光差す方へ






幾重にも張り巡らされた巣の中で、アルは寝乱れていた身体を整えていく。
色々あったが長居し過ぎたようだ。
身支度を整えると、未だだらしなく裸同然の姿で寝そべっている初音の頭を蹴り飛ばす。
「痛いわね、私はまだ眠いのよ」
「何を言っておる、汝も行くのだ」
アルは駄々をこねる初音を強引に起こしていく。
「汝を救ったのは、と言うより生かしてやったのは妾だぞ、付き合っても良いのではないのか?」
それを言われると何も言い返せない。
初音は渋々ながら衣服を整えはじめた。

初音にも目的があった、乃絵美の話に出てきた赤い爪の童女・・・それが気にかかっているのだ。
(危険な存在ね)
だが、恩義を盾にされてはどうしようもない、それを反故にすることは彼女のプライドが許さなかった。
悪は悪でも彼女にはいわゆる任侠系な部分があるので、約束を破ったり恩を痣で返す真似はしたくないのだ。
「ですが何故に貴方はそこまで私に拘るのかしら?」
服に袖を通しながら初音はアルに問いかける。
「聞きたいか?」
言いたくってたまらない表情でアルは初音に問いかける、言いたくてたまらないくせにと初音は思う。
自分が何だかんだといいながらも彼女に付き合おうとしてるのは、
恩義とかを抜きにして、そういう部分が気に入っているからかもと初音は思った。
「ならば教えてやる!それはな、汝の両手をもうこれ以上無益な血に染めさせぬためだ!」
そこからは止まらなかった、アルは次々と言葉を吐いていく。
「比良坂初音!その手は人を殺めるためのものでしかないのか?違うであろ?
 人の両手は愛する者を抱きしめる、そして守るためにあるのではないのか!」
あえてアルは初音を人と呼んだ。
人という言葉に思わず反応する初音、それを見逃さないアル、さらに畳み掛けていく。

「だが、汝の重ねた罪は赦され難き大罪!汝の殺めた者に愛し合う恋人同志がいなかったと思うか?
 仲睦まじき母子がいなかったとでも思うのか!!」
アルの演説はまだまだ続く、それを怯えた目でじっと見ている水月と乃絵美。
「その償いが終わるまでは決して死ぬことは赦されぬのだぞ!」

「償いですって、いまさら何を」
口を挟もうとした初音をアルは制して続ける。
「汝が心まで悪鬼なれば何も言わぬ、だが妾は見た、汝の心の中の一片の汚れ無き光を、その清き涙を…
 なればこそ妾は決して汝を捨ててはおけぬ!」
それはまさにか細き光だったが、何よりも強く輝いていたとアルは思う、
充分に賭けるに値するものだと。
「千の命を殺めたのならば、万の命を救え!万の悪を討つのだ!そしてその手始めに
 必ず生きて深山奏子の元に帰るのだ、さすれば」
「いずれ赦しの時も訪れるやもしれん・・・」
演説は終わった、乃絵美が水を差し出し、それを一息に煽るアル。

「それに汝は敵だらけであろうが?」
ここまで初音はあまりにも無軌道に襲撃を繰り返し過ぎた、それゆえ各方面から恨みを買っている。
そしてかく言うアル自身もその一員なのであった。
「いちいち謝って回れとでも?」
初音の軽口にアルは言い返す。
「謝ってすむ話なら当然そうしろ」
「私が九郎さんを殺していたらどうなさるの?」
意地悪く問いかける初音。

「その時は妾が真っ先に汝を討つ、他の誰にも譲らぬよ」
アルは即答する。
「ただしそれでも汝を深山奏子に会わせて、それからだ、その時がきたら辞世の句でも考えておけ、だが」
「安心しろ、九郎は決して死んではおらぬよ、だから探す、見つかるまで付き合え」
ぞんざいな口調だったが、温かみが篭っていた。
「妾と九郎、そして汝が手を組めば、きっとこの下らぬ企みも粉砕できる」

「それに、強がっても無駄だ・・・」
アルはくるりとリボンをはためかせ振り返る。
「妾は汝の正体など、とうにお見通しなのだからな」

【比良坂初音@アトラク=ナクア(アリスソフト) 状態:○(鬼) なし 行動目的:アルに付き合う、生き残る】
【アル・アジフ@斬魔大聖デモンベイン (ニトロプラス) 状:○ ネクロノミコン(自分自身)(招)
 行動目的: 九郎を探す、初音を更正させる 島からの脱出】
【速瀬 水月@君が望む永遠(age) 状態:○ (狩)スナイパーライフル(鬼側の武器を初音が持ってきた)】
【伊藤乃絵美 @With you〜見つめていたい(F&C) 状態:○ 所持品:ナイフ 行動方針:不明 】

(初音の【巣】の結界は人間の精神に作用する類のものです、つまり侵入を拒むというのではなく、そもそも
存在を気づかせないタイプの結界です)
(初音の蜘蛛は中央へは侵入できません)

(情報戦直後)



前話   目次   次話