仲間という名の利害関係






 巨大ロボット、バルジャーノンのコクピットの中には、綾峰慧と鎧衣尊人、二人だけがいる。
『たける〜、ごめんねー』
 気の抜けるような声のままに、バルジャーノンを操縦している尊人が呟く。
 すると手元にある備え付けのスピーカーから、別の声、白銀武の声が流れ出してくる。
『い、いいから……。もっと、ゆっくり……』
 今にも死んでしまいそうな弱々しい声。
 武は今、バルジャーノンの手の中にいた。
『白銀の軟弱者』
『う、るせぇ……。なんで、俺だけ……』
 綾峰の言葉に対するつっこみも弱い。
『あはは、レディファースト、って奴かなー?』
『お前、男だろうが……、って、おわ! 尊人! もっとゆっくり動かせよ!』
 尊人の軽口に武が口を挟む、すると機体が大きく揺れた。
『あははー、ごめんね。手元が狂っちゃったよ』
 彼等は現在、バルジャーノンを操りながら森の中を走り、そして時には木々を飛び越えながら冥夜達の待つ場所へと向かっていた。
 その先で現在何が起こっているかを知らぬままに。
 彼等は冥夜、そしてケルヴァンの待つ場所へと向かっていた。

   男の身体が大きく後ろ側へと吹き飛ぶ。
「お前のせいで純夏が!」
 殴ったのは武、殴られたのはケルヴァン・ソリード。
「この事態は私にも予想していなかった。よもや、この場所を狙ってくる者がいようとは……。
 戦略的には無価値、そしてここにある武装もこの機神のもののみ……、この事は私以外の者にはほとんど伝えていないはずだったのだが……
 貴公の仲間を拉致られた責任は全て私にある、それは覆せぬ事実だ。
 白銀武。貴公には私を殴る権利がある、だが、その後でもいい、私の話を聞いて欲しい。
 この通りだ」
 殴られ、地に伏せたままケルヴァンが頭を下げる。
「武、やめてよ! この人について行こうって行ったのはボクなんだから!」
「タケル。その者を殴るのなら、この私も殴ってくれ。私の目の前で純夏が連れて行かれたのだ。
 この男は私達の仲間ではないにも関わらず、純夏を助けようと試みていた。
 しかし私もこの男も、力及ばなかった……。責は私にもある、いや、むしろ私の方がその責任は大きい」
 尊人が武の身体を押さえつけ、その前に進み出た冥夜がそう悔しそうに口にしてから静かに目を閉じる。
「尊人、冥夜……」
 湧き上がる感情を抑えられぬまま、それでも武は振り上げた拳を下げた。
「……俺にも、責める資格なんて無かったんだよな……。俺は、委員長を、千鶴を……、殺しちまったんだから」
 武の中に思い浮かぶ榊千鶴の亡骸。
 武はその場に集まった人間達、一人一人に視線を向け、最後にケルヴァンの元でそれをとめる。
「話を、しよう……。俺があの男を追って遭遇した全部の出来事を話すから。あんた……」
「ケルヴァンだ」
 武が問いかける前にケルヴァンが名を告げる。
「ケルヴァン、あんたが知っている事も全部教えてくれ。それが出来なきゃ俺は、
 いや、俺達は、今すぐあの機体に乗り込んで、この場から逃げ出してやる」
 武の呟きは、しかし真に迫っていた。
 ケルヴァンにも、今白銀が口にしている言葉が口先だけのものではない事を理解した。
 故に。
 ケルヴァンは立ち上がると、白銀武の視線を真っ向から受け止めた。
 そして言葉を口にする。
「判った。全て話そう。私の目的と、そしてこの島で何が起こっているのかという事を……」

