
 忌々しげに初音は口にする。
「かなめくも…なんじゃそれは?」
 初音の言葉の意味をアルは理解できなかった。
「ここともう一箇所の巣の結界を維持するためのもの……誰かが巣に入ろうとしてるわ。
少し留守にするわ。あれを盗られるわけにはいかない」
「妾も共に行く、先程も言ったであろう? 汝にこれ以上手を汚させる訳には……」
 アルの言葉に初音は頭を振る。
「あなたはさっきこうも言ったわね…。もし九郎が死んでいたら絶対に自分で仇を討つ、と。
同じ気持ちの人間はたくさんいるのよ。そういった戦いに水を差すのは無粋ではなくて?」
(そう……もし『彼』が来たのなら私がお相手して差し上げないとね)
「汝は……」
 言葉を詰まらせるアルと乃絵美の横を初音は無言で通り過ぎる。
「留守の間二人をお願いするわ。悪いけれどさっきの約束はその後でね」
 そうして再び蜘蛛は戦場へと舞い戻って行った。
「阿呆が……汝は分かっておるはずだ。このままではもっとも嫌悪するあの男と同じになってしまうという事が…」


 ママトト武将と交戦した後、ランスと五十六は中央に対抗しようとする者達の捜索を続けていた。
 とはいってもそう簡単にそういった者達が見つかるわけもなく……
「くそっ! 使えそうな奴らどころか、誰にも会わないってのはどういう事だ!?」
「やはりそう簡単には見つからぬ物ですね……」
 手掛かりがある訳でもない捜索がそんなに上手くいくはずもなかった。
「ええい! 五十六、一端休憩するぞ」
 山の斜面に乱暴に腰を下ろす。
「五十六、お前も無理せず休憩しろ。肝心な時にばてるようじゃ困る」
 ランスの言葉にも反応せず五十六はある一点を見つめ立ち尽くしている。
 すなわち、ランスの頭上を凝視したまま微動だにしない。
「どうし……たぁ!?」
 不意に矢が放たれ、ランスの頭上に突き刺さる。
 あと数センチ下であったら即死コースだ。
「……なんの真似だ?」
「失礼しましたランス王。毒蜘蛛が居りましたので……」
 五十六の言葉通り、矢は拳程の大きさの蜘蛛を見事に射抜いていた。
「よく気付いたな……」
「斜面の盛り上がり方が不自然でしたので」
 さすがに弓兵だけあって目はいいらしい。
「しかし俺様も長いこと冒険者やってたが、周りの色に同化するなんて蜘蛛なんて初めて聞いたぞ」
「この島特有の種とではないのですか?」
「こんなのはいなかったと思うがな……近くに仲間がいるんじゃないだろうな?」
 そう言いつつ周りを見渡すランスの目に、先程通ってきた道の途中に斜面を繰りぬいたような洞窟が見えた。
(これから行く道ならともかく、なんでさっき通ってきた道にあんな物があって気付かなかったんだ?)
「ランス王…」
 五十六も気付いたらしい。
「ああ、何かあるな……全く俺様の目をごまかそうなんざ一万年早いわ!」
 やっと見つけた手掛かりにランスは勇んで向かって行く。


