分かれ道






 「……これは参ったね」
 迂回して東へ向かおうとした三人の前に立ちはばかったのは、崖と下に流れる川。
 向こう側との距離は、とてもじゃないが、今の彼らで渡れるような距離ではない。
 (渡れる所を探すにしてもこのまま下れば時間が……)
 「どうするかい?」
 悩むナナスへと忠介が話し掛ける。
 「材料さえあれば、渡る事は可能なんだけどもね……」
 ふぅとため息を付きながら忠介が続けていった。
 (材料を集めて渡るか? ダメだ、それも時間がかかる……)
 既にあれから一時間は、ゆうに過ぎている。
 このまま下った場合、戻る時間を計算に入れれば彼の作戦の成功率は益々低くなる。
 だが上った場合、せっかく迂回したのにまた中央へ近づいている期間が長くなる。
 「上ろう」
 考え末た挙句、ナナスは覚悟を決めた。
 このまま下って時間を無駄にした方が確率が下がる、と踏んだからだ。
 「虎穴に入らずば虎子を得ず……。
  まぁ、一応迂回して時間も立ってるしね」
 「郁美さん、歩けます?」
 ナナスと忠介と違い、良門がいるとはいえ郁美の身体は極普通の女の子のものだ。
 先の襲撃で埃も浴びれば、ここまで歩きとおしたので疲れもたまっている。
 「私は大丈夫です、行きましょう」
 私の為に時間を取るわけにはいかない、と郁美は足手まといになる訳にはいかないと思っていた。
 「解った。 急ごう、もう一踏ん張りだ」
 ナナスの指揮と共に、三人は崖沿いの道を上り始めた。

 「ビーンゴ♪ これは正解だったね」
 しばらく歩いた後、彼らは崖にかかる橋を見つけた。
 俗に言う吊り橋ではあるが、向こう岸に渡るだけならこれで良さそうだ。
 「これなら時間にも十分間に合う!」
 嬉しさの余りナナスが感激の声を上げる。
 「はい、行きましょう!」
 「待った! 一応罠があるかもしれないからね。
  慎重に行こう……」
 少々浮かれる二人を忠介が止めた。

 吊り橋は不安定ではあるが、細工がされている様子はなかった。
 「問題は反対側か……」
 こちら側の吊り橋のチェックを終えたナナスが言う。
 「この状況なら半々だと思うけどね。
  いや、むしろ此方側になくて、あちら側にあるという方がおかしいよ」
 「そうですよね、考えすぎかな……」
 忠介の言葉を聞くとナナスは、ゆっくりと橋へ足をかける。
 「うん、大丈夫です、行きましょう」
 ナナスの安全を確かめた言葉と共に二人も後を続いて渡り始める。

 三人が丁度、橋の中間地点に来た時だ。

 ターン!!

 一発の銃声が響き渡る。
 「がっ!?」
 ナナスの右肘に一発の銃弾が打ち込まれた。
 「しまった!! 敵!?」
 痛みよりも今は、この状況の対処だ。
 耐えながらもナナスは、忠介と郁美は周りを見渡す。
 「ビンゴって所だねぇ……」
 向こう側の木の陰から、ゆっくりとドライが姿を現した。
 「悪いけど、あそこにいた時に把握されてるんだ。
  言い訳はできないぜ?」
 ドライの銃口は此方側を向いたままだ。
 (でもこの距離なら……!?)
 ナナスが対抗しようと改造エアガンを懐から取り出そうとする。
 本物の銃に比べれば、飛距離は短い。
 相手には届かないかもしれないが、威嚇にする事くらいはできると読んだのだ。
 だが。
 2発目の銃声が響いた。
 今度は、動かそうとしたナナスの右手が見事に打ち抜かれている。
 「ぐぅっ!?」
 「私をあんまり甘く見てもらっては困る」
 未だ銃の眼光は、三人に向けられたままだ。
 (ダメだ……、彼女の腕はすさまじい。
  隙を与えてくれない!!)
 「……さっさと殺したらどうだい?」
 忠介がドライへ向かって口切った。
 「いや、上の人から勧誘もしろと言われてるんだ。
  一応無駄とは思うがさせて貰わないとね」
 「さっきと言ってる言葉が矛盾してないかい?」
 「いやいや、全員へ向けてじゃないさ。
  お前だよ、江ノ尾忠介……で合ってるよな?」
 「それで、この僕に何のようだって言うんだい?」
 「話が早いのは、助かるね。
  『君の事は全て把握してある。
   君さえ望むのなら、中央に来たまえ。
   元の世界にいては決して手に入らない科学を、魔法を、知識の数々を習得する事ができる。
   君にとって決して悪いようにはさせない』
  だそうだ」
 (ケルヴァンから渡された情報によれば、こいつはこういえば、
  中央につく可能性があるって事だが……)
 「…………」
 黙る忠介。
 確かに彼ら中央に従えば、彼の知的探究心はこれまでにないほど満たされるだろう。
 元の世界に戻ってしまっては、決して得られない全てを。
 「僕の考えは決まっている」
 「忠介さん!!」
 忠介の言葉にナナスは、嬉しさと共に申し訳なく思った。
 嘘でも従えば彼だけは生き残れるというのに……。
 「二人とも、ごめん」
 「なっ!?」
 次の瞬間、ナナスと郁美は、吊り橋から突き落とされた。
 「ひゅう、いい判断だ……」
 「これで僕が中央に従うって言う証明はできたかな?」
 言いながらゆっくりと忠介がドライの方へと歩いていく。
 「OK。 それじゃ、あたしは河口にいる仲間に連絡を取るよ。
  死体の確認、生きてたらトドメを刺して貰わないと困るからね」
 ドライが伝言役の使い魔と連絡を取ろうと合図を出そうとする。
 ドライが背を向けたその一瞬の隙を狙って、十分に近づいた忠介は塩酸の入った瓶を握る
 「残念」
 忠介がまさに投げつけようとしたその時、ドライは彼の方へ振り返った。