「元々私は、ヴィルヘルム、この計画を立ち上げた男だが、その男の信念に感応して手を貸しているわけではない。
 覇王、世界を統べる力を持つ者、その者を見つけ出す為に、彼の者に力を貸した」
「じゃあ、あんたが責任の一端を担ってるって事じゃねぇかよ!」
 武は席から立ち上がり、ケルヴァンに詰め寄る。
「最後まで話を聞け、白銀武。そう、確かに私にも責任はある。しかしそれは断じて、力無き者を排除する今までまかり通ってきたやり方を
肯定するものではない!」
 ケルヴァンの恫喝を受け、武もしぶりながらも席へと戻る。
「私は元々、力ある者だけを呼び寄せるものだと考えていた。しかしあの男は、君達を呼び寄せる装置を暴走させ、
 無作為に人々を呼び寄せてしまったのだ。偶然を使ってでも魔力を持つ者を呼び寄せる、そのような事を言いながらな」
 ケルヴァンは言葉を続ける。
「奴の力は強大だ。この私の力を持ってしても、あの者と相対すれば、まず命を失うだろう」
「あのバルジャーノンを使っても駄目?」
 尊人の呟きを受けて、ケルヴァンはその方へと視線を向ける。
「例えば、空に浮かぶ星々をいくつも頭上から落とす、そんな魔法があるとしよう。その力に対して、君はどう対処できる?
 或いは、一つのみならば、あの機体の力で対処できるかもしれぬ、例えば打ち落とす等とな。
 しかし、十数個の星を同時に打ち落とす事など出来はしない。あの男はそのような魔法を扱う事が出来る。つまりはそういう事だ」
 その言葉を聞き、ケルヴァンを除く者達の顔が青ざめる。
「だから私は、これまで秘密裏に、或いは機を狙う事で、少しずつ戦力を広げてきた。そして、先ほどの満月、あれが決定打だ」
「決定打?」
「あの男は死人の記憶を読む事ができる、いや、出来た、と言った方がいいのだろうが、その力のせいで私は今まで表立って動く事が出来なかった。
 私の目の届かない所で、私が真実を話した者が死んでしまえば、全てがあの男に知られてしまう。
 そうなれば、あの男は、手を組んでいるこの私であろうとも、排除してくるだろう」
「では、あの満月時に、その記憶を読む力を防ぐ事が出来る『何か』が現れた、という事か?」
 冥夜が尋ねると、ケルヴァンは大きく頷く。
「ああ、そのように私が細工をしたのだからな。ともかく、これからは私も動く事が出来る。
 おそらくもう一人の協力者も、ヴィルヘルムの力が失われたとしれば、動き始める事となろう。
 その前に私は、準備を済ませておきたいのだ」
「もう一人の協力者って?」
「比良坂初音。一見すると、長い黒髪の少女、ああ、君達くらいの年齢ほどの女に見えるのだが、
 その実、何百年も生きた蜘蛛の化け物という存在だ。
 少し前まで派手に動いていたのだが、最近はおとなしくしているが……、ん、どうした?」
 武達の表情におかしなものが浮かんだ事に気がついたのか、ケルヴァンが尋ねる。
「黒い髪の女……。もしかしてタマの時の?」
「ケルヴァンさん。もしかしてその人、真っ黒いセーラー服を着てたりしない?」
「せえらあ服というものがどのようなものかは知らぬが、奴は常に黒い服装で身を固めていたな」
 武達は、やっぱり、というような表情を浮かべながらお互いの顔を見回した。
「俺達、そいつの事を知っている……。タマを、俺達の仲間を預けたんだ」
 ケルヴァンは武の言葉を聞くと、ふむ、と呟いてから何事かを思案する。
「そのタマ、という者は女か?」
「あ、ああ……。だけどそれがどうした?」
「ふむ、ならばもう一つ尋ねよう。その女は生娘か? 男と交わった事の無い娘であったのか?」
 ケルヴァンと武を除く視線が、武の元へ集まる。
 その視線を受けて、ケルヴァンも武へと向けた。
「お、俺はそんな事やっちゃいねぇぞ!」
 どこか焦ったように、両手を振り回して否定しながら、武が叫ぶ。
「ならば……。君達の仲間が命を失ったのは、その蜘蛛が関係しているやもしれん」
 仲間が死んだ事の真実、それが思いもよらぬところから出てきた事で、武達の表情に緊張が走った。
「どういう事だよ!」
「蜘蛛は生娘の命を食らうのだ、しかも戯れにな。タマという者が殺されたのも、その事で君達が苦しむのを楽しむ為だったのかもしれん」
 武はそれを聞くとすぐに立ち上がる。
「目的は……、決まったな。純夏を取り返した後、比良坂初音を探し出す!」
 後に続くように、綾峰、鎧衣、御剣も立ち上がる。
「蜘蛛の元へ行くというのか? 今しばらく待てば、私が中央から呼んだ手勢をいくらか分け与える事も出来るが?」
「いや、それはいい。それよりも、あんただ」
 武がケルヴァンに向かって問いかける。
「私がどうかしたのかね?」
「俺達はこれから、その比良坂初音って奴を探す。勿論、純夏の事が先だけどな。それで、そいつの話によっては戦う事になるかもしれない。
 あんたはそれでいいのか? 
 仲間……なんだろ?」
 そういう事か、そう呟きながらケルヴァンも立ち上がる。
「私に仲間などいないよ。蜘蛛を追うというのなら止めはしない。白銀武、私は私の目的のために、最大限の力を貸そう。私の負った責、鑑純夏の件については私に任せてもらおう。
 目の前で連れ去られるという事実、これは君達だけではなく、私にとっても屈辱だからな」
 それに、そう呟いて言葉を続ける。
「あの機神も君達に分け与えよう。二つとはいかんが、片方だけならば好きなように使うがいい。武器もある」
「……サンキュー」
 武はそう口にしてから、右手を差し出した。
「利害関係の一致による協定か。いいだろう。ケルヴァン・ソリード、ここにそれを示そう」
 同じく右手を差し伸べるケルヴァンに、武が笑いかける。
「難しい事言ってんじゃねぇよ。あんたに仲間がいないってんなら、俺達が仲間になってやる。
 純夏を助けてくれるんだろ? あんたから見れば俺達は、利害の一致、かもしれないけど、
 俺達にとっちゃそれだけで十分に『仲間』なんだよ」
 まるで、ままごとのようだ、ケルヴァンは心の中でそんな事を呟いた。
 仲間なんて、所詮薄い薄氷の上に成り立っているもの。
 ある者は裏切り、信頼している者でもあっさりと命を失う。
 そんな世界で生きてきたケルヴァンにとって、書状もなく、契約もない、ただの『約束』という意味で、
仲間だどうだと言っていても、そこに意味など無い。
 それでも、ケルヴァンはその時、一瞬だけこんな事を考えていた。
(こういうのも、悪くは……無い)
 そうして、彼等は手を組んだ。

  【白銀 武 マブラヴ age ○ サブマシンガン、ハンドガン、共に残弾0 招 】
【御剣 冥夜 マブラヴ age 状態 ○ 持ち物 刀 狩】
【鎧衣 尊人 マブラヴ age ○ ハンドガン(装填数 20発) 狩 】
【綾峰 慧 マブラヴ age ○ 弓 矢残り7本 狩 】
(四人の目的〜純夏を取り返し、初音を探す バルジャーノン一体使用可)
【ケルヴァン:所持品:ロングソード 地図 状態△(魔力消耗気味) 鬼】
(目的〜神風達の到着を待ち、ファントム、ママトト組を追う)

(時間:『Pursuits』後)



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