策動
「さてと、いい具合に傷ついてくれたな」
片腕を失った十兵衛の傍に立つは無影。
「まだ死なれちゃ困るんでね……」
十兵衛の左肩をしばり出血を抑え処置を施すと、傷口に布を巻く。
「これならもうしばらくは持つだろうな……。
まぁ、一日持てば十分だ」
処置を終えると無影は、気絶した十兵衛を背負う。
(十兵衛は双厳の制止役だからな……。
こいつがいなければ、先の約束もできなかった。
これからの計画の成立にも必要だしな……)
「ついでだ、持ってくか……」
無影は、切り落とされた十兵衛の左腕から鉄板を拾い上げると懐へとしまった。
日が開けても三人の警戒はそう簡単には解かれない。
敵が息を潜めてるかもしれないと判断したからだ。
「流石にもう逃げたのではないか?」
いち早く口開いたのは、蓉子だ。
「そうだな……。
すまん、なら、俺は十兵衛の方へ戻る!!」
「あ、双厳待って、私も!!」
走り抜ける双厳の後を追う命。
「やれやれ仕方ない、全員で行った方が安全だ……」
続けて後を追いかける蓉子。
(頼む、持っててくれよ十兵衛!!)
「うっ……」
「ん? やっとお目覚めかい」
無影の背中で、十兵衛は意識を取り戻した。
「俺は……。
そうか、まさか本当に約束を守ってくれるとはな」
「皮肉たれてる元気があれば、まだ大丈夫だな」
「ふん……。 ほんの半日前まで殺し合いをしてた相手の背中に負ぶされる。
貴重な体験だ」
「双厳のお守りはお前以外には考えられないんでね」
「……誉め言葉として取っておこう」
幾分か俺の方が大人と言う事なのだろうなと十兵衛は思った。
「お、どうやらあちらさんも向かってきてくれたみたいだな」
前方から駆け寄ってくる双厳の姿がある。
「みんな無事だったか……」
双厳たちの顔を見て、やっと安堵の表情を十兵衛は取り戻した。
「まさか無影に助けられるとはね……」
先程十兵衛が言ったのと全く同じ事を命が言う。
遭遇した五人は、まず腰を落ち着ける場所を探し、
それから命と十兵衛の処置へと移った。
「すまん、十兵衛……」
双厳が十兵衛の前で頭を下げる。
「何いいってことだ。
全員生きていただけでもよしとしないとな」
「それじゃ、俺から話と提案があるんだが、聞いてくれるか?」
四人の会話が落ち着いたのを見計らって、一人距離を置いていた無影が
近寄って話を切り出し始めた。
(これから俺は、仲間を勧誘する。
さて何処まで演技することが出来るかな……)
そう思いながら、無影は離れた場所にいる監視の方をちらっと見た。
「貴様……」
静からながらも、無影の話を聞いて怒りを再び燃え上がらせたのが双厳。
なぜなら、無影は、ケルヴァンの元へ下ったと言う事を話したからだ。
十兵衛に対する負い目から抑えていた双厳も、この話には耐えれなかった。
命と蓉子も口には出してないものの表情は同じである。
「落ち着け!!」
場に十兵衛の声が響く。
「俺を助けたと言う事は、何か考えがあってのことだろう。
最後まで聞こう」
顔色が悪いながらもしっかりとした眼光で十兵衛は続けていった。
「流石、十兵衛。 話が早い」
にぃと笑うと無影は話を続けた。
「簡単な事だ。 俺の元に下ってくれ。
十兵衛の怪我の事もあるしな」
「それは俺達も中央に従って欲しいと言う事か?」
「そう言うことだ……」
ここから先は、更にひそひそ話をする。
「俺は先程話した通り、今中央へ行く事はできない。
だが、俺の紹介ならば、双厳達を捕獲ということで中央に行かせてやる事は出来る。
そこでなら、十兵衛の治療も十分にできる。
それに従っていれば帰還させて貰える確率も高い。
其方の方がお得だと思うんだ」
そして、四人にしか聞こえないように無影はそっと呟いた。
「後はお前達の自由にしろ」
と。
(どちらにせよ失敗しても成功してもお前にとっては都合がいいと言うわけか……)
四人は、ほぼ同じ考えを下した。
(お前達が反逆しても元の世界での関係を語れば言い訳は幾らでもできる……。
生憎と俺達は招かれた者のいないイレギュラーな召還らしく、情報がないらしいからな……。
それ故に、ケルヴァンのやつは俺の存在をより好都合といっていたくらいだ)
そして少し間を空けて。
「解った。 俺達も中央に従おう」
十兵衛が大きく声を張り上げていった。
「ありがたい!!」
無影も声を張り上げる。
他の三人も先の件もあり、流石の双厳も頭上がらず十兵衛の決断に従う事にした。
「じゃぁ、俺からそこの奴を通して連絡は入れておく。
後は、中央に向かえ。 俺は仕事をしなきゃいけないんでね」
そう言うとさっさと姿を消してしまう無影。
幸い、ここは中央の霧近くだから早く辿り着ける。
案内の必要はないだろうと判断したからだ。
(くっくっく……、いい感じに動いて来た。
俺達を召還させたと言う術……、それさえ手に入れることさえ出来れば、
もうまどろっこしく黄泉の穴を開く必要などない。
それまでは、精々仕事はこなさんとな)
双厳達が下ってくれたと監視役に伝えると無影は、命じられた狩りへと行動を開始した。
【柳生十兵衛@二重影(ケロQ)状態×(左腕欠損、貧血) 装備品 日本刀(三池典太光世)狩】
【双厳@二重影(ケロQ)状態○ 装備品 日本刀(九字兼定) 狩】
【命@二重影(ケロQ)状態△(背中に裂き傷) 装備品 大筒 煙弾(2発) 通常弾(9発) 炸裂弾(3発) 狩】
【皇蓉子@ヤミと帽子と本の旅人(オービット)状態△(左腕骨折)
(行動目的 当面は、十兵衛と命の治療と中央で情報収集)
【無影@二重影 (狩) 状態:△〜○の中間(消耗気味) 装備:日本刀(籠釣瓶妙法村正) 行動方針:魔力なしの駆除】
【武士達の晩夏後〜生きる意味】
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