情報戦
「ふむ、戻ってくるまでの間、お茶でも飲むかね?」
施設に残った二人にケルヴァンがお茶を進める。
「すみません、色々気遣ってもらって……」
純夏が彼の誘いを受ける。
「其方はいるかね?」
当初から彼のこの一連の行動の裏には、きっと何かがあると冥夜は踏んでいる。
少し間を空けて、彼女も返答をする。
「……かたじけない」
(少なくとも今敢えて敵対する理由はないだろう)
二人の返答を聞き終えると、
ケルヴァンは、奥へ行くと警備兵用のSETを持ち出してきた。
「すまんな……、このような場所には中央と違ってそれようの使いのものはいないのだ」
コポコポとカップへお湯を注ぐと、二人へ手渡す。
「遅くとも一時間もすれば帰ってこれる距離だろう、安心したまえ」
椅子に腰掛けるとカップに口をつけ、三人は、紅茶を飲み下す。
「でも、こんな施設よく目立ちませんね……」
一息ついて純夏が話し掛けた。
「ああ、中央の結果とまではいかないが、気付きにくくする術はかけてあるのでね。
人が道端に落ちてるただの小石を気にかけないのと同じように
この施設を気に止めないようにする術だ」
「い、石コロ帽子みたいですね……」
「それが何かは知らないが、まぁそんなところだ。
と言っても術に精通したものやかかりにくいものも当然いるのでね。
それに余り術の効果を大きくしても、今度は内部のものにも気付かれる可能性が高くなる。
だから警備の兵もそれなりにいるわけだよ」
「はぁ……」
冥夜は、理解できていたが、難しい話を聞いた純夏は、さっぱりという顔を示していた。
「ケルヴァン様!!」
奥から警備兵の一人が彼の元に駆け寄ってきた。
「なんだ?」
「あなた様の使い魔がきておるのですが……」
ケルヴァンが情報収集に使っている伝言に通信役ともなるおなじみの使い魔である。
「ふむ……、失礼、そう言うわけだ。 ちょっと席を外させてもらう」
そのまま彼は、席を経ち使い魔の待つ個室へと向かった。
外のものを追い払うと個室で使い魔から彼は火急の情報を受け取る。
(む、北の結界装置に襲撃者有り。
それをユプシロンが撃退との事だが……。
鑑識の結果が妙だな。 壊すのではなく、何かを弄っていたようだとあるが……、まさか!?)
調査をした彼の配下の者からの報告によると壊そうとした後は何もなく。
なぜか、後付けされた放送用の機器が弄られた痕跡があるという事である。
智将であるケルヴァンの頭に嫌な考えがよぎる。
(だが、そんな事ができそうな者がいるだろうか……、いや確定しているので二人いる!!)
彼の頭にまっすぐに浮かんだ人物はナナス。
そして科学の道に詳しい技術者としての腕も高い江ノ尾忠介。
他にも現在動いているイレギュラーな数人の中にも可能なものがいるかもしれない。
(まずい!! 起こった時刻は、私が移動していた時。
既に一時間は確実に経っているではないか!!
くっ、中央にいれば早々に対応できたものを……、いや後悔するのは後だ、対策を立てねば)
ナナス達が何をやろうとしたのか、寄せられた情報だけでほぼ判断したケルヴァンもまた智将といって差し支えないだろう。
(まてよ……、あれは音ではなく魔力による放送だ。
それを何とか逆手に取れないだろうか……、そうだ、そう言う方法があるか!!
クックックック……、それならば此方にもやりようがある)
持ち前の機転のよさで彼は直ぐに考えを決めた。
(放送を行なった場合、中央からジャミングが自動的にかかるようにし、
魔力資質者以外にしか聞こえないようにする。
この方法ならば、感知するセンサーは中央のものであるから外部から阻害される事も気付かれる事もないはない。
恐らく大混乱が予想されるだろうな……。
この状況下で、魔力資質者以外に聞こえるということ!!
それは罠としかとれなくなる自殺行為となる。
後は、一網打尽にしてやればよい)
我ながら名案だと考えながら、ケルヴァンは続けて思念波で渡される情報を読む。
(中央に従うものが来ただと?
まさかあの放送でヴィルヘルムに従う者が本当にいたとは……。
だが、まぁ彼のような奇人が現にいるのだ。
類は友を呼ぶと言う事もあるしな……、なに、山本悪司!?)
勿論、悪司の身に何が起こったかの情報は前に届いている。
(他のものは、これといって反逆する要因もそのような行為を取った前例がないから有りえるかもしれん。
だが、こいつはどう考えてもよく中央に入れたなとしか思えんな。
意外に軟弱な男だったのだろうか? 危険因子は即排除したい所だが、
前回、少々やりすぎて一辺に三人を消してしまったからな。
これ以上迂闊な行動に出ると私の身が危なくなる。
現状では、彼への監視はきつくするくらいしかできんな)
ケルヴァンから配下への伝令を受け取ると、使い魔は再び元の仕事に戻るため後をした。
しかし、九郎は、中央に来て直ぐに奏子の部屋にいったため、
他のものが知る事がなく、情報が隠れされてしまっていた。
ドライが担いでいた時も、横から見れば仲間の負傷者を回収くらいにしか見えなかったのだから。
「おっと、少し時間がかかりすぎたな。
彼女達の所に戻るとするか……」
【鑑 純夏 マブラヴ age 状態 ○ 持ち物 なし 狩】
【御剣 冥夜 マブラヴ age 状態 ○ 持ち物 刀 狩】
【ケルヴァン:所持品:ロングソード 地図 状態△(魔力消耗気味) 鬼】
ケルヴァンは細工と神風の件から大分経ってるのである程度回復したと見て気味にしました。
【機神立つ〜始まり、終わる】
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