生きる意味
「はぁはぁ……」
闇に乗じて、その場を脱出したななかは走っていた。
「見てなさい、絶対にみんな殺してやるんだから!!」
やがて、日が戻った時、ななかの目の前に片腕の男が現れた。
「追っ手!? いやでもあいつらとは違う気がする……」
ななかは、距離をおおいて様子を伺う。
「僕は君に危害を加えるつもりはない。 話を聞いてくれないかな?」
男は……、和樹はそうしてななかに話し始めた。
・…………
それから和樹は、交渉に入った。
ななかも手傷を負っていた為に、彼の話を聞いて様子をみようとしていた。
「ふ〜ん……、つまりあなた達に従えば犯人も解るってこと?」
「うん。
放送の通り、召還された人たちの中には、強い人の魂を取る危険分子がいるみたいなんだ。
多分、君のお姉さんも……」
「なるほどね……、じゃぁ比良坂初音は絶対に違うんだ?」
「彼女の性格上、絶対に有り得ないと思う。 中央の人間である僕が保証する」
「じゃぁ、あなた達と手を組めば、お姉さまの復讐もできるってわけね」
「それに君の安全は、僕が保証する。 だから……」
「わかったわ……」
そう言うとななかがにっこりとした笑顔で和樹の傍に近づいてくる。
「良かった。 それじゃ、僕と一緒に、……が!?」
ななかの爪が和樹の腹に突き刺さる。
「もう決めてるの。 この島にいる人は全部殺すってね。
だからあなたも殺す。
でもありがとう、あなたのおかげで大分情報が手に入った」
(しまった!! くそ!!)
不幸にも和樹は、ななかが命を襲うシーンを見ていなかった。
そしてななかが少女であった事が油断を誘い、災いした。
彼が捉えたのは、闇に乗じて走っていた彼女の姿。
もし、彼女がどんな人物であるかを知っていれば、無影のように仕留めにかかっていただろう。
(腹部損傷・……、損傷率60%突破。
でも僕はこのままじゃ死ねない!! こいつを野放しにしちゃダメだ!!)
「あら、アンドロイドだったのね……。
通りでこれで死なないはず」
「ぐが……」
和樹が悶える。
「でもこれでオシマイよ!!」
そしてななかは、もう片方の腕を和樹に向かって振り上げた。
「っ!?」
彼女が腕を動かそうとした時、それより早く和樹がサバイバルナイフを彼女の胸に突き立てた。
「この程度じゃ私は……あぁぁぁあああああぁぁぁぁ!?」
和樹から大量の電気が、電撃となって彼女の身体へ送り込まれる。
腹から、腕を通してナイフから……、持てる電力の全てを振り絞って和樹は、電撃を浴びせつづける。
「……あ、あんた、し、心中するつもり!?」
「君のような人を平気で殺せる殺戮者を野放しにする事はできない!!」
「……じょ、冗談でしょ。
私はまだ死ぬつもりは!!」
ななかは、腕を引き抜こうとする。
だが、ナイフを手放した和樹が彼女の腕を掴み離さない。
「は、離してよ!!
ああぁぁぁあああぁぁぁぁああああ!!!!!!」
「!?」
離せないと見たななかは、もう一方の腕を和樹へと振り上げる。
(ダメか……!?)
ボン、と音がしたと思うと、ななかの全身が発火し始める。
とうとう彼女の身体が耐熱の臨界点を超えたのだ。
「そんな……、お姉さま……」
和樹は、燃え尽きる彼女の腕を離した。
するとそのまま彼女は後ろへ倒れ崩れていく。
唯一、和樹の腹に突き刺さっていた爪だけを残して、ななかの身体は灰と消えていった。
「勝った……」
和樹は後味が悪かった。
確かに彼女は、殺戮者だった。
しかし、その要因は大切な人を殺されたからと言っていた。
もしかしたら、このように狂うことなく、
もしかしたら、再び正しい道へと戻れたのかもしれない。
だが、極限の状態で、和樹に選べる選択肢は一つしかなかった。
彼女を殺すか死ぬか。
末莉のために、和樹は死ぬわけにはいかなかった。
そして、彼が取った選択肢の結果が今ここにある。
(損傷率75%……行動不能、内部電力も残り少ない……。
このままいけば、間違いなく僕は死ぬ……。
あれ、僕は機械だ……、死ぬというのはおかしい。
メモリーさえ無事なら、修理できるはずなのに……)
「大分てこずったようだな」
「その声は……、ギーラッハさん」
倒れた和樹の傍に、十兵衛と闘い終えたギーラッハが姿を現した。
「悔やんでいるのか? 人を殺した事を?」
「……使命を果たしただけです」
「例え後悔したとしても、自分の選んだ道を信じた道を歩みぬくのが己の信義だ」
「…………」
「ふっ、その様子では動けんだろう。
ケルヴァン殿の元へ運べば良いかな?」
「ええ、修理して貰わないと無理ですね……、すみません」
「なに、気にするな。 己も少々休息が必要なのでな」
左腕で和樹を担ぎ上げるギーラッハ。
「右腕、使えないんですか?」
「強敵だった……。 その結果だ、誇りに思う」
敢えて、和樹は結末を聞かなかった。
語るギーラッハの顔を見て、聞かない方が良いだろうと判断したからだ。
彼もまた苦悩してるのだと和樹は、思った。
「この機にしばらくゆっくりと考える事だな」
和樹にそう呟くと、ギーラッハは彼を運び中央へと向かっていった。
【ギーラッハ@吸血殲鬼ヴェドゴニア(鬼) 状態:△(右腕は完全に接合するまでは力入らず) 装備:ビルドルヴ・フォーク(大剣)】
【友永和樹@"Hello,World" (鬼) 状態×(右腕欠損、腹部破損、行動不能)】
【FM77/ななか@超昂天使エスカレイヤー(アリスソフト)死亡】
突き動かされし慟哭
【遭遇戦〜満月】
生きる意味
【満月後、武士達の晩夏後〜】です。
前話
目次
次話