千載一遇x3






「おい?大丈夫か」
森の中でついにへたり込んだゲンハを心配そうに覗きこむ直人、
ゲンハの背中の傷はかなり悪化している、もう長い時間は保たないだろう。
彼らは先ほどから、森の中をさまよいつづけていた。
すでに出血多量で身動きが取れなくなりつつあるゲンハを肩に担ぎ、直人は地面に刻まれた跡を辿っていく。

「置いていけ…キャラに合わないことをすると死んじまうぞ」
「お前が俺を見捨てるのは別に構わない、だが俺はお前に借りを作ったまま死なれるのは気に食わないからな」
「お前…飲みすぎじゃねぇのか、よくそんな恥ずかしいセリフが吐けるな…それとも」
ここでゲンハは急に真顔になる。
「俺に友情感じてないか?…照れるぜ」
直人は無言でゲンハを肩から振り落とす。
「てぇな!何しやがる!」
「お前こそ似合わないこといってるんじゃねぇ!」
(友情だと!?下らん…俺はこいつに盾以外の利用価値なぞ認めていないはずだ)

このアフロの男もきっとそうだ…土壇場ではきっと自分を優先するに決まっている、
しかし何故かそう思っているにも関わらず、
またゲンハに手を差し伸べる自分に、困惑する直人だったが、その一方で納得もしていた。
お互い人の世では決して許されぬ行為をあえて行ってきた、それゆえにわかるのだ。
下衆には下衆なりの誇りが…それなりに自分に課した掟があるのだ。
その掟に従っているのだろうか?彼はやはりゲンハを捨てられなった。
森は唐突に行き止まりを迎えていた、いや実際にはその先があったのだが、
何故か進もうという気持ちにはなれなかった。
「無駄足だったな」
踵を返そうとした2人だったが…。
「おい?」
「ああ」
2人は同時に確認の声を出す、長年嗅ぎなれた匂いが、血の匂いがかすかに漂ってきている。
鼻をくんくんと鳴らしながら場所を辿っていく、と藪の中から兵士の死体が転がっている。

それと同時に何故分からなかったのだろう?目の前にこじんまりとした建物が見える。
そう、彼らは結界を越えたのだった。
「目くらましか…手の込んだ真似を」
原理はてんで分からないが、多分そういう類の何かなのだろう。
それはともかく、直人はいよいよヤバそうな感じのゲンハに元気付けるように言う。
「とりあえず適当な奴ぶっ殺して薬でも手に入れようぜ」

それより僅か前の出来事。
「ほう…結界か?小賢しいのう」
岬今日子、今は無貌の神が一人ごちる。
所詮は急場凌ぎの結界…まかりなりにも神である彼の目をごまかすことは出来なかったようだ。
だが、そこに結界があるといっても、侵入する方法までは彼といえどもわからなかった。

「強引に切り裂くのもありかもしれぬが」
今の宿主である小娘では自分の持つポテンシャルを全て引き出すことは出来そうにない。
より強力な器を手に入れねばならない…それも単純な強さではなく資質がなければならない。

と、その時だった、唐突に一人の警備兵が姿を現したのだった。
警備兵は、やっーてらんねーよななどといいながらくわえタバコで立ちションをしている。
そしてそれを見逃す無貌の神ではなかった。
「おい、ここはどこで一体何がある?」

「ほう?」
警備兵の背中に剣をつきつけ、結界を突破した彼の前に一つの建物が見える。
これといって特徴の無い施設だったが、結界を張る以上何かがあるのだろう。
「なあ…教えたんだから助けてくれよう」
泣きながら哀願する警備兵、しかし無貌の神は情け容赦無くその身体を切り裂く。
「さて、中の主がどのような輩か、とくと拝見させてもらうか…その前に」
無貌の神は哀れな兵士の遺体をさらに切り裂いて、より血の匂いが溢れかえるようにする。
「道標じゃ、混沌に魅入られしものどもよ、これに気がつけば集うがよい」

そして無貌の神、ゲンハらに遅れる事数分。
「ほんとにここなのか?」
何度も何度も地図を確認し、色々と調べた上にようやく”道標”を発見し
ミュラたちも結界を越えたのだった。
施設は小さめで警備の兵士もそれなりにしか存在しなかった。
ゆえにミュラたちはほとんどノーチェックですり抜けることが出来た。
しかし妙だ…何故こんな施設にあんな重要そうなチェックを?
再び2重丸の意味を考えるミュラたちだったが。

「待って…」
沙乃の表情が変だ、冷静沈着な彼女にしては珍しく何やら動揺している。
彼女は見てしまったのだ…。
(どうして、こんなところに)
ケルヴァン・リード!!、最高司令官ともあろう彼が何故こんなところに?
そのケルヴァンは自分の他に2人の少女とお茶を楽しんでいる最中だった。
その様子はまさに無防備と言ってもよかった。

「あれが…ケルヴァン、敵の最高司令官」
沙乃の指示にしたがい集まった残りの3人も驚愕を禁じえない。
しかし、最高司令官ともあろう者がこんな場所までわざわざ備えもナシに出て来ているとは信じがたい。
だがこれが千載一遇のチャンスであることは間違い無い。
4人の方針はすでに固まっていた、彼を人質に取りこのふざけた世界から脱出する。
それが叶わなくとも最高司令官たる彼の身柄を抑えることができたならば、
とてつもないアドバンテージとなりうることは必定だ。