 一方初音が巣から出て行くのを見つめる者達が居た。蔵女と葉月である。
「どう攻めるか手をこまねいていたが……これは好都合じゃな」
「空き巣みたいであまり気は進まないけれどね」
 蔵女がコロコロと笑う。
「まあ、空き巣というよりは用心棒がいない隙を狙う山賊なのじゃがな」
「僕は無理して襲う必要はないと思うけどね……蔵女、君の調子はよくないんだろう?」
 そう言いながら蔵女の左肩の銃創を見るが、正確に言うと葉月が気にしているのは銃創の事ではない。
「呪詛返しによる反動の事か。呪縛に使った力がそのまま自分に返って来るとはな…。人を呪わば穴二つとはよく言ったものよ」
 いくら呪詛を返されてもそれ自体が原因で蔵女が死ぬ事はないが、その分一時的に力が削がれる事は防げない。
 弱った所を狙われればそれまでである。
 もっとも呪詛返しのおかげでこの場所が分かったのだから悪い事ばかりではないが。
「はぐらかさないでもらえるかな。君の状態が良くないのは傷口を見れば一目瞭然なんだから無理せず休んだ方がいい」
 葉月の言う通り先程から蔵女の傷は広がり、蔵女の着物には血の染みが広がっていた。
「葉月、お主には嫌われていると思っておったが……いざ心配されてみると複雑なものよの」
 確かに葉月にとって蔵女の所業は容認できるものではないが、それでも見殺しにするような真似はとても出来なかった。
「僕は……いや、誰だって目の前に助けられる人がいるなら助ける、それだけだよ。だから別に君の行動を容認するわけじゃない」
「その言葉胸に刻んでおくとしよう。……とにかく今はあそこにあるネクロノミコンを奪取せねばいかんぞ」
 ネクロノミコンを初音の元に置いておけば再び赤い爪の呪縛が返されかねないし、何より力を合わせられたら結界が崩壊してこの世界そのものが破壊されてしまう恐れもある。
 結界の崩壊を防ぐのに関しては葉月も文句を言ったりはしない。
「宴は問題なく進んでおるようだし、この作戦が上手くいけば我等もしばらく静観してもよかろうて。
 葉月、もう少ししたら突入するぞ」
「僕はこんな狂った宴は早く終わらせたい所だけどね…」


「なんだこの糸は……ええい! 鬱陶しい!」
 洞窟内部を埋め尽くさんばかりに張られている巨大な糸をランスは片っ端から叩き斬って奥に進む。
 延々と糸を斬り続けようやく洞窟の奥の壁が見えた頃
「ランス王。人が…」
 五十六の指差す方向には糸に包まれた人間が見える。
 無言で人間を包む糸を切り裂き中身を確認する。
「女か…気の強そうな顔してるな。上玉だな、連れて帰って俺様のハーレムに加えるとしよう」
「ランス王…」
「分かってる。取りあえず他に何かめぼしい物は……」
(五十六とはさっきの約束があるからな。俺様のハイパー兵器を活躍させるのは後でも構わん)
 ランスは楽しみをひとまず頭の隅に追いやり、五十六と手分けして洞窟内の探索を行う。
「……なんかあったか?」
 しばらく壁に隠しスイッチがないかと調べていたがどうやらその手の類の物はないらしい。
「私も特にこれといった物は見つけることが出来ませんでしたが…」
「まあいい、この女だけでも連れて帰るか。わざわざこんな場所に隠してあるくらいなんだ。重要人物なんだろう」
「そう…大事な人質よ。だから渡す訳にはいかないわ」
 背後からの声にランスと五十六が振り向くとそこには初音の姿があった。

【比良坂初音@アトラク・ナクア(アリスソフト) 鬼 状態○ 装備品なし】
【アル・アジフ@斬魔大聖デモンベイン(ニトロプラス) 招 状態○ 装備品 ネクロノミコン(自分自身)】
【速瀬水月@君が望む永遠(age) 狩 状態○ 装備品 スナイパーライフル】
【伊藤乃絵美@With You〜見つめていたい(カクテルソフト) 狩 状態○ 装備品 ナイフ】
【ランス@ランスシリーズ(アリスソフト) 鬼(但し下克上の野望あり) 状態○ 装備品 リーザス聖剣】
【山本五十六@鬼畜王ランス(アリスソフト) 招 状態○ 装備品 弓矢(弓残量15本)】
【蔵女@腐り姫(ライアーソフト) 招 状態△(力半減。左肩銃創、呪詛返しの影響で傷口拡大) 装備品 (能力)赤い爪、通信機】
【葉月@ヤミと帽子と本の旅人(オービット) 招 状態○(力半減) 装備品 日本刀】
【結城ひかり@それは舞い散る桜のように(バジル) 招 状態×(気絶中、外傷等は一切なし) 装備品なし】

(時間:千載一遇x3 と同時刻)



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