   銃声が二発響いた。
 一発は、忠介の手の塩酸の瓶に。
 そしてもう一発は、彼の胸に。
 そして、彼は地面に倒れる。
 「いい演技だったよ。
  けど、あいつらを吊り橋から落とした時、あいつらへの殺気がなかった。
  その殺気は最初から私に向けられてたからね」
 ゆっくりとドライが近づいてくる。
 (次が最後のチャンスか……)
 右手は塩酸で焼け爛れている。
 さっきのより分量は落ちるが、この左手に握ったのが最後だ。
 幾らドライとて、これを真正面から受ければ、失明は免れない。
 (もう少し……、もう少し近づいて来い!!)
 ドライが近づいてくるのが解る。
 (……止まった!?)
 「本当に演技が得意だね。
  胸を打ち抜いたはずなのに、血が何も溢れ出てないんだ。
  防弾チョッキか、何かを着込んでるんだろ?」
 忠介は顔を上げる、瞳に映るのは、最低限の距離を置き、自分の頭に銃を向けるドライ。
 「仲間を助ける為に、自分が悪役になる。
  そう言うの好きだぜ。 けど仕事は仕事だ、悪く思わないでくれよ」
 「ふっ、天才ともあろう僕がこんな所で志半ばに倒れるとはね……」
 「……せめてもだ、死に際に教えてやるよ。
  河口に仲間がいるっていうのは尻尾を掴むための嘘だよ。
  それと、もしあの二人と会う事があったら、殺す前にお前の事を教えてやるさ」
 いい終えると共にドライは、ゆっくりと引き金を引く。
 「できれば、その優しさに免じて見逃して欲しいけどね……」
 「わりぃな。 そりゃ無理だ」
 ドライの言葉と共に銃声が響いた。

 「がふっ!?」
 一方、川に突き落とされたナナスと郁美。
 (郁美さん!?)
 何とか郁美を救い出そうとするも川の流れが速くナナスも流される事だけしかできない。
 郁美の方は、どうやら落下のショックで意識を失ったらしい。
 次第に二人の間隔が空いていく。
 (このままじゃ……、っ!?)
 川が二つに分岐している。
 このままいけば、ナナスは右の方へ押し流されるだろう。
 そして、郁美は逆側へと……。
 (ダメだ、流れに逆らえない!! くそっ!! せっかく集えた仲間だって言うのに!!
  忠介さんが僕らを助けてくれたって言うのに!!)
 ナナスは理解していた。
 忠介の行為は、裏切りによるものではなく、二人を助ける為にされた物だということを。
 (こんな所で絶対に死ねない!! 僕は生き延びなきゃ!!)
 見事に、二人は島の正反対に流されていったのだった。

   「むっ、人!?」
 町へ戻った後、モーラに雪を任せ、川へ水を汲みにきていた羅喉の目に流される郁美の姿が映る。
 「いかん、大分流されたみたいだ、衰弱してる!?」
 郁美を川から抱き上げると羅喉は、そのまま港町へと戻っていく。

 (大分下まで流されたみたいだ……。 海の音が聞こえる気がする)
 意識絶え絶えにナナスは、流れが緩くなった所で何とか岸へと這い上がる。
 「てっきり化け物かと思えば、人か……」
 (……!?)
 疲労のせいで声が出ない、意識もぼんやりとしてるがナナスの頭の上で誰かの声が聞こえる。
 (ここまでか……、ごめん)
 ナナスの意識もそこでようやく途切れた。
 「意識を失ったのか。
  さて、どうしたものか」
 克己は、目の前に倒れるナナスをどうするべきか悩むのあった。

【ナナス@ママトト(アリスソフト)状態×(意識喪失、右手右肘に銃痕) 所持品 強化皮膚の装甲 改造エアガン 招】
【小野郁美@Re-leaf(シーズウェア)状態△(意識喪失) 所持品 メッコール(飲むとあまりのまずさに気絶)強化皮膚の装甲 ハンマー 招】
【江ノ尾忠介@秋桜の空に(マロン) 死亡】
【鴉丸羅喉@OnlyYou-リ・クルス-(アリスソフト) 狩 状態○ 行動目的:雪を護りぬく・戦力集結、郁美の介護】
【ドライ @ファントム・オブ・インフェルノ (ニトロプラス) 状態○  鬼  所持品 ハードボーラx2】
【飯島克己@モエかん(ケロQ) 狩 状態○ 所持品:ワイヤー 行動方針:ナナスをどうするか決める】
【満月後、阻む者、名将の機転〜】



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