4人はわすかな時間ながらも作戦を練る。
「俺とリックがケルヴァンを抑える、ミュラたちは女の子たちを頼む…見た感じ
 ボディーガードというわけでは無さそうだ、それから逃走経路は〜」
地面に見取り図を描きながら玲二が作戦を説明する、こういう強襲作戦は何度も経験がある、
作戦立案はお手のものだった。

「十秒だ…十秒間が勝負だぞ、それも一発勝負だ」
玲二の言葉に頷く3人。
「もし十秒で確保に失敗したら…各自散開だ、自分のことだけを考えろ…そして」
玲二は3人にあらかじめ渡しておいた地図の写しのとある一点を示す。
「8時間以内に、ひとまずここに集まるんだ、そこで2時間待っても現れなければ…」
そこから先は言いたくなかった。

「いくぞ…いち、にの」
4人は呼吸を整えながらそっと目を閉じる、無論ケルヴァンらの位置関係はしっかりと焼きつけて
玲二はスタングレネードのピンを外し、アンダーハンドでケルヴァンらへと投擲する。
「さん!GO!!」
4人は目を閉じたまま手はずどおり一斉に飛び出す、そしてすさまじい閃光が周囲を包んだ。


「俺が死にかけてるってのに…あの野郎め両手に花かよ」
暗視ゴーグルを(先のガレージで最初に殺した歩哨から奪った)着用しているゲンハが、
やはり物陰からケルヴァンらを見て忌々しげにぼやく。
「身体が動く間にとっとと殺っちまおうぜ」
「ああ…ただし一人だけ、あの気の強そうな女は生かしておけ」

直人はやけにシリアスな表情でゲンハに告げる。
「何かワケありか?ああん」
直人は驚きを禁じえない・・・なぜこんな場所に、御剣冥夜が、あの御剣財閥の令嬢がぬくぬくと茶を飲んでいるのだ?
(まさか…御剣がこの1件に絡んでいるのか?)
御剣財閥の規模は、勝沼グループを遥かに凌駕する、それだけの巨大グループとなれば謎も多いのだ。
ありえない話ではない、がそんなことはそうでもいい。
(千載一遇だな)
あの御剣財閥の令嬢を手中に収め、帰還することが出来たならば、保釈も夢ではない。
「でよう、あのお姫さまは俺が頂いてもいいのかよ?」
死の瀬戸際にいるにも関わらず、ゲンハの肉欲は衰えを見せなかった。
流石にあきれ顔で直人はゲンハの顔を見るが、その表情は暗視ゴーグルに阻まれて伺えなかった。
まぶしくてたまらないだろうに…しかし気持ちはわからなくも無い。

「冥土の土産だ…好きなだけ犯していいぞ、壊しても構わん」
ゲンハは満足げに頷くと、直人から渡されたシグザウエルを構える。
「最悪、呼吸さえしていれば人質の価値はある…行こうか?」
と、直人らが無造作に姿を見せたとき、スタングレネードが炸裂した。


「あの娘!欲しい!!」
無貌の神はにたりとだらしなく笑う、その視線の先にあったのは鑑純夏だ。
「千載一遇とはこのことよ」
彼女は現在の宿主である今日子よりもか細く見えたが、しかし彼にとってはそうは映らなかったらしい

辰人には及ばぬまでも、少なくともこの宿主よりは遥かに優れた資質を持つようだった。
そしてその資質は、ヴィルヘルムやケルヴァンが求めるものとはまた違った方向性の物だった。
事実、彼女より遥かに優れた魔力・身体能力を持つケルヴァンや冥夜には、彼はまるで興味を持たなかったのだから。
(それにしても退屈せぬわ、さて、と)
無貌の神は刃にこびりついた血を払うと、そのままささやかな茶会へと突撃した。

【鑑 純夏 マブラヴ age 状 ○持ち物 ハンドガン(あの後貰った) 装填数 20発 狩】
【御剣 冥夜 マブラヴ age 状態 ○ 持ち物 刀 狩】
【ケルヴァン:所持品:ロングソード 地図 状態△(魔力消耗気味) 鬼】


【ゲンハ@BALDR FORCE(戯画) 招 状態△(裂傷多数、背中に深い刺し傷、かなり危険な状態)
 所持品:シグ・ザウエル 暗視ゴーグル 火炎瓶x3】
【直人@悪夢(スタジオメビウス) 招 状態△(傷は多いが命に別状なし) 所持品:鉄パイプ・包丁】
(目的:御剣冥夜の確保)

【吾妻玲二@ファントム・オブ・インフェルノ(ニトロプラス) 狩 状態○ 所持品:S&W(残弾数不明) 
 コルトガバメント(残弾数不明)手榴弾x2  暗視ゴーグル】
【原田沙乃@行殺!新撰組(ライアーソフト) 鬼(現在は狩) 状態○ 所持品:十文字槍 食料・医薬品等】
【ミュラ@ママトト(アリスソフト) 狩 状態○ 所持品:長剣 地図】
【リック@ママトト(アリスソフト) 狩 状態○ 所持品:戦斧】
(目的:ケルヴァンの確保)

【岬今日子(無貌の神)@永遠のアセリア(ザウス)招 状態○所持品 永遠神剣第六位『空虚』(雷撃2発分の魔力)】
(目的:鑑純夏の確保)

時間(「情報戦」直後)